魔物を倒し隊
暇だ。
昨日、暴れまわって崩壊した中庭も魔法を使って整地して元通りに直した。その際、
「一瞬で元通りはないだろう…」
と、尊敬する父から驚愕のお言葉をいただきました。仕方ないよね。俺、貴方より魔力多いし。
「暇だ」
そう。暇なのだ。今日は特に何もすることはない。
ユメは次期魔王としての教育などを行なっている。実はこれが面倒だから魔王を目指すのをやめたとも言える。
まぁ、とりあえず、
「ひーまだ〜♪超ひーまだ〜♪暇だ〜♪」
どこぞの焼き芋屋さんの替え歌を口ずさみながら、部屋の中を見回す。
俺の部屋は、四年前と比べて酷い状態だ。
簡単に言うと、本で埋め尽くされている。
本棚に収まらない量の本が部屋の床に散らばっている。
ムジカにも早く片付けろと急かされているが、まぁ、いつかやるよ。確約はしないがな!
そうやって、部屋の掃除を放置していたら、ふと一冊の本が目に入る。
「魔物大図鑑……」
その名の通り、各地の魔物を載せた図鑑で、現在把握されている魔物の生態がほぼ全て記載されている素晴らしい本である。
「ふむ…………あっ!」
そうだ!いい暇つぶしがある!
その暇つぶしとは、ズバリ魔物で戯れることである。討伐すれば金銭ガッポガッポだし、自分の力を確かめる意味合いでも良いと思う。
ってことで、俺は魔王国内で魔物が出没する森を確かめた上で、身支度をして城を出た。
ウラバラの森。魔都エーテルハイトから六キロほど離れた地点にある、広大な森である。
魔王国が存在する場所は、非常に魔素濃度が高いことで有名だが、この森は、その中でも群を抜く魔素濃度で、強大な魔物がウジャウジャいる。
魔境の一つとして数えられているが、気にせずに暇つぶし感覚で行こうか。
まぁ、まずは、
「魔物倒し隊、出動!」
しかし、隊員は一人しかいない。ボッチだ。
………やめよう。考えるだけで虚しくなる。
少しドヨーンとした気持ちのまま、俺は森へと入っていった。
「グルルルルルル……」
はい。こちら魔物倒し隊隊長のアレクです。現在、超危険な状況です。森に入って数秒で魔物とエンカウントしました。
その姿は、森に溶け込むような緑色の体毛に黒い線が何本もある一匹の虎。その口にある鋭い牙から、毒々しい紫色の液体がポタポタと地面に落ちいる。その毒が触れた地面は、紫色に染まり、そこにあった雑草は一瞬で枯れてしまった。
デス・ブラッドハント。毒を持つ虎の魔獣だ。
魔物と魔獣に明確な区別はないが、姿が獣なので、魔獣と呼ばせていただく。
毒虎は、俺を獲物を見るかのような眼でこちらを凝視している。
……まぁ、こいつ一匹なら大したことはない。俺ならの話だが。
しかし、油断できない事情がもう一つ。
「「「「「ガルルル……」」」」」
その虎の後ろに、百を超える魔物の数々。
獰猛な性格で、己より強いものに従う狼の魔物。
普通ならば、一匹一匹が脅威である灰色の狼。
グレイウルフ。その集団が、毒虎に追従する下僕のように存在している。
これらの点から推測して……
このデス・ブラッドハントさん、他の同種より強そうだ。
うん。ヤバイな。
そう思考している内に、灰狼共に退路を塞がれた。あらら。用意周到なこって。
「まぁ、暴れるしかないよなー?」
俺はあくまでも気軽に、楽しくやるのだ。
そして俺が、魔神杖カドケウスを取り出し構えたところで……血生臭い戦いの火蓋が落とされた。