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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第四章 夏休みとお兄様
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魔界祭:枯れ地の夜


 いやー、遠くから見てたけど、流石に最後の魔法攻撃はやばかった。

 一つ一つの雨粒がメリアの身体を貫通して殺せる魔法。凡そ常人では撃てない魔法だろう。

 やはり神徒は侮れないといったところか。


「メリア、下がれ。傷は治ったけど血と体力は戻ってないからね」

「はい……すいません」

「気にしない気にしない。次頑張ればいいよ」


 そう言うと、メリアは転移魔法でニーファの所に移動した。

 魔力量的に1日1回だけの転移魔法。

 それを覚えたメリアは相当喜んでいたので、ちょっと張り切ってやり過ぎて教えたかいがあったと思う。

 てか、覚えてもらわないと割に合わん。


 ぶっちゃけると、メリアを戦わせたのは簡単な理由でしかない。

 メリアなら倒せる訳ではなく、メリアに強くなったとしても、勝てない相手を見せつけて、もっと頑張ってもらおうという算段だ。

 まぁ、様子見とも言えるが。

 初見で戦いたくないし、俺とニーファの超熟成戦闘体型訓練という名のスパルタによって危機察知能力と判断力は相当な腕だろう。

 そして、アンテラの発言が事実なら、敵であるメノウは『銀水の神徒』と名乗っていた。

 つまり、幹部級の強さを持つ神徒。そこら辺の名前の無い神徒とは違うことがわかる。

 まぁ、神徒に会ったのはコイツで初めてだけど。


「くっ……やはり貴様に幻術の効かなかったか……」

「あぁ、『ダロスの儀』のあれの事か?」


 儀式に使われたあの『杖』を魔法発動体として、天高く掲げた時に発動する幻術。

 魔都全体を覆う程の大魔法によって魔都の住人は催眠状態に落とされ、魔力を吸われてきたわけだ。

 五年前の俺も魔力を吸われたんだろうな。

 何故今回、俺が気づけたかと言うと、ニーファと戦った際に神気が増幅し、神化が始まったためだと思われる。てか、それ以外理由が無い。


「さて……覚悟しろよ?」

「ふん……」


 俺は獄紋刀を両手で構え、メノウは銀杖を片手で構える。

 一瞬の静寂。

 星空の下に広がる平原に、遠くに見える魔都の城壁と微かに覗く魔王城の尖塔。

 そんな美しい風景の真ん中で……激突する!!


「はっ!《風棘流路》!」

「ふっ!《銀の洗礼》!」


 凝縮された風の棘が流れるようにメノウを狙い、光を帯びた銀色の水滴が俺を狙い……それぞれが激突する。

 そして、同じ弾数撃たれた魔法が消える前に俺とメノウは動き出し、矛を交わす。


 キィン!


 甲高い金属音を夜の世界に響かせながら、刀と杖が連続でぶつかり合う。

 本来なら既に切断されてもおかしくない銀杖は、一向に切られず、傷すらついていなかった。

 増えていくのは、疲労だけ。


「埒が明かんな……《水没結界》!」


 銀杖から溢れ出る青い水が俺とメノウの周辺……目測で100メートル先まで半球体の水が広がった。

 そして、天から水が中を埋めるよう流れてくる。水没させて溺死させるつもりのようだ。


「お前、周りの事考えろよな!」


 絶対、騒ぎになるやん。

 時すでに遅しとも言えるが。


「確かに安直だろう!だがな!貴様を此処で倒し、我は陛下に貢献するのだ!」


 直ぐに結界内は水で埋まり、俺とメノウは水中に漂う。

 水の中でも俺は戦える。

 だが、誤算が此処で生じた。


「ごぽぽ……!(ただの水じゃない!?)」


 驚きのあまり、口を開いてしまったがまだ酸素はある。空間魔法で肺と酸素のある場所を繋げているため、循環は完璧。

 だが、この水が問題だ。

 ただの水では無く、メノウの魔力が染み込んだ水。ただの水なら俺も操れたが、別人の魔力が浸透している場合操作が難しい。

 出来なくもないが、時間が惜しい!


「フハハ!現在の魔族では水の中で息すらできぬか!笑止!私の《魔水》で死ぬがいい!」


 昔の魔族は水の中で息ができたの?

 それ魚人族じゃね?別種やん。

 時が経てば人は進化し、また退化することを知った瞬間だった。

 てか、アイツは水の中で喋れんのか。

 厄介な。

 魔法を使えば俺も喋れるだろうが……体の中に魔水が入って、体の中から攻撃されたら溜まったもんじゃない。


「《魔水蛇》!」


 蛇の形に凝縮され、周囲の魔水が保護色となって一瞬だけ形のわかった蛇が見えなくなる。

 本来なら魔力の流れで透明な敵は何処にいるかわかるのだが、今のフィールドはメノウの魔力が浸透した魔水の中。

 魔力感知をしても、ジャミングを受けたように掻き乱されて失敗するだろう。

 水流で把握しようとしても、メノウの意思で水を動かせる結界内では当てにならない。

 デコイとか作られて死、なんてたまったもんじゃない。


 これは身体に魔水が入る覚悟で魔法を使うしかない!

 やりたくないけど!

 特にこれから使う魔法は下手したら自爆魔法に値するし。


 ブゥン!!


 本来ならメノウの魔水が俺の身体をチクチクと突き刺すレベルで攻撃してくるだろうが、俺の身体の周囲の魔水だけ俺が掌握して事なきを得ていた。

 そして、息ができなければ魔法は発動できない。だから、俺は魔力を爆発させて周囲の魔水を押し飛ばす。

 結果、ほんの数秒生まれた水の無い空間で、俺は反撃の魔法を使う。


「《枯焉水滅》!」


 古代魔術研究会の研究室に会った本棚の隅に置かれた古びた魔導書から見つけた水魔法の禁術。

 それは、周囲のありあらゆる水を消滅させる。

 川も、海も、身体の水分も。

 全ての水を奪い尽くす魔法。


 それは魔法発動と同時に、灰色の球体が現れて、ゆっくりと回転を始める。

 そして徐々に、周囲を漂う魔水を吸い寄せて、巻き込みながら回転を早くする。


 本来なら、こんな至近距離で使ってはいけない魔法だが、今は仕方ない。

 神化して耐久力の強くなった身体を信じるしかない!


「貴様!まさか!?」

『おい、アレク!?』

「安心してくれ!この程度で俺は死なん!」


 念話で焦った様子のニーファの声が聞こえるが、これで死ぬほど俺の身体は弱くない!はず!


 とうとう灰色の球体が轟音を出しながら高速回転を始める。

 規模は狭く、この球体を潰す範囲の水を奪うのうに設定した。そのままだと超広範囲を枯らせて荒野、または砂漠にするからな。


 そして、灰色の球体から青い閃光が音を立てながら発生する。

 それは、魔法が本格的に真価を発揮する合図。


「《起爆》っ!!」


 灰色の球体が、内側から大爆発を引き起こす。

 衝撃波が結界内に行き渡り、少し遅れて水が消滅していく。


「ぐっ……!」


 1番近い場所にいた俺からも水分が奪われるが、全力の魔力コーティングで3割程で済まされる。いや、3割も持ってかれた、か。

 メノウも水分を奪われるが、元々水を操る神徒なのでその分膨大な水を奪われる。


 そして1分もすれば……


 メノウの結界は消滅し、そこにはすり鉢状の枯れ地が生まれたのだった。


「くっ……」


 最初に動けたのはメノウだった。

 流石神徒といったところか。

 しかし、満身創痍と言った感じで肩で息をしている。

 なんとか俺も立ち上がり、異空間から『流水の短剣』を取り出して体に刺す。


 元々水を操る魔導具のため、身体の水分量を増やすことも可能だ。

 魔都を出て旅をする時に買ってて良かった。


 すると、遠くから馬の蹄の音が聞こえる。

 ちょうど魔都の方面からだ。


 流石に大規模な水の結界に激しい戦闘音。

 魔王城の近衛騎士となれば察知は容易いか。


「ここで一体何を……アレク様!?それに、貴方は……」


 近衛の1人が俺とメノウを見て驚くが、それよりも地形の惨状に口を塞ぐ。


「ちっ……仕切り直しかっ」

「逃がさねぇよ」


 転移系の魔法だろう。メノウが魔法を発動しようとするのを止める為に刀を振るい、飛ぶ斬撃を放つが、距離があるので無駄に終わった。


「さらばだアレク=ルノワール。貴様は今を生きる魔族の中でも……生きるに値する存在と認めよう」

「うぜぇ。死ね」


 何をしようと既に無駄なので、俺は睨みながらあいつが転移するのを見たのだった。


 引き分けと言うべきか、アイツから逃げたので俺の勝ちか、よくわからんが終わったのだった。


「アレク様、大丈夫でしょうか!?」


 あ、やべ。説明が終わってなかった。










◆ニーファ


「ふぅ……」


 無事に戦闘が終わり、アレクの生存が確認されたことで、我は安堵の息を吐く。

 まさか最後の最後で自爆するとは……それで生きてるのも驚きだが。


「よ、良かったです……」


 メリアも、我にしがみつきながら安心していた。

 何故彼女が我にしがみついているかと言うと、飛べないからだ。


 2人がいるのは空。

 アレクとメノウが戦った平原の上だった。

 最初はここにアレクも居たが、メリアとの交代のために平原に降り、今の惨状だ。


「まったく……メリア、訓練内容を増やすぞ」

「うへぇ……わかりましたぁ」


 流石にこのままでは可哀想なので、地に降りるとしよう。

 まったく。アイツはもっと安全な戦い方はできんのか?


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