黒魔術の勉強
ペラ……ペラ……
ページをめくる音だけが館内に響き、図書館に敷かれた絶対ルールを破ることなく静謐な世界が構成されていた。
『天界図書館』の絶対ルール。
書庫神ライリアは図書館のルールを破れば天罰を食らうことになると言っていた。
だが、このルールはタチが悪い。
何故なら、詳しく明記されていないのだ。
何をしたら罰則があるのか、何がダメで何が良いのか……その何もかもが記されていない。
故に、此処を利用する客は毎度その謎のルールを侵さないように慎重になるのだが………
「お、おい。それ大丈夫なのか……?」
「俺を信じろ」
「やってる事が信じれんのじゃ…」
小声で俺を心配するニーファ。
何を心配しているかと言うと、俺が本を読みながらこっそり魔法行使してるからだ。
無論、魔力が外に漏れないように十枚の結界を張ってある。
完全防音、魔力遮断、催眠誘導などの能力を持つ特殊結界を重ねまくってある。
催眠誘導。言ってしまえば人避けであり、近づく人間……此処では天使や神に微弱な催眠をかけて別ルートに進ませたり、反対方向に向かわせたりできる魔法だ。
神に通じるのか分からなかったが、現場検証の結界余裕で通じた。
こう見ると俺スゲーってなるな。
「あ、アレク!?」
「ん?……安心しろ。ただの黒魔術だ」
「黒魔術の何処を安心しろとっ!?」
俺が読んでいるのは『禁攻土神』と呼ばれる黒魔術の禁書。
さっき読んだ『黒魔術初級』ではとても良い勉強になった。うんうん。呪われてる……かはニーファ視点からだと確認出来なかったらしいから、多分大丈夫でしょ。
遥か古の時代に存在した黒魔術。
現在は禁忌とされており、俺がよく使ってる禁術シリーズは黒魔術と属性魔法を組み合わせた様なものが多い。
天の火たる神の雷を落とす《インドラの矢》。
原子崩壊を引き起こす災厄《メギドの火》。
破滅を導く星による最終審判《奈落の星の裁き》。
世界を氷点下に染め上げる《完全なる絶対零度》
全てを吸い上げ虚無へと消える穴《メビウスの輪》。
大地の水を枯渇させ滅ぼす《枯焉水滅》。
そして、俺が土壇場で作った複合禁術。
この全てが黒魔術に分類される禁忌である。
……まぁ、俺の複合禁術が果たして黒魔術に分類されるのかは議論(脳内議会)が必要だろうけど……
で・だ。
俺が使っていて、ニーファが慌てている黒魔術とは………
《ネクロ・オーン》
最高位の死霊魔術にして黒魔術の呪いや破壊の特性を融合させた古の魔。
図書館に置かれていた『禁攻土神』と呼ばれる禁書に記され、長く忘れられていた禁術。
手の平に展開される七つの魔法陣。
禍々しい紫色をした魔法陣は、ゆっくりと回転するだけで変化は起きない。
しかし、発せられる死のオーラだけは明確に感じ取れることが出来る……
「これ…使って平気な奴なのか?」
「ダメな気もしなくもないが、大丈夫だろ」
「その自身の出処は?」
「ないっ!」
「ダメではないか…」
この術は屍を集めて融合し、真の異形を作り産ます死体融合禁術である。
しかし……なぜ発動しないんだ?
「いや、発動せんで良いと思うんじゃが……」
「えっとぉ?………あ、死体持ってないから無理だ」
「良かったのじゃー…」
死体を多数、事前に保持した上に禁術を展開しなければ発動しないらしい。
てか、魔獣の死体は…………あ、全部お肉と錬金素材とか諸々に使っちまったかぁ。
俺の持つアイテムボックス……という名の異空間は多数存在する。
『快適居住空間』
プニエルやスライム勢が普段暮らしている空間で、偶に俺やニーファも入るため、結構快適な一室へとなっている。広さ的には空間拡張された学園寮よりも広く大きくしている。キッチンや浴室にトイレも設置され、更に三年分の食事が保管されてたりもする。
『素材置場空間』
俺やニーファが倒した生物の死骸やそこら辺で採取した物が適当に配置されてる。念じれば外に出すことが出来るので、空間内がどうなってるかはわからない。でも、血が着いてたりくっついてたりはして無いから、特に問題ないだろう。
『魔導倉庫空間』
俺が造って集めた魔導具や武器が博物館のようにガラスケースにしまわれている武器庫のような異空間。ヘルアーク武闘大会で実験として使った『天敗釘打棒』や『虹の砲』なども修理された状態で安置されている。
この三つの異空間を駆使して生活しているのだが……倉庫空間なんて自分で造った物を見て愉悦に浸るぐらいしか使い道ないし。
素材置場なんて念じてポンだし。
居住空間を一番使ってんだよなぁ。
「後で強い魔獣狩りするかぁー」
「む。我も呼べよ」
「あいよー……その前に本の内容記憶しとこ」
「呪われんのか?」
「何の問題もない」
『禁攻土神』という名前のこの黒魔術の書物は、古代に栄えていた魔術国家が確立させた禁術が記されている。
先程の《ネクロ・オーン》や《メビウスの輪》なども書かれていた。
しっかし……これの著者がなぁ。
「ゼシアって誰?」
「むーぅ?………どっかで聞いた記憶が。あるような無いような……………………無いな!」
「おい……凄い断言だな!」
こんな危ない本書くなんて、すごい人なんかねぇ?
「………もう夕方じゃの」
「…帰るか」
「うむ」
司書である書庫神ライリアに帰ることとまた来ることを告げて図書館を出る。
『神の国』の白い街並みに夕日の光が染み渡るかのように美しく広がっている。
そのまま浮島を渡り、下界に降りる。
「……また来っか」
「そうじゃの」
「いくー!」
今度はプニエルが読めるような本でも探すか。
勉強の為にも覚えさせたいしなー。
こうして、初めての天界は終わったのだった。