表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第四章 夏休みとお兄様
155/307

魔界執行官


 平和記念祭のちょっと前から同時並行で行われていた国家間の世界会議が終わり、各国の要人が祖国に帰っていく中、俺は魔王城に来ていた。

 同じく参加していた魔王である父さんやユメ達は、四天王《秤》のブロッケンの空間魔法で先に帰還したらしい。

 そして今、久しぶりの家族団欒の意を込めて帰ってきたら、父に呼び出されて執務室にいる。


 まぁ、ちょうど仕事をくださいって言いたかったし、渡りに船だな……

 発言だけ聞くとダメ人間にしか聞こえねぇ。


「突然呼んですまんな、アレク。実はお前に用があってだな……」

「なんでしょう」

「仕事欲しいか?」

「質問に悪意を感じるんだけど」

「まぁまぁ」

「自分からも言おうと思ってたことなんだけど……なんか都合の良い役職が欲しいです」


 我儘すぎてヤバいけど、現状こう言うしか無いんだよなぁ。

 俺の職業って冒険者と学生である事ぐらいだし。


「ユメに魔王の座を与えるとなると、お前の立場が無くなると思ってな……丁度いい役職を無いか探したんだが……」

「それでそれで?」

「無かった」

「無いんかい…」

「だから作った」

「なるほ………作った!?」


 そんな易々と作っていいんですかねぇ?

 職権乱用とかじゃないの?大丈夫?


「で……俺に合う仕事って何ですか?

 安全?ホワイト企業?残業代はでますか?」

「安心しろ。現時点だとお前しかいないから」

「ぼっち…」


 いやまぁ、そうだろうけど。


「本題に戻るぞ。ユメが魔王に着任するにあたって、お前の動向にも貴族たちは目を向けてな」

「うん」

「件の大会で優勝したり、神竜と死闘して婚約したり……」

「あー……うん」

「アレクの方が魔王に相応しいんじゃね?という陰言がチラホラあってだな」

「え、やなんですけど」

「そう言うとおもっての処置だ……」


 俺を魔王にとか期待せんでくれます?

 恐怖政治を初めて外道ハーレム作り上げるよ?


 俺が雑念を抱いている間に、父さんは俺の瞳を見て、新役職の発表をする。


「アレクの、アレクによる、アレクのための役職は……」


 その発言を異世界で聞くとは思わなかった。

 人民じゃないのね?俺一個人なのね。


「その名も《魔界執行官》」


 ……なんか物々しい名前のヤバそうな奴だな。

 あ、突然すぎて語彙力が無くなった……


「これは簡単に言えば魔王直属の部下のような扱いで、他国への密偵や隠密行動……という名の下のお飾りの役職だ」

「……これ他の貴族さんたち納得したの?」

「む?……世界会議前に集まって議題として上げたが?」

「みんなで考えたかぁ……」

「まぁ、会議内容を要約するとだな…」


魔界会議『議題名:アレクの今後について』


・娘のユーメリアが魔王になる

・息子のアレクに何らかの役職をつけなければ王族としてどうなのか

・取り敢えずなんか凄そうな役職つくろうぜ

・そうしようそうしよう

・《魔界執行官》ってカッコよくね?

・それいいね決定


「といった感じでな…」

「割と気楽だな……大丈夫か?この国」


 無論、紛糾した場面もあるだろうが、この国の貴族は……というか魔族って戦闘面以外で張り合うことは少ない。

 具体例だすと、


「あ、こっちは自分が担当するんでそっちお願いできます?」

「あー、別にいいよー。あ、でもまだ終わってない事業があるんだった…」

「しゃあないな…手が空いたらそっち手伝うから、はよ進めといてや」

「……がんばりまーす」


 こんな感じ(アレク目線の場合)で、基本的に領地間の争いは無く、お互いの事業に手を貸し合いながら平和にやっている。

 この話だけ聞くとコイツら魔族じゃないんじゃね?とか思っちゃうんだけど、長年の種族差別とか同族愛護で昔は混沌としていた魔族が一致団結しちゃって、どっちかと言うと人間の方が危ない世界を作り出したみたい……世界は不思議だなぁ。

 人間の方が怖いってよく分かるな。


 無論、領主によっては為政者としては頭のおかしい奴とか、他方の領地と喧嘩してる奴もいるし、地理的関係とか過去の因果関係が影響していざこざの多い地域もある。

 そんな連中でも、毎回喧嘩してるわけでなく、渋々協力し合う事もあるとか。

 まぁ、なんやかんやで魔族は平和です。


「今の所、執行官はお前しかいないが、お前の独断と偏見で執行官……部下を連れてくても構わん。我に入隊届を出す必要も無い……と言いたいが、何かしらの癖がある場合は報告書として提出してくれ」

「わかりました」

「ついでに言うとだが、この《魔界執行官》は単なるお飾りとしてでなく、近く起きるである神との戦いでの有用性が挙げられている」

「あー……《四堕神》とか言うアレですか」

「そうだ。既に封印が溶けていることが太陽、夜天の両者の教会から連絡が来ている」

「戦争になるんですか?」

「分からんが……歴史を鑑みるに、そうなるのは止むを得ぬだろう。彼らも自身の思想を持っているのだ。相容れぬのは仕方ない」

「そうですか」


 取り敢えず、俺にニーファをぶつけて来て殺そうとしてきた《天父神》は許さん。

 他の神は……あ、メノウとかいう神徒の御主人様は……まぁ倒す。

 他の二柱は……その時考えよう。

 全員倒さなきゃいけなくなるだろうけど。


「既に神の件は会議に参加していた者たち、軍の上層部や兵士にも伝達してある。まぁ、そこは要所要所にやるとして……アレク、読んでおけ」

「はい」


 父さんから渡されたのは……《魔界執行官》についての手引書だな。

 ……え、手引書?マニュアルなんかどうすんの?


「……一応読みますね」


 長文が凄いし何枚も紙を捲ったので要約すると、


・《魔界執行官》は魔王直属の精鋭部隊である

・個人を指す時は執行官と呼ぶ。(執行官○○)

・まとめ役にアレク=ルノワールを置き、以後この機関は彼の手で動かされる。

・戦時や緊急時にはアレク=ルノワールのみ、軍への作戦指揮や命令をする事を許可する。

・種族は魔族でなくとも良い。

・ 魔王の召集には逸早く駆けつけること。

・入隊はスカウト制。多額の納金や権力による入隊は却下。及び貴族間の手回しも却下である。

・その他諸々説明あり。


 重要なのはこんな感じかな?

 取り敢えず……


「俺に都合の良い役職だとよくわかった」

「先程も言ったが、砕けて言えばお前の公的な私兵だからな」

「んー……これって隊服とかあるんですか?なんかこう、《魔界執行官》だとわかる装飾品とか軍服とか帽子とか無いんですか?」

「既に立案はしてあるし、職人にも話は通してある。だが、お前の意見を取り込みたいと思ってな。作るのはこれからだ」

「……それって今から?」

「街に出るぞ」

「……まぁ自分の事だし、ちゃっちゃと終わらせますか」


 その後、父と二人……ではなく護衛付きで王族御用達の服飾店や鍛冶屋とが集まって会議をし、俺が所属する《魔界執行官》の隊服、帽子、装飾品の案が決定した。

 まず最初に俺の背丈に合わせるために、身長や腹幅などの資料を集めたのだが、魔導具として装着者の体型に合うように変形させればいいんじゃね?となって優秀な魔導具職人も集めて再度話し合った。

 まぁ、測った資料は無駄にはならない。うん。


「アレク様の軍服なんですが、二通り作ってもよろしいでしょうか!?」

「確かに…スカートとズボンの両方を作りましょう!!!」

「ボツだったとしても、潜入捜査で使うかもしれませんから!?良いですよね!!?」

「あ……えっと、はい。ご自由に」

「「「ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜!!!」」」


 目がギラギラしてて怖いよこの人たち。

 却下しようにも出来んかったわ。

 てか、確かに女顔だけど好き好んで女装しないからね?

 一回だけした事あるけど。


 結局なんか必要そうな素材があるか聞くと、結構希少価値の高い素材を冗談で軽く要求してきたが、手持ちにあったのでポイっと軽く渡したら発狂して崇められた。

 使えそうだと思って上げた素材は、《夜叉蜘蛛(やしゃぐも)の白糸》や《魔鋼石の塊》、《神竜の鱗(いらないもの)》などをプレゼントした。

 説明をつけるなら、

 《夜叉蜘蛛の白糸》は、ウラバラの森の奥地に住む蜘蛛から取った強くて丈夫な糸で……てか、結構希少価値の高い品物が高確率で手に入るからこの森は好きなんだよね。魔獣もそれなりに強いし。

 《魔鋼石の塊》は魔力を多く含んだダイアモンド…に近い固い鉱石。魔力をよく通せるから魔術の材料として高く売買されている。しかも塊。

 《神竜の鱗》は……偶に神竜形態になったニーファから落ちる古い鱗。古いとかいってるけど、強度とかは朽ちても変わらないらしいよ。


 どっちにしろ、俺の隊服の完成には時間がかかるらしいが、軍服とかはカッコよくて好きだったので楽しみである。


 話し合いも終わり、帰路に着いた時は既に夜。


「……なんか一番疲れたかもしれない」

「あれが職人というものだ…………諦めろ」


 夜の魔都に王族の乾いた笑い声が静かに溶け込んでいくのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ