固き意志
『銀水の神徒』メノウを撃退してから直ぐ。
あと数時間で日を跨ぐ夜の街道を、俺とニーファ、メリアは騎士団に護送されていた。
言っておくが、犯罪者を監視するものではなく、付き添い守ってくれてる方だ。
断じて犯罪者ではないぞ、俺は。
数名の騎士を現場に残して、残りの人数で俺たち3人を王城まで連れていくのが今の彼等の仕事だ。
「ふぁあ〜……説明がめんどいんでニーファ宜しく」
「何故じゃ。アレクが直に戦ったのだから責任を持て」
「メリアはどうなんだよ。最初に喧嘩売ってたのはメリアだよ?」
「え!?喧嘩売ってることになるんですか!?」
「「まぁ、いきなり背後からだもん」」
「どっちかと言うと奇襲だと思うんですけど…」
俺達の暇潰しとしか言えない会話に騎士団も苦笑いするしかない。
ついでに言うと、俺達3人は騎士の後ろにそれぞれが座って馬に乗っている。まぁ、よくある二人乗りの乗馬だな。
「アレク様、あのメノウという男は一体……」
俺を後ろに乗せていた近衛騎士が疑問に思ったことを聞いてくる。
まぁ、気になるよな。他の騎士も上手に耳を立ててるし。
「機密事項。知りたいんなら相応の覚悟と意思が必要だけど?それに周りに言いふらしちゃ駄目なやつだし」
「…………わかりました。ですが、何か有れば我々騎士団が応戦致します。その時は……」
「勿論。諸君の力を俺はよく知ってる。その時はしっかり頼らせてもらうよ。………まぁ、俺ではなくユメの為に頑張ってもらうけど」
次期魔王は俺じゃない。ユメだ。
そもそも俺の権限で騎士団を使うことは出来ないし、使うつもりは無い。
まだ魔王城で好き勝手やってた時は騎士団の稽古に混ざって訓練させてもらったし、魔法を避ける練習の手伝いをした。主に俺が砲台となって。
思考に更けていると、城壁をくぐり抜け、魔王城に入城する。
城の前の広場には、既に人がはけていた。
話によると、平原での戦いで魔王主導の元兵士の誘導で国民全員が避難したらしい。
そして、王城の中へと入れる扉の前に、魔王シルヴァトスが仁王立ちで待っていた。
「………さて、何があったか聞かせてもらえるか?」
「……その前に場所を移しましょう。下手に聞かせると混乱が起きますから」
「……そうか」
やはり何かやらかしたんだなぁと諦めた顔で城の執務室に戻る父の顔を見て、少し罪悪感を感じたのは言うまでもない。
階段を登り、廊下を渡り、やがて執務室に着く。そこには四天王、母さん、ユメが待っていた。
「まず最初に言っておきますと、今年度の魔界祭の初代役を演じたメノウですが、魔統神の神徒だと判明しました」
その言葉で、執務室全体に驚きの声で満ちる。
「…つまり、お前はメノウを倒すために?」
「はい。正確に言いますと、俺の従者であるメリアに自分の力を理解させる為と、幹部級の神徒の強さを知る為ですが」
「………どうだった?」
「水に満ちた巨大な結界を張り、敵対者を溺死させる、敵対者を裁く聖水を使っての戦闘。主に水に関する力を使っていました」
「……そうか」
魔界祭という重要な神祭の日にやらかした理由に、世界を脅かす神が関係しているとは思ってもいなかったのだろう。
「最後に一つ」
「なんだ」
「魔界祭の『ダロスの儀』ですが……封印中の魔統神に魔力を捧げる為の儀式でした」
「「「なっ!?」」」
今まで行ってきた伝統行事の真相を話す。
儀式に使用される杖が原因だと言うことを。
「つまり……別の杖を使えばいいのか?」
「それはなんとも。ただ、今まで使ってきた杖は廃棄するか封印するかでしょう」
少し重たい空気になったが、どうでもいので話を切り上げる。
「それと………ガチで眠いんで帰っていいですか」
「……うむ、そうだったな。ご苦労だった。後は此方に任せて寝なさい」
「はい」
ニーファとメリアを伴って執務室を出る。
それに後ろからユメが追って来た。
「兄様!」
「ん?どうした一体」
「……今度、私と稽古してほしいの!」
……………ユメと稽古ねえ。
「理由は?」
「……強くなりたい。今日私は気づけなかった。次の魔王として今まで頑張ってきたけど、まだ足りないってわかった。それに、このままだと何も変われないって思ったの。だから……お願いします!」
魔王として、ね。
「……メリアと一緒にやらせるけど?」
「構いません!」
「………わかった。ただ、俺も予定が多いから、結構時間を貰ってくぞ?」
「大丈夫です。納得させますから」
一体どうやって納得させるのだろうか?
ユメは力においては俺を超えているから、多分物理的にやりそうだと思うのは気のせいか?
「やる日が決まったら言えよ?おやすみ」
「はい!おやすみなさい!」
ユメは執務室に戻り、俺は自分の部屋に帰る。
「先に風呂に入るべきではないか?」
「あぁー……そうだな、そうしよう」
方向転換して王族大浴場に行って身体を清め、メリアの身体の状態を確認してから寝に入ったのだった。