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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第四章 夏休みとお兄様
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魔界祭:神徒の水


 魔都エーテルハイト郊外の平原にて。

 1人の男が颯爽と月明かりに照らされた街道を歩いていた。

 初代魔王を演ずる儀式服を身に纏い、青く長い髪を揺らしながら場を去る青年。

 その右手には、青く濁った宝玉を持つ銀杖を持ってる。

 そして、その空は神に祝福されたかのような満点の星空が広がっていた。


「……意外と簡単なものだ」


 青年は虚空に向けて声を発する。

 それは心に響くような不思議な声色。


「遥か昔の魔族に比べれば…軟弱にも程がある。これでは……我が神にお仕えする価値も無い」


 そして青年はふと立ち止まり、後ろに振り向きながら銀杖を大振りする。


「くっ!」


 背後から青年を襲ったのは、メリア(・・・)だった。身の丈程ある黒いメイス…轟砕の爆戦棍が彼の銀杖と激突し───爆炎を撒き散らす。

 激突すれば爆発という理不尽気回りない攻撃を至近距離で受けながらも青年───神徒メノウは無傷だった。


「やはり……何らかの行動があると思っていたが……マークすらされてもいない小娘か」

「……それがなんだと言うのですか」

「なに。我に牙を向けるなら……もっと強い者を呼ぶべきだ、なっ!!」


 続けざまに銀杖を振るい、宝玉から溢れ出た水が生き物のようにメリアを襲う。

 それを見たメリアは目を見開く。

 その水には、聖なる力が宿っていたから。


「聖水……!」

「ご名答。我が杖『銀水の錫杖』はありあらゆる水を操る神の杖なり。……神が創りし力をその見に受けよ」


 蛇の如く畝り迫り来る聖水が戦棍を避けてメリアに直接触れようと迫る。

 触れてはならないと直感で感じたメリアは聖水から逃れる為に身を捻り避けようとする。

 しかし、避けきれずに左上腕に聖水が触れる。


「きゃあっ!?」


 腕が焼けるような感覚に身を悶えさせ、うまく受身を取れずに転がってしまう。

 メリアが左腕を見れば、上腕の皮膚が焼け爛れるように溶けていた。


 本来なら、聖水はアンデッドを浄化し供養する用途と、怪我人の傷を癒し呪いを打ち消す用途の二種類がある。

 獣人であり、アレクの超熟成戦闘体型訓練によって強化マシマシのメリアに怪我を与える聖水など出回ってはいなかった。

 しかしメノウの銀杖、銀水の錫杖からは傷を与える聖水が溢れ出た。


「我が操る聖水は、我と我が神に仇をなす愚者に裁きを与える代物だ。そして……貴殿は我に攻撃をし、神に歯向かった。故の傷である」


 そう言いながらも、メノウは攻撃の手を緩めない。

 立ち上がり戦棍を構え直したメリアも再び攻撃に移る。


「《ダークランス!!》」


 闇を固めた槍を穿つ魔法を唱え、1本の黒槍がメノウを貫かんと飛来する。


「《遅水の礫》」


 聖水が溢れていた宝玉から水が止まり、青く濁った水がドボドボと垂れ流れる。

 その水は地面に落ちずに宙を浮き、丸く形を成して直ぐ、弾丸の如くメリアに襲い掛かる。


 闇の黒槍と水の弾丸が激突するが、数の多い水の弾を全て抑えることは出来ず、その殆どがメリアに襲いかかる。


「きゃ、あぁぁ!!」


 まるで石の様に硬い水に身体中を殴打し、地面を無様に転がるメリア。

 なんとか意識を保ち立ち上がろうとするも……その動きは目を疑うほど遅かった。


「《遅水の礫》とは、触れた対象の動きを遅くする水の塊を撃つ魔法。故に今の貴殿は……スキしかない」


 なんとか動こうとしても、脳に身体が着いていかず、為す術もなくなった。


「これで仕舞いとしよう……《天水の裁き》」


 銀杖を空に掲げ、濁った宝玉が光を放つ。

 その光から湧き出るように聖水が溢れ出て、空を覆う。

 否、空を覆うのではな、メリアの頭上を渦巻くように広がったのだ。


「『銀水の神徒』メノウの名において……貴殿に天の裁きを!」


 渦巻く天水から、無数の水滴が垂れ下がり……重力に沿って落ちる。

 しかし、その落下速度は異常であり、豪雨の如く水の弾丸が降り注ぐ。

 そして、その全てがメリアの命を奪う為に、主神に捧げる為の供物として、襲いかかる。


「えっ……」

「………なに?」

 

 しかし、それは現実には起こらなかった。

 空を覆う天水は掻き消されるように消滅し、メノウの魔法効果の全てが打ち消される。

 同時に、メリアを襲っていた雨水も消えた。


「一体何が……っ!?」


 メノウは何かに気付いたが、時すでに遅し。

 彼の失敗は、後ろを振り向いてしまったこと。

 それが結果的に、傷を負う羽目になったのだから。


「がっ!?」


 横一文字。

 メノウの胸を切り、儀式服が切り裂かれる。

 致命傷とはいかなかったものの、宙を舞う血は現実を物語っていた。


「初めましてメノウさん!私、貴方のファンなんです!!」


 幼い女の声で斬りかかったのは、殺人鬼……ではなく、メリアの主であるアレクだった。


「貴方の踊りに感動しました!サインください!────────────血文字でなぁ!!」


 いきなり物騒な事を吐いて襲いかかる銀髪の少年の姿は正しく………指名手配レベルの殺人鬼であった。


 流石に助けられたメリアも、この姿には呆れるばかりである。


「貴様は……!?アレク=ルノワールっ!!そうか!この女は貴様のか……!」

「だいせいっかぁーい!流石かの有名なメノウ様に俺のような一般市民を存知なんて……感謝の至ですぅー」

「主様、その気持ち悪い喋り方辞めてください」

「酷くね?」


 悪態を突かれながらも、メリアの背後に転移し、回復魔法をかける。


「《神意治癒(エクストラヒール)》……酷い傷だな……まったく嫁入り前の娘にこんな怪我を……痕が残らないからまだいいけれども!」


 まるで最初から考えていたとばかりに、台本を読む如くアレクはメノウを睨み……


「っていう前置きは良しとして………殺しに来ました。よろしく」


 滅茶苦茶無駄に長い前置きを終えたアレクは、得物である獄紋刀をメノウに向けるのだった。



メノウが使っている銀杖は、魔界祭の儀式に使われていた杖とは別物です。


銀水の錫杖:

 青く濁った宝玉から様々な特性を持つ水を生み出し、操る神の杖。神徒メノウの神器であり、メノウの体の一部とも言える代物。しかし、銀杖の力はメノウ以外にも使える。ランク-SS。


神や名持ち神徒は神器と呼ばれる物を持っていることがあります。

名を持たない無名(そこまで有名じゃない)神徒は神器を所有していません(何事にも例外はありますが)。

そう考えると、メノウは三千年前にも姿を確認され、生き残った凄腕の神徒とも言えます。


多分。

アレクの前に立てばみんな等しくなります。

主人公補正で(笑)

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