アレクの異空間
「諸君に集まってもらったのは他でもない。
俺の異空間を自由に行き来する権利を与える上で重要な話があるからだ」
某日。
俺はいつものメンバーであるニーファ、メリアとプニエル、デミエル、ウェパル、エノムルを呼んで異空間の一つ、『快適居住空間』に集まっていた。
「わざわざ俺を経由して異空間移動するのも大変だろうし……尚且つ俺が面倒臭いから二人に権限を渡す」
「む……やっとか」
「ありがとうございます、主様」
「マシタ〜?プニエルには〜?ねぇねぇ〜!けんげんちょーらい!」
「おっきくなったらね」
「むぅぅぅ〜!!!」
最近プニエルの我儘が増えてきたな……まぁ成長するにあたって喜ばしい事だし、可愛いから大抵の事は許すが、異空間に限ってはダメだ。
異空間を使った隠れんぼとか鬼ごっこされても困るし、触ったら南無の奴を触られても困る。
「取り敢えず、プニエルとかが行く時は俺たち三人の誰かの許可と、同行……一緒に来てもらうこと。それが守れなかったらダメだからね」
「…はーい」
聞き分けが良いのが救いだ。
さて。本題に戻そう。
「一応、改装した『素材置場空間』には二人とも入ってるから説明は良いよな?てか前したし」
「構わんぞ」
「大丈夫です」
「じゃあ『魔導倉庫空間』と新設した例の場所に順に案内してくから」
居住空間の壁に取り付けられている二つの扉。
上に『素材』『魔導』と書かれた看板が立て掛けられており、その扉の行先が定められている。
この扉は空間と空間を繋げる魔導具で、大きさは3メートルという高さ。開け閉めはスライド式……エレベーターの様な扉なので楽にできる。
「そう言えばこのドアに名前ってあったのか?」
「んー……っとねぇ……えっとぉ」
物が飾ってあったり保管されたりとは別の異空間とは別物の存在であるアイテムボックスから魔導具一覧書なる本を出す。俺が持ってる魔導具を随時書き記しているのだ。
アイテムボックスは、魔神杖カドケウスや獄紋刀、貨幣、食料、野外セットなどが入っている。
まぁ、生活必需品だな。
「……それ見んとわからんのか」
「記憶できないぐらい持ってるからね」
「うわぁ……それお金管理とか大丈夫なんですか?」
「俺に任せろ!多分大丈夫だ!」
「………今日から金銭管理は私がします」
「「そんなぁ!?」」
何故ニーファも驚くが分からんが、俺たちの懐をメリアにガッツリ握られたんだが。
これじゃあ、こっそり買ってる諸々の道具とか玩具とか食べ物とかの密輸が大変になるぞ……っ。
「あったあった。『神隠しの門』だってさ」
「……神隠し?」
「……門、ですか?」
「俺に聞くな。ダンジョンに聞け」
ダンジョンは宝の宝庫だ。
希少素材、魔導具、古代遺物などなど……下に行けば行くほど価値が高い代物に巡り会える。
俺達は修行の意も込めて近場にある『世界樹の地下迷宮』に潜り込んで暴れ回っている。
既に80階層まで踏破したので、現在到達している最高記録87階層をもう越しそうである。
冒険者界ではヤバイ連中ランキングに君臨しているらしい(鉄剣リョーマ曰く)俺たちの行動は注目されており、よく話題に上がるのでダンジョンに挑むのは正規の入口からではなく、転移魔法を多用しての攻略である。
一応、階層突破を示すためのギルドのダンジョンカードと呼ばれる物があり、今いる階層の数字と、最高記録、現在の状況などを軽く明記してくれる。
コイツをギルドに提出すればランク上げや評価が上がるのだ。
80階層踏破を知らせたら、二度見されてガン見されて、「あ〜、貴方たちですか」的な感じでテキパキと仕事をこなされてしまった。
なんかギルド職員が慣れてるのがムカつく。
またやらかした方が良いかな?
この『神隠しの門』は地下迷宮の宝部屋の壁に立て付けられており、入口出口の二つ揃って一つの作品であるらしく、計四つあったので掻っ攫ってきた。それが今使われている扉である。
思考が逸れている間に扉を潜り、『魔導倉庫空間』に足を踏み入れていた。
磨き上げられた白亜の大理石の壁と床を持ち、天井はその逆で漆黒の素材で覆われている。更に、黒い天井の所々に宝石を埋め込んだことで「夜」を演出している。
全体が通路になっており、その一本道の両側の壁に埋め込まれたガラスケースの中に綺麗に展覧されている。
毎度言っているが、倉庫と言うより博物館である。
この構成は空間全体に施されており、めちゃくちゃ手を掛けた事がわかると思う。
これも技術と財力があるおかげだな。
「相変わらず綺麗じゃが……飾っとるのは物騒なもんばっかなんじゃよなぁ…」
ニーファが声を上げた様にここには便利な魔導具や綺麗な魔導具もあれば、危険物もある。
俺でも気を抜いたら怪我をする物もあるからね!
「……ん?こやつは『避雷針』とかいうのでは無かったか?」
「あぁ、全部飾ってあるぞ」
『天敗釘打棒』『音のトレブルクレフ』『虹の砲』『避雷針』『土龍骨剣』などの俺が造った武器たちやアンテラの天界出張骨董屋で買った曰く付きの魔導具とかが展覧されている。
使う際は普通に召喚魔法で呼び出せるぞ。
「…ただ飾るのも勿体ないし、改造して強くするかなぁ」
「……お主の武器は杖と刀で充分では?」
「相手を惑わして次は何が出るかを悩ませたり、対策をさせないように素早く攻撃出来たりするから重宝するんだよね。こうゆう無駄な事って」
飾ってある武器や防具、魔導具の性能や取扱方法を順に説明しながら歩き回る。
やがて十字路に入り、真っ直ぐ道は続いているが、左側と右側の通路の先には重厚な扉がある。
「真っ直ぐ行けば今まで通りの光景だが、左と右は見てわかる通り危険な場所だ」
左側に呪物や禁書が並べてあり、触ったら呪われる、呼んだら呪われるなんて代物もある。
無論、全ての禁書に呪いが付与されてる訳では無いが、最初は興味半分、恐怖半分で開いたものだ。
一応、確実に解呪出来るように魔神杖カドケウスを傍に置いて読んでいたのだが……この杖が呪い成分を吸ってるんだよね。
何を言ってるのか分からない?
魔神杖カドケウスは神造級のアーティファクト。
俺はコイツを夜天神アンテラから譲り受けただけで、詳しく知っている事は無かった。
せいぜい、俺の魔力に耐えきれて、意思がある程度存在するぐらいだ。意思というのは、あまり放置していると拗ねている感情がヒシヒシと伝わってくるような感じだ。慣れると可愛く思える。
そんな相棒の事を知る機会が会った。
『天界図書館』である。
その前に、この世界……《フォルタジア》について軽く説明しておこう。
この世界は数多ある異世界の中心地であり、上位世界。
神が暮らす天界が(手順を踏まないと行けないけど)頭上にあり、世界の地下(掘っても行けないけど)に閻魔大王が治める地獄が全ての世界を跨ぐように広がっている。
更に、位置関係に一切縛られず全ての魂が行き着く冥界が存在する。
つまり、この世界は神にとって重要な世界。
そして神々は名前は異なるが全世界共通と言ってもいいらしい。
無論、存在を保てずに消滅した神もいるらしいが、世界によっては今も信仰されているらしい。
そして本題。
《フォルタジア》とは別の異世界に強大な力を持つ魔神が存在していた。
その魔神は天父神や地母神と同じルーツ…つまり創造神によって誕生した原初の神の一柱。
異世界で力を奮っていた魔神だが、やがて召喚された勇者による様々な策で敗北してしまう。
そんな魔神は残りの力を振り絞り、とある神器を創造した。
それが《魔神器》と呼ばれる物…その内の一つが《魔神杖カドケウス》である。
魔神の意思がほんの少し宿っているこの杖は五つある《魔神器》の中でも優れた代物。
実はもう一つ《魔神器》を所有してたのがわかったのだが、それはまた今度にする。
……これをくれたアンテラの心情は謎だ。
単純に俺を強化する為か、コイツを杖として使わせて負の感情を抱かせないようにする為か、それとも女神の気まぐれか……まぁ、別にいいけどね?
おっと。また話が逸れたな。
「さて。みんなには右側を案内しよう」
「右は何があるんじゃ?」
「名前は『環境保護空間』で世話が必要な『もの』とか地形そのものが入ってる」
「……よく分からんのぉ」
新たに追加増設した『環境保護空間』とは、『パンドラの華』を閉まってある《監獄空間》を改造して希少な植物などを管理する空間を生み出した。
ここに《龍泉の湧き岩》も移動してある。
流石に居住空間に置かれてもみんな困るだろうし、下手に呑まれたら酔って大変だろう。
「まぁ、見せるからおいで」
空間内は巨大なガラスで区画分けされている。
このガラスには俺の魔力を載せた拳(下手したら敵の頭が吹き飛ぶ)のパンチを受けてもビクともしないように魔術が付与されている。
「このパンドラの華はいつかの南島の固有種だったんだが、俺が全部狩り尽くした」
「そういやそうじゃったの」
「んで、採取……もとい捕獲した『球根』に色々と実験をして品種改良を行ってみた」
「……お主、そんなことする暇があったのか」
「空間を歪めて時間の流れを変えれば出来る」
「それって俗に言う《神界》では無いのか……?」
「それは知らん」
パンドラの華は捕獲対象の水分や魔力、栄養の全てを吸収する恐ろしい植物だったのだが、俺の魔力を大量にあげてみたり、色々と調合したポーションを注射してみたりしたら、都合の良い植物が出来た。
「新生物『狂瘴華パンドラ』様々な成分のガスを出して対象を捕獲し、魔力だけを吸い取る様に改造した。ついでに俺に懐かせた」
「……やることが予想の斜め上すぎて理解出来ん」
「同感です」
狂瘴華パンドラは麻痺や弱体化、思考低下、身体に害のある瘴気を排出する。
このガスを利用して様々な薬品や武器が作れるし、敵の捕獲にも使えるので便利。
「一応、『龍泉の湧き岩』もあるが……酒に弱い人間が呑むと死ぬらしいから気おつけてね」
俺は魔族だし神化してるし、ニーファは神竜だから大丈夫。
龍泉の湧き岩を管理している箱の中は、無限に溢れ出る龍泉酒とそれを蓄える湖が段々状…棚田のように連なる湖が龍泉酒を貯めて流してを繰り返している。最下層には龍泉酒を更に異空間に収納するタンクが設置されており、既に専用異空間の八割が酒で溺れている。
一応、どの異空間よりも広くしたんだがな…
「あとは『金塊蜂の巣』とか『天女の命泉』とか………」
「我が知らん間に増えておらんか!?」
金塊蜂の巣は、世界樹のダンジョンで見つけた物で、金塊で出来た蜂『ゴールド・ビー』の巨大な巣をそのまま持ってきたのを置いてある。
ゴールド・ビーは、一匹の大きさはスズメバチ程度の大きさだが、巣の大きさは一軒家程ある。
女王蜂は人間大の大きさを持つ黄金の蜂だった。
頭に王冠を乗っけて、豪奢な杖も持ってたよ。
軽く意思疎通も出来て、
「安全な場所で養うし美味しい蜜とか上げるから僕の所に来てください、大切にします」
って言ってダンジョンでは手に入らない色んな種類の希少植物の蜜を献上したら、素直に喜んで着いてきてくれた。
ついでに魔力も流し込んであげたら忠誠を誓われてしまった。女王が誓っちゃったからね。
女王が誓ったから配下の蜂達も誓ってきたからね。絵面的にヤバかった。
「ほら。アレが『ゴールド・ビー』の女王様。やっほー!」
「……女王蜂って巣の中に居るもんじゃよな?」
「外に出て花摘んで冠作ってますけど……」
「外の世界より安全だからね」
まぁ、彼等の作る蜂蜜は市場に出回る事の無い嗜好品だったのが連れて来た一番の理由だな。
天女の命泉は、『神の国』のある浮遊群島に存在する癒しの泉で、肉体治癒、再生、解呪、構成などの神パワーで回復出来る世に出したら色々と凄い神の恩恵。
アンテラから聞いてスゲーって思ったんだが、
「一つの島にたくさん湧いてるから、一個ぐらい持ってても構わないよ?但し何処から盗ったのか場所を教えてね?てか盗るとこ見せて?」
と言われた為、一番端っこにあって使われた形跡の無い泉を頂戴した。
綺麗な女神像……いや、天女像の掌にある聖杯から溢れ出る霊水……これが本体だったので、コイツを壊すこと無く綺麗に根元から採掘して、綺麗に拭いてから此処に設置した。
一応、神様関係の物は大事にしたり、丁寧に扱わないと罰を喰らいそうで怖いからね。
設置した天女の命泉は天女像を中心に霊水が流れて神殿風にアレンジされた湖を満たしている。
傷ついたら魔法使わずにここで癒すのも有りだ。
「お主……常識の範疇って言葉知っとるか?」
「主様……常識の範疇なる言語をお知りでしょうか?」
「二人揃って同じことを言って僕を虐めてくる!?」
取り敢えず説明は終わったし、二人に権限を……と言っても全空間の行き来は流石に無理だが、ある程度の権限は讓渡しておこう。
結論。アレクの異空間は常識人や一般人が入ると発狂するか身体が固まって思考停止する。
……あまり他人を連れてくることは無いが、ここには近づけさせない方が良いな。
平然と物語に出てない代物を出してますが、裏でも進展があるという意味です。
女王蜂さんとか狂瘴華とか魔神器とかはこれからも物語に関わってくる予定です。