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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第四章 夏休みとお兄様
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平和記念祭〜聖職者視点〜

初めまして!

本日より『民折功利(タミオリコウリ)』という名前で活動します。

MIN-ORI先生はご引退なされました(代替わり)!

名前の由来は、ミンオリを漢字表記して『民折』とし、『功利』はゲームのプレイヤー名から取っています。


どうぞ、これからもよろしくお願いします。


 ◆太陽教信者フィリップ視点


 初めまして。

 私がフィリップ=アステノイドだ。

 祖父が教会の枢機卿の一人で、父親は教会の武装組織である聖騎士団の団長を務めている。


 私が属する宗教は、ソレイユ教。

 太陽教との呼び名もあるが、祭典の際はソレイユ教と唱える事が推奨されている。


 対して夜天教は、神の名を冠する事はない。

 姉妹神を崇める宗教ではあるが、仕来りや宗教の理念など、様々な部分が違う。


 話を戻して、今日は世界都市全体が賑わう『平和記念祭』の二日目である、が……祭りが苦手である私は聖堂に篭って聖句を唱え続ける。

 ……無論、一日中では無いが。


 そして、ちょうど正午の鐘が鳴る。

 鐘楼の鐘が、荘厳なる音色を奏で、天を高らかに震わせる。

 仰ぎ見るに高き天井は、太陽と女神を戯画的に表したステンドグラス。

 地を照らす眩き神の権化──陽の光が聖なるステンドグラスを通して、静穏で神秘的な光へと昇華され、礼拝堂内に優しく降り注いでいる。

 奥の内陣部には、豪奢な祭壇。

 その周囲には無数の金の燭台が並んでいる。無数の蝋燭に火が灯され、微かな空気の動きが、霊妙なる光と闇の陰影を揺らめかせる。


 私は司祭服から常備している聖書を取り出し、該当するページを開き、祭壇の前に置く。

 そして、祭壇に聳え立つ十字の聖印と太陽に向かって、静かに黙禱(もくとう)しながら唱える。


「……“太陽は一何時も世界を見放さず、照らし続ける神の奇跡”……“天の光を浴び続け、故に(おの)の良心の言葉に耳を傾けなさい。それが主の御言葉である”……“主は常に貴方の良心を通し、陽の光を通して、貴方に語りかけるのだ”……」


 ソレイユ太陽聖書、第一章『天女福音書』。

 延々と聖句を唱え続ける。


 やがて全ての聖句を唱え終わり、腹が昼飯を要求し始めた時、聖堂に誰かが入ってくる。


「毎日聖句を唱え、身を清める熱心な信徒を持てて、私は幸せですよ。フィリップ司祭」

「!……これも神の導きですから。クリアス枢機卿」


 クリアス枢機卿。私の祖父だ。

 勇者召喚にも立ち会った人格者であり、教会で最も大きな権力を持ちながら野心を持たない人だ。

 私が教会内で最も尊敬し、敬愛するお方だ。


「本日は一体どの様な用が?」

「……はぁ」


 え?

 何故、溜息をつかれた?


「今日は『平和記念祭』ですよ?貴方は街に出ないのですか?」

「……愚かなことに、祭りは苦手でして」

「そこは昔から変わりませんね……でも、今回の祭りはソフィアも参加しているそうですよ」

「!……そうですか」


 ソフィア=アークシア。

 クリアス枢機卿の元で一緒に育った義理の家族。

 別の枢機卿の娘なのだが、他国への布教活動中に愚かな権力闘争に巻き込まれて命を落としてしまったことから、クリアス枢機卿に預けられて、一緒に育てられた。


 兄と妹のような関係か。

 ……ソフィアが勇者殿の側近となってから暫く会ってないな。


「……そうですね。勇者殿への挨拶も含めて、会いに行ってきます」

「そうしなさい。人の時間は有限です。大切に扱うことを主も求めておりますよ」

「はい」


 そのままクリアス枢機卿に会釈して別れ、私は聖堂を出て街に繰り出す。


 ……やはり苦手だ。


 色とりどりの旗が家々を繋ぎ、人々の喧騒や喝采が街を包み込む。

 これが平和というものか、戦乱の世を生き抜いた事の無い自分には昔がどれほど厳しいものだったのかもわからない。

 しかし、今を平和に生き、楽しく過ごせるのも神の御業と先人の卓越した歴史のお陰だろう。


 私は祭りを楽しむ人々の姿を背景に、自分について考える。


 太陽神ソフィア様に仕える信徒ではあるが、古き神の一柱である鏡面神の加護を持っている自分。

 その効果は飛来する矢や魔法攻撃、打撃すらも跳ね返す鏡の障壁を作り出す。

 また、写鏡の応用で自分の分身を生み出したり、広範囲に鏡の障壁を張って防御する事もできる。


 ……女神に誓い、仲間を助けると意気込んでいた昔が懐かしい。

 太陽神に仕える枢機卿の祖父と聖騎士長の父を持ちながら、名も知らぬ神の加護を持つとして一時期文句を言われたものだ。

 そこを祖父と父が停め、私の優位性を示したことで混乱は落ち着いたが……


 一度、その神には会ってみたい。

 何故、私に加護を与えたのか。

 何故、私の仕える神ではないのか。

 何故、私が─────────………


「あ、フィリップ!」

「ん?……ソフィアか」


 思考に深けていたら、勇者殿と強き仲間たちに出会ってしまった。

 しかも、ソフィアから気づかれるとは……


「元気そうだな」

「はい、フィリップも」


 相変わらず元気で何より。

 以前、腕を無くしたと聴いたが、見たところそこにあるので、治ったのだろう。

 如何なる方法かは知らんが、治してくれた者には感謝しかない。

 ……それを直接言うつもりは無いが。


「勇者殿、旅の行方はどうですか?」

「順調です。フィリップさん……でも、一つだけ気になることがあるとすれば」

「ん?何かあったのですか?」

「最近は魔獣の動きが静かでして。各地で暴れるといった様子もない。何かを感じとっているのか…」

「なるほど……それは他方に伝えてあるのですか?」

「はい。ほんの少しの変化でも、後に大きな異変が起きるかもしれませんから」

「懸命な判断です」


 恐らく、勇者殿だけでなく、他の冒険者たちも感じ始めているのかもしれないな。


「……では、私はここで」

「?一緒に回らないのですか?」

「……ソフィア、知ってると思うが私は祭りが苦手でね。ここで退散させてもらうよ」

「そうですか……」


 ソフィアの顔を少し表情を暗くさせてしまったが、これも私だ。すまんな。


 太陽神に仕える者の一日は、始まったばかりである。

 今日も今日とて、私は神に聖句を唱え、迷える者に手を差し出すのだった。


フィリップくんの話を書くために、各方面の微修正を加えまくりました。

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