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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
163/307

先行部隊

投稿遅れてしまったのに理由は特にないです。はい。


 《魔界執行官》の隊服を手に入れた次の日。


 四天王《棺》のヘイディーズ・エンド……略してヘイドさんが敵の動きを察知したとの報告で、再び会議が開かれた。

 状況は、見た目は恐い骸骨の死霊術師であるヘイドさんが放った使い魔のゾンビ鴉が、クライル海岸の駐屯地から《神軍》の先行部隊が動き出したらしい。


「ヘイド。これは事実なんだな?」

(まこと)であります、陛下。それと………使い魔が三匹ほど、敵に察知され始末されました」

「お前の使い魔が気づかれるとなると……」

「連中の中に相当の手練がいるかと」


 ヘイドさんの使い魔は、五感が優れた獣人すらも気付けぬほどの薄い気配、死体特有の異臭も無く、死霊術による死体操作で魔力の漏れなども完全に防いでいるという、完璧とも言える代物。

 使い魔に気づくには、獣人以上の五感を持ち、直接視野に入れたということ。


「……更に、全ての個体が『同じ業物の剣』で切り裂かれております」

「…………よくそこまでわかったな」

「これでも愛情を持って作っているので」


 理由になってない。

 取り敢えず、世界最高峰の死霊術師が伊達ではないことだけわかった。


「……そう考えると、使い魔を倒したのは同一人物となるのか」

「使い魔が最後に映した光景も、その神徒を瞳に映してから切られております」

「……視線を感じ取ったのか?」


 そうやって話に出た奴ってだいたい敵の重要人物の一人とかじゃん!!

 心の中で叫ぶが、何も解決しない。


 キィーーーーン………


「………ん?」


 今なにか聞こえたような……はぁっ!?


「ハイハイハイ!」

「どうした突然……喋っていいぞ」

「俺が放った斥候が一刀両断されました」

「……なんだと?」


 正確には、クロエラが作った魔導人形……自立可動式のマネキンだ。

 そいつを拝借した上に、魔改造した奴を斥候として四体送ってたんだけど、全部切られた。


「……勝手な行動は慎め」

「無理です」

「……………はぁ」


 無理なものは無理です。


「まぁ……《魔界執行官》として潜入任務をしただけですから、なんの問題もありゃしません」

「……そうか。ならアレク。お前に任務だ」

「えっ」


 嫌な予感。


「《魔界執行官》として先行部隊に突撃して潰してこい。生き残りの有無は問わん。いいな?」

「………御意」


 なんか仕事が割り振られたんだけど……

 いや、当たり前なんだけどね?

 うちの職場は元々、対堕神の為に設立されたものなんだし……当たり前なんだけどねぇ?


 さて、確か先行部隊は……海岸に一番近い廃村の噴水広場に居るな。

 おっと、そうだ。


「ニーファ…いっしょに…」

「我はその執行官とやらでは無いぞ」

「はぁ………死んだら宜しく」

「………縁起でもない事言うな」


 ニーファは俺と一緒に食前の運動(先行部隊殲滅)に来てくれないらしい。

 酷い女だ。

 まぁ、そこが良いんだけどね?


「カドケウス」


 アイテムボックスから魔神杖カドケウスを取り出して蛇の頭を撫でる。

 魔神の残留意思だかなんだか知らんが、使って貰えることへの喜びの感情が伝わってくる。

 これで会話できたら良かったんだけどね。


 一応、俺が戦ってる相手や状況を確認できるように、クロエラ製の球状展開画面(モニター)を設置する。

 多方面からの撮影を可能にする撮影機であり、(はえ)サイズの小ささで、元から小回りが効く上に、更に魔法付与によって機体に攻撃反応が近づいたら視覚に映っているの場所に転移して回避できる様にもしてある機体を手にとる。

 これは俺とクロエラの共同作品だ。


「それじゃあ、失礼」


 結界を張ってある村や街には予め座標をセットして転移できるようにしてある為、魔法を発動させて瞬時に目標地点まで移動し、俺は魔王城から消えたのだった。





 そして、移動したのは石畳の廃墟の二階。

 ちょうど、彼らが居る噴水広場……水は枯れてるけど……それが眼下にある。

 そして、周囲を警戒している神徒が……一人と魔族が八人。

 俺は握っていた拳を開いて、蠅型の撮影機を静かに空にばら撒く。


 ……やっぱり、《真の魔族》というだけあって全員が魔族だな。

 少し尖った耳に、血筋によるが生えてる人は生えてる(俺は生えてない)様々な形状の角。

 ………三千年前の魔族も姿は同じなのかな?

 先行部隊に選ばれたのが精鋭なのか捨て駒なのか知らないが、現代魔族と比べても覇気が違う。

 こう考えると、魔統神の視点から見れば今の魔族は落ちぶれたのかもしらない。


 ………ん?《神軍》って神徒の集団じゃなかったっけ?昔の魔族っぽいので構成されてない?

 ……いやまぁ、神徒ってのは最初から神格を持つ者がなるって訳じゃなくて、地上の種族……人族や魔族からも選ばれてたらしいしね。昔は。

 今の時代の神徒は全て見習いの下級神で、上級神が各世界の管理を、中級神はその下に就いて仕事をしているのがほとんどらしいけど。


 そう考えると、あの魔族たちは魔統神に付き従って共に封印された戦争の生き残りか。


 雑念を抱きながら、俺は廃墟の壁に腰を掛け、彼等の動向を上から見守る。

 ……そういえば、俺の状況を作戦会議室で見えるようにしってるんだったな。サボってんのがバレる。


「………っ!

 そこに居るのは誰だ!」


 やっと先行部隊の中で唯一の女性っていうか、唯一の神徒が俺に気付く。

 コイツは……今気づいたけど、俺の人形を切った奴だな。


 取り敢えず煽るか。


「初めましてみなさーん……僕はつい最近軍に入隊したお喋りマンです〜!そこの不審者の皆様はどちら様でしょうか〜?」

「……私は魔統神様の忠実な臣下、エインシアだ」


 素直に自己紹介されたんですけど。

 想定外だわ。


「貴様の顔、どこかで……」


 エインシアは何かを思い出すように頭を捻り出し、ほんの数秒悩んで答えを導き出す。


「…思い出した!…《大天敵(アークエネミー)》アレク=ルノワール……!!」

「えっ、ちょっと待って?」


 話の腰を折って済まない。でも気になる。


「《大天敵(アークエネミー)》って何?」

「……ん?陛下や他の神がそう呼んでいたから、私もそう呼んだだけだが?」

「…これからは《大天敵(アークエネミー)》って名乗ろう。カッコイイし」


 何に対しての天敵なのか知らんが、相手がそう呼び始めたんなら喜んで使わせてもらう。

 ……自分で考えた異名は嫌だけど、他人から言われた異名は平気なのが人間(魔族)の不思議だよね。


「取り敢えず話を戻そう。なんの御用でこんな場所に?」

「先手必勝以外の何ものでもないが」

「エインシア様!貴女は口を開かないで下さい!駄々でさえ情報漏洩が酷いんですから!!」


 部下の敵魔族にすら言われる始末。

 大丈夫なの?この神徒。敵だけど凄く心配。


「ゾンビの鴉を切ったのは?」

「私だ」

「動くお人形を切ったのは?」

「私だ」

「喋るなって言ったのに……」

「……入国パスポートはお持ちですか?」

「ないっ!」

「では不法入国ですね!死んでください!」

「戦いか!戦は得意だぞ!」

「……それ以外役に立たないでしょう」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何も!お前ら、エインシア様から離れるぞ!」


 エインシアが背負っていた大剣を抜き横に払う。

 他の魔族たちは噴水から蜘蛛の子を散らすように距離をとる。


 俺は魔神杖を手に立ち上がる。

 エインシアは大剣を俺に向けて名乗りを上げる。


「我が名は《柔剛(じゅうごう)の神徒》エインシア!陛下に仕える《魔皇四将》の一人なり!」

「《魔界執行官》のアレク。手荒い歓迎を全力でプレゼントして差し上げます!喜べ!」

「いざ、尋常に……勝負っ!」


 キィィインッ!!!!


 同時に動き出し、俺の魔神杖と敵の剣が甲高い音を上げながら激突し、飛び跳ねて後方に離れる。


「……っ!硬いなぁ!」


 意外と硬い剣だな!

 カドケウスぶつけたら折れると思ったのに!

 俺が無理難題を思考すると、魔神杖から怒りの感情が伝わってくる。


「あー……自分は杖であって剣じゃない?………その、なんだ。《魔神器》なんだろ。がんばれ」


 シュンとした悲しい感情が流れ込んできます。

 辞めてください。戦闘に集中できまさん。


「ふっ!」


 剣と杖による火花散る高速の移動戦闘。


「素晴らしいな!お前の動きは!」

「本業は普通の魔法使いですけどね……っ!」


 さて。そろそろ本来の杖の使い方をしないとな。


「《紫電招雷》《神羅刃風》《土針棘串》!」

「っ!?………ちっ!」


 紫の雷と風の刃と土の槍が同時に放たれる。

 エインシアはそれを上手く躱し、大剣でいなしながら避けていくが、俺達の戦闘を後目に……というかエインシアを囮に先に進もうとしていた先行部隊の八人も巻き込んで血の雨が降り注ぐ。


「ギャッ……」

「いっ、つっ……」

「っ!………部下の邪魔はさせん!」

「あー…めんどくさいタイプだ。あんた」


 職務に忠実で、主君に忠誠を誓い、戦に生きる意味を持ち、更に部下の事を大事にする人種。

 色んな意味で眩しすぎて仲良くできない奴だ。

 敵ながら精神的に痛めつけてくる(被害妄想)。


「…はぁっ!!」

「っ!?」


 いきなりエインシアの大剣の刃が鞭を振るうようにうねって攻撃してくる。

 これは……!?


「はっ!驚いたか?これが私の剣!《形状剣アインシュッド》っ!!柔らかくも硬くもなり、剣の材質すらも変化する神剣だ!」

「説明どうもありがとう!?」


 つまり、柔剛の名の由来はその剣か!

 形状や材質を自由自在に変化させる事が出来るのか……厄介だな。


「ふっ!」

「うおっと!?」


 杖で抑えた所から、大剣が二つに別れて二又の剣に変化し、杖を無視して俺に突き刺さろうとしている。

 勢いで後ろに下がって避けるが、相手も間髪開けずに追撃してくる。


「トドメだ!」

「……っ……あっ」


 とうとう神剣が魔神杖を掻い潜り、綺麗に肉を断つ形状に変形して、俺の脇腹から身体を両断する。


「〜〜〜〜〜〜!!!」


 声にならない痛みが身体を切られた事を実感させられる。

 その隙に、エインシアは俺の手や肩の腱を切り、戦闘不能の状態にする。


「くっそ………動けやポンコツぅ…!」

「……哀れだな」


 胴体と使えない腕と唯一動かせる頭だけの状態になった俺を、エインシアは哀れみの目で見つめる。


「……貴様は強い。陛下が求める《真の魔族》そのものだ」


 《形状剣アインシュッド》を俺の眼前に突き立てながら、彼女は敗北者を見つめる。


「陛下の軍門に下れ。アレク=ルノワール。さすれば、貴様は生き残れるぞ……どうする?」

「はっ……命を乞う、ねぇ……」


 まったく。


「なぁ、エインシアさん……お前ってバカだよな」

「……何を言っても現実は変わらんぞ」

「いや、変わるも何も……周りを見渡したらどうですか?」

「ん?…………っ!?」


 俺の言葉に素直に従って、周囲の惨劇を見たエインシアの眼が驚愕に広がる。


「っ!?何をした!アレク=ルノワール!」


 広がっていたのは、彼女がつき従えてきた先行部隊の七人の魔族の亡骸。

 雷で焼かれた者、身体を切断された者、土の槍で串刺しにされた者。

 そして……


「アンタって魔法使いを相手に戦ったことありゅ?」


 エインシアに愚痴を吐いていた八人目の魔族の首を空高く掴みあげていた()

 彼女の足元にいた俺は、泥のように地面に溶けて、その姿を無くしていく。


「……どういう、ことだ?」

「途中で実体のある分身に変わって、福利厚生の為にゴミ掃除をしてただけだ」


 気付かないのは問題だと思う。

 実力的には、今の魔族では勝つことが難しいかもしれないが、魔法による意識誘導と身代わりとの転移交換に気づけないんじゃあ、《魔皇四将》とやらを名乗る資格とか無いんじゃないの?

 ……と言っても、俺が理不尽の塊なだけだから、普通の魔法使い相手だと気づけたかもしれないけど。


「多分、コイツらって三千年前の魔族だろ?……《真の魔族》ってこういう雑魚の事を言うのか?」


 戦争を生き抜いたにしては弱いし……あ、後方支援で生き残ったタイプか?


 エインシアは、仲間を侮蔑された怒りを顔に浮かべ、俺への困惑の視線を向けながら、再び俺に敵意の目を向けて剣を向ける。


「敗北を認めてご主人様の所に逃げたら?」

「ここで逃げては陛下に顔向けなどできん!」


 そっかぁ。

 じゃあ………


「《第2ラウンド》を始めようか」


 ……あ、悪いこと思いついちゃった♪

 俺は悪い顔を浮かべながら、杖を握るのだった。


次回に続く。

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