天窮の摩天楼
「検索!『天界図書館』の行き方ァ!!」
特別生の学生寮の俺の部屋……というよりパーティの共用部屋?の居間にて。
俺とニーファ、メリアは机を囲んで『招待状』を見て話し合っていた。
「……テンションが高いのはいつもの事として、これ、どうやって行くんじゃ?」
「魔力を込めれば転移できるって渡されたが…この紙切れにそんな力があるんかな?」
「夜天神様のお言葉に嘘は無いと……無いと思いますけど」
「結構、懐疑的だね」
元だけど、巫女だよね?君。不遜過ぎない?
「まぁ兎も角。タイミング的に今かな?行くのなら…」
「そうじゃろな……我も行った方が良いのか?」
「私も行くべきでしょうか?」
「え…来てくれないのかい?」
「「……………」」
…………これが『銀の翼』の実態です。
皆さん、これがメインキャラの実態です!
「……オッケェ。独りで行きます」
「わかった、わかったから。凹むな。な?」
「私は行きませんけど、二人で仲良く本でも読んできてくださいね?」
「いや来ぬのか……お主成長したのぉ」
メリアが別の意味で成長を遂げたんだけど。
あれかな?
復讐を終えて吹っ切れたのかな?
まぁ、主人としては嬉しい事だが。
「じゃあ、行くか?」
「行くかの」
「では、お弁当用意してきますね」
「よろしくー」
メリアは椅子から立ち上がり、キッチンへと歩き向かう。
彼女の弁当は美味しいから好き。
竜嫁の弁当は………食べたら死ぬ自信があるけど態々作ってくれたから好き……どうなんだろ?
「お主……我も作ればいいのか?」
「読心術!?……いや、今日はメリアの弁当で十分だろ……また今度、かつ上手になったらヨロ」
割とマジで天に召されるかもしれん。
「あ、プニエル達はどうする?」
「んむー……連れてくか?」
「偶には外に出してあげるか」
結局、プニエルやデミエル、ウェパルにエノムルを天界に連れていくことにした。
メリアから二人分の弁当を貰い、ニーファと手を繋いで招待状を持つ。
ついでにプニエルの小さな手も持つ。
さらにプニエルはデミエルやウェパルと手を繋ぎ、エノムルの上に乗って微睡んでいる。
手を繋ぐ理由は身体の一部を接触させてないと一緒に転移できないからだ。
ニーファ単体で行けないの?と聞いたんだけど、「天界の入口は空を飛んでも行けん」と否定された。
「じゃ、行ってきます」
「行ってくるのじゃ」
「いまーす!」
俺が招待状に魔力を込める。
すると、頭の中に無数の情報が流れ入ってくる。下手したら、頭がパンクして脳内オーバーヒートを起こしかねない。
「うっ……ぐ……すげぇ情報量」
ただ、その情報はとても為になるものだった。
天界図書館だけでなく、その他の施設、そこに居る神の名前等々……雑学レベルを覚えた。
……常人の脳では耐え切れないレベルの情報量で、その物量は神竜すらも殺せる事をアレクは知らない。流石、神に近しい身体である。
「よし、行くぞ!《転移》」
転移魔法を発動。
一瞬にして視界が切り替わり、俺とニーファ、プニエル達はその景色を目に収める。
見渡す全てが純白の雲で作られた大地であり、天を見上げれば青く澄んだ空が広がっている。
俺達が立つ雲の下には、広がる街並みと小さな雲の数々。
そして、鳥や竜がその下を飛び回り、時に衝突して争う姿を見ることが出来る。
『天窮の摩天楼』
地上からは視認する事が出来ない巨大雲海の上に存在する空の地上。
所々に点在する石造りの廃墟と、青く光る水晶の柱の数々。
そのどれもが神々しさを感じてしまう。
正しく、世界の管理者を名乗るのを認めてしまうほど、美しく荘厳な場所。
「……凄いな」
「ふわぁ〜、まっしろ!」
「…うむ。流石天界の入口と言った所か…ほれ」
「ん……おぉ」
ニーファの指差した先には、直立不動で立つ巨大な門。
白亜の壁に女神を象った像を乗せた二対の柱。
「『天空門』じゃな」
「へぇ……あれが」
俺達はその門に向かって足を運ぶ。
雲とは水滴の集まりなので、踏んだら沈むんじゃねと思ったが、足を取られることなく足を踏み出すことが出来た。
そして、門の前に立つと、目の前に一人の女性が降りてきた。
頭上に小さな光輪、背中には三対の穢れなき白い翼。この姿のまま誕生したとしか思えない完璧なプロポーションに、薄くも神々しい純白の布を纏った美女。腰まで長い紫の髪は一本一本が光り輝いているように見える。
「アレク=ルノワール様、ニールファリス様ですね?ようこそ『天窮の摩天楼』へ。私の名前はウルキナ。夜天神アンテラ様の神徒で御座います」
地面に降りたと同時に、穏やかで優しく、それでいて聞く者の居住まいを正させる凛とした微笑みを浮かべた天使……ウルキナ。
「…初めまして。アレクです。よろしく」
「長いからニーファと呼んで構わん。……にしも、側近クラスの神徒が来るとは思わんかったな」
「ふふっ。流石名高き神竜様。私の格も丸裸ですか」
にこやかに微笑んだ彼女は、俺達に再度向き直り、門へと手をむける。
「『天界図書館』まで御案内致します。ついてきて下さいませんか?」
「あ、じゃあ宜しくお願いします」
肯定すると同時に、固く閉ざされた門が開く。
ゴウン……ゴウン……ゴウン……
それは正に、鳴り響く鐘の音。
雲海全体に響き渡るそれは、身体の中すらも震動させる。
完全に開き切った門の先は、真っ白な世界となっており、その奥を目にすることは叶わなかった。
「どうぞ」
羽を羽ばたかせるウルキナの後を追って、俺達は天界の門へと足を踏み込むのだった。