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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第四章 夏休みとお兄様
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親の仇と狂い印

夏休み最後の投稿。

明日からの投稿頻度は著しく落ちるので、気長に待っていてね。


 サンオン山。

 巫女の里を囲うように存在する山々の一つであり、最も危険の少ない自然の宝庫。

 そして、獣王国への道が連なる坑道が存在する山である。


 その山の中腹にある洞窟に十人の男が集っていた。


「諸君らには感謝しかない。俺様が一族を率いる為に犠牲になった者達にも、感謝しかない!」


 洞窟内の広場で演説する兎耳の男。

 銀縁のメガネを掛け、夜天教の司祭服を来たこの男こそ、里長に次ぐ権力者であり、ナイツミデイン家の分家の長。

 ガンツである。


 二日前までは座敷牢の中でミミズのような縛り方で自由を奪われていたが、密かに忍んでいた部下の手によって救助。

 他に捕まっていた者達を引き連れ、時間をかけてこの山に潜んだのだ。


 里の本家には、獣王国に対する発言の権利が存在している。

 簡単に言えば、獣王国での重大な会議に呼ばれ発言することが出来る。


 それほどの力を持つ本家に嫉妬したガンツは夜襲を掛けて当主夫妻を殺害。そして巫女姉妹の内片方の姉は捕らえたが、妹は逃亡。

 姉を奴隷落ちさせて他国へと流せたのはいいものの、生き延びた妹のせいで里長に件がバレてしまった。

 遂にはそれを知った獣王の直属部隊から狙われて逮捕されたのだ。


 たった数日間の派遣は消え、居なくなった姉の跡を継ぎ巫女となったリニアに全て奪われる。


 そして、今ここに復活した分家筆頭の彼は里そのものを乗っ取ろうと愚策にも動こうとするのだ。


「この里を俺様の手中に収めるため、諸君らに力を与えよう!神の力だ!」


 その名は《天の知恵》という付与魔術。

 ガンツの左手に在る祝印が光り、部下の男達の体を包み込む。


 実際は神などでも何でもないが、それに近しい力を手に入れられると語られる付与魔術を彼は極めていた。それこそ、真に神に近しいと。


「おお……」

「流石ガンツ様!これならあの愚か者達も…!」

「やるぞ…やるぞ…!」


 力を手にし吠える男達を見て、ガンツは楽しそうに口を歪ませるのだった。


「さぁ!夜明けと共に向かおう!」


「向かわせませんよ?」


 刹那。


 広場に近かった二人の男が轟音と共に横に吹き飛ぶ。

 それは何かに殴られたかのように。


「な、なんだ、?」


 洞窟が崩れない程度の爆発と共に現れたのは、ピンクの兎耳アーマーメイド。

 手には煙を吹き出す戦棍を持ち。

 憎悪に染まった目で彼らを睥睨していた。


「貴様はっ!?メリアだと!?何故ここに…!」


 ガンツは心底驚いた顔で現れたメリアを睨む。


「…やはり王都では死なすべきだったか…」

「オークの件なら何の問題もありませんでしたが?……夜天神様の加護のおかげで」


 メリアがあの地を生き残れたのは、加護の暴走が原因だった。

 本来なら起こるはずはないが、精神が安定せず、無闇矢鱈に魔法を撃ったせいで加護が上手く動かず、メリアを中心に小規模な爆発を起こしたことで彼女は生きられた。

 ……その爆発で、その時生きていた奴隷達は皆死んだのだが。

 その事実をメリアは知っていた。

 知っていたからこそ強くなる為に生きた。


 最初は敵を討つため。

 そして今は……


「私の親を殺した罪……そして主様に迷惑をかけた罪で、貴方達を地獄に送ります」


 成長した夜兎は、静かに死を宣告した。


「くっそ……!今は冒険者に買われて中央にいる話だったはず…やはり親と共に逝かせるべきだったか!お前ら!コイツを殺せ!」


 ガンツが叫ぶと、祝印がこれ以上ない光を発して男達を活性化させる。


「ぐっ……おぉっ!」


 数人の男達の筋肉が膨れ上がり、服が破れて大きくなる。目は血走り、巨躯を持つ怪物となる。

 これがガンツの奥の手。

 祝印を与えた者の状態を上げ、更なる存在へと強くする『狂化』による。

 これによって今まで部下や魔物を強化したガンツの陣営は、より強いものとなる。

 以前アレク達が冒険者活動で仕留めた王都フリードゥン近郊の森に居たコボルト達も、メリアを襲うためにガンツが用意した魔物だったのだ。


 だが、一つだけこの『狂化』には欠点が存在していた。

 一度『狂化』した者は、二度と元の姿には戻らないのである。

 部下の男達すらも平気で狂わせるガンツは、何も思わずにメリアに仕向ける。


「……行きます」


 意志をなくした男達がメリアを一斉に襲う。

 意志を持つ男達は、ガンツを守るように陣形を組んでいた。


「オォォォォォォ!!」

「ガぎゃあァァァ!!」

「ロリさいっごぉ!!」


 意味の無い叫びを発しながら男達は、メリアを殺そうと武器を伸ばすが……


「邪魔です」


 メリアが戦棍を振るうことで、一瞬にして肉塊へと変わり果てる男達。

 本来なら、『狂化』した者達には強い生命力と再生能力が付与されていた。だが、アレクやニーファの様な常識外には通じず、さらにソレに師事されたメリアには無駄の一言だった。


「くっ……くっそ!!クソ!クソ!クソ!ふざけるな!お前のような何も分かってない餓鬼に!俺様の崇高な未来を───」


「ありませんよ、そんなの」


「な、に!?」


 ガンツを守っていた複数の男達もメリアに人蹴りされて散り散りに吹き飛ばされる。

 そして、死神の鎌が首に当てられる。


「ひっ……!!」

「……貴方のような罪人に、崇高な未来なんてありませんよ。強いて言うなら……地獄の未来です」

「ふ、ふざけ……ふざけるなぁぁぁ!!」


 ガンツは最後の踏ん張りで自身すらも『狂化』させて、メリアの命を奪おうとするが……


「自分を狂わせたら、元も子もないじゃないですか……馬鹿なんですかね?」


 救われない命が、一人の元聖職者の手によって無惨にも消されたのだった。


「………何とも味気ない」


 復讐を終わらせ、親の仇を討つことが出来た。

 高揚感。達成感。様々な感情に揺れ動かされるが、必ず虚無感が残ってしまう。


「……これが復讐の果てですか…嫌な気分です」


 頭を振り、虚無感を忘れようとするが、中々忘れられない。

 だが、一つ言えることは。


「お父さん……お母さん……仇は討てました……討ちましたよ……グスッ…」


 後は涙を流しながら、父母の思い出に浸るだけだった。










 所変わって洞窟の外。


「くっ……聞いてねぇぞ、あんな化け物だったなんて!」


 メリアが感傷に浸っている中、生き延びた部下の一人が夜の森を駆けていた。


「何とか俺だけでも生き残って…」


 必死に足を動かし、出来るだけ最短ルートを通って坑道に向かう。そうすれば、後は身を隠しながら王都に向かうだけだ。


「はっ、はっ、はっ!見えた!」


 山道を走り、森を抜ければ見えてくる木組みで支えられた洞窟。

 これが坑道の入口だった。


 そして、後は手を伸ばせば坑道に潜り込めた所で……


「《固まれ》」


 何処からか聞こえた声を耳にし、彼は動けなくなった。


「あ…………は?」


 状況を理解できない男。

 手足も首も眼のひとつも動かせない。


「おぉ……周囲の魔素を対象の身体に凝縮させて動けなくすることは出来る……と。いやー自分に出来ることを探すのは、案外楽しいもんだな」


 テッテテーン。

 軽快な音楽と共に現れそうな奴が立っていた。


「全く……メリアの復讐を邪魔しちゃダメだぞ?おじさん。……よしニーファ。帰ろっか?ね?」

「アレク……少し辛抱しろ。ここが嫌いならのはよくわかってるから」


 悪魔のような笑みで、メリアの主である少年、アレク。

 男の動かない頭をわしずかみにして力を込めるニーファ。


「さて……メリアは『生産的』か『破滅的』な復讐か……どっちを選んだのかなぁ?」

「分かりきっとることじゃと思うが?」

「いや、言ってみたかっただけだよ」

「………空気を読まんかボケ」

「ひどっ」


 復讐を終えた夜の空は、彼女を神が祝福するかのように満点の星空と満月が浮かんでいた。



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