平和記念祭〜聖王子視点〜
ミラノ視点に決まりました。
◆初めてのミラノ視点
どうも。ミラノです。
今日は『平和記念祭』なんだけど、市場に出て祭りを楽しむのは警備とか周囲への影響が大きいので、大っぴらに参加出来ないのが悲しいね。
今私たちが居る場所は各国王族の御用達であるカフェで、そこの二階のバルコニーで妻であるステラと茶菓子を楽しんでいる。
「ミラノ様、このクッキーも美味しいですよ」
「そうなのかい?じゃあ一つ頂くよ」
ステラに勧められてクッキーを口に頬張る。
ふむ……これは。
「うん。酸味が良い感じにマッチしているね……流石と言ったところかな?」
「ふふっ。やっぱり此処のクッキーは美味しいです。あ、マスター、追加でコーヒーを2つお願い出来ますか?」
ステラは丁度近くのテーブルを拭いていた店のマスターにコーヒーの追加を頼む。
「かしこまりました。しばしお待ちを」
マスターはステラの注文を受けてカウンターに戻り、コーヒーを作り始める。
老齢の域に差し掛かりながらも、衰えを感じさせない身の子なしは何時見ても尊敬する。
「……ミラノ様、身分を隠してお祭りに出るのはどうでしょう?」
突然ステラが私に提案してくる。
ふむ。
「なぜ?」
「同じ王族であるアレク様は平然と外に出てますから、ミラノ様も出て大丈夫なのでは、と……」
「あぁ〜」
アレク君は王族である意識とか薄いからな〜。
言っちゃ悪いけど、彼って国民にあまり知られてないらしいし……総評は低いんだよね。
妹に王位を譲ってどこかで好き勝手しているどうしようもない奴っていう魔界貴族からの総称。
一般魔族からは名前は知られてるけど特に何か偉業を残した訳でもないから曖昧にしか知られてないらしいしね。
………なんか可哀想に思えてきたよ。
「彼は王族としての知名度がないし、襲われても撃退できる力があるから出歩いてるんだと思うよ」
「そうなのですね」
アレク君は小動物的な見た目の割に腹黒いし戦闘方法は異質。相手にしたら最後、手加減抜きにされたら明日の日の目はみれないだろうな〜。
「うーん……でも身分を隠してなら行けるかな?」
マスターが運んできたコーヒーをステラと飲んで一息着く。
「当てはあるのですか?」
「まぁね」
さて、便利魔法の彼に助けてもらおうかな。
「テオラ、シュン」
「「はっ」」
「引き続き護衛は頼むよ」
「「御意」」
物陰から見守っていた近衛兵であるテオラとシュンを呼び出す。
テオラは我が国出身の美人騎士、シュンは東の国の和装を身に付けた武士という職らしい。
近衛兵である照明として彼の服には刺繍がしてあるが、みすぼらしいと言う人が多い。
カッコイイと思うんだけどなー。
「じゃあ、行こうか」
「ってことで変装系の魔法ってある?」
「ホントにいきなりだなお前」
はい、アレク君の寮にやって来ました。
特別生の寮の端っこに位置する彼等の部屋は、クロエラ君の魔改造によって空間が歪み、だだっ広い部屋が出来ている。
私はアレク君と対面に座り、ステラはソファの上でプニエルちゃん達と遊んでいる。
ニーファさんは既に食べ終わったのか、頬にフレンチトーストのパン屑を付けて、メリアさんと皿の片付けをしている。
護衛のテオラとシュンは壁際で黙って立っている。
「変装ねぇ……祭りか?」
「うん」
既に昼を過ぎているのに、寝起きの顔のアレク君とニーファさん。美味しそうにフレンチトーストを口に頬張り、欠伸をする。
「あるにはあるけど……どんな風にしたいとか注文はあるの?」
「注文していいのかい?」
「しなかったら、お前はハゲのデブに変えて、ステラさんは初な村娘のように……」
「悪意しか感じないんだけど?」
まず却下だよね。
これでもスタイルには自信あるんだよ?
それを無視されて変えるのは……あれ、もう変装じゃなくないかな?
「周りに馴染めるような普通な感じかな?」
「簡単に言うけど難易度高いからね?」
「お願いします、アレク様」
「ハイハイ……えーっと、ほい」
アレク君は目の前に無数の魔法陣が重なった画面を指で操作しながら試行する。
「えーっと、髪の色はこうで……瞳は…うん………身長とかは変えない方が違和感ないかな?」
なんでも幻影系の魔法らしく、身長や腹幅などを増やしたり減らしたりすると、他者との接触時にすり抜けるという違和感を引き起こすらしい。
「よし、ベースはこれで……じゃあステラさん、こっち来てください。ミラノ、お前も来てくれ」
「はい、わかりました」
「あぁ頼むよ」
呼ばれたので彼の横に並ぶ。
「痛みとか感じたら言ってね〜……じゃあ、行きます。3、2、1、はい《幻影変装》」
彼が魔法を唱えると私とステラの全身が淡い光を纏い、水に身体が包まれる感触を受ける。
やがて全身に泡が登ってきて、視界を泡が埋め尽くす。
「……ん、実験成功」
不吉な言葉が聞こえた気がしたが、頼んだのは此方なので聞かなかったことにしよう。
やがて泡が全身から引いて、その全容が明らかになる。
「か、変わった…」
「凄いでござるな…」
護衛の二人も驚いてくれてるようだ。
「《鏡面板硝》……これで見るといいよ」
アレク君が出してくれた全身が映る鏡を見る。
「おおぉ……」
そこには、茶髪と黒目に、普段とは少し顔の輪郭が違う自分が居た。
少しだけ素朴な印象を受けるね。
これなら、ミラノだとわかる人は少ないんじゃないかな?
そして、横を振り向いてステラを見れば……
「え、えっと……似合って、ますか?」
茶髪に碧眼、鼻の上にシミを持つ村娘となったステラがいた。地味めな姿なのに、何処か可憐で美しさを感じられる。
「似合ってるよ、ステラ」
「ミラノ様もカッコイイです」
二人で話していると、アレク君が食べ終わったフレンチトーストの皿を下げて再び欠伸をする。
「一応、身体の異変とかあったら言ってね〜、じゃあ祭り楽しんできて」
「君は行かないのかい?」
「なんの準備もしてない」
「なるほど」
彼のことだ。遅れて参加するのだろう。
「じゃあ、世話になったね。ありがとう」
「ありがとうございました」
「いいってことよ」
アレク君に礼を告げていると、近衛兵の二人が質問してくる。
「王子、我々も変装した方がよろしいのでは?」
「拙者らが着いていくと身バレするかと」
テオラとシュンは提案をしてくるが、私は見逃さないよ?君たち二人の目が好奇心でワクワクしてることぐらい。
「……頼めるかい?」
「二人も四人も変わらんだろ。いいぞ」
「ありがとうございます」
「かたじけない」
その後、二人も変装魔法をかけてもらってから、改めて礼を告げて部屋を出る。
最後にプニエルちゃんが名残惜しそうに手を振って見送ってくれた。
「今日は楽しもうか」
「はい!」
……あ、お祭りって何を買えばいいのか聞いてなかったや。
……多分大丈夫かな?
まだまだ視点は変わります。