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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第四章 夏休みとお兄様
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魔界祭:ダロスの儀


「これより、魔界祭の開催を宣言する!!!」


 魔王シルヴァトスの宣言により、魔族全体の神祭『魔界祭』が始まった。


 商店街にはいつも以上に人で溢れ、屋台が所狭しに並んでいる。

 老若男女、よく見れば魔族以外の種族も参加しているのを見かけられる。


 俺とニーファ、メリア、プニエルは祭りの屋台を見ながら散策していた。

 デミエルやウェパル、エノムルは従魔が外に出ているとイチャモンを付けてくる輩も出るので、城で待機、留守番だ。

 まぁ、スライムって種族を馬鹿にする奴もいるからね。普通に。


「おっちゃん、串焼き7つ」

「あいよ!………ほれ!熱いから気いつけな!」

「ありがとう」


 モー牛と呼ばれる巨大牛の肉を使った串焼きを買い、ニーファとメリアに1本ずつ渡す。

 スライム達にもあげる分、多く買った。

 お値段500ロールと屋台にしてはお高いが、狩りズラさと捌きズラさを兼ね揃えたモー牛の美味さと比較すれば、安いほうだろう。


 モー牛は、バスサイズの巨体を持つ赤い牛で、Cランク冒険者が四人いて倒せるレベルの魔獣だ。しかもイビラディル大陸にしか生息していないのだ。故に高級食材となり、一般には出回りずらい。


「おー…お城で食べたのも美味しいですが、これも良いですね」

「うむうむ。素材の味を生かしておる。このタレも良いな」

「プニエルも食べるー。あーんあーん」

「あぁほら。暴れるな」


 プニエルが肉を食べたそうにメリアの片腕の中で前のめりになるので、俺が宥めながら食べさせる。串1本だと多いため、1口だけ取って息で冷ましてから、プニエルの口に入れる。


「んむー!」


 美味しそうに口をもぎゅもぎゅさせ、食べている姿を見て少し和んだ所で、散策を開始した。


 ………プニエルを片手で抱きながら串焼きを食べるメリアの腕力はどうなってんだ?戦闘時にはメイスを持たせてたけど、原因それか?


 少し思った疑問を口に出さないように気をつける。


「………ん?」

「あ」

「……なんでいんの?」


 俺が気づいたのは、何故か屋台を開いているアンテラだった。

 本当に神出鬼没だな。神だけに。


「いやー、楽しそうじゃん?あ、これやる?1回200ロール」

「やるか?プニエル」

「やるー」


 アンテラが営む屋台は、水風船を釣るやつだ。

 銭貨を2枚渡して、プニエルに水風船釣りをやらせてあげる。


「あー!とれたー!」

「よくできました。あげるよ」

「ありがとー」


 その後、特に話すことも無かったのでアンテラの屋台から離れ、祭りを楽しむのだった。


「……神も居るとは驚いたな」

「普通、祭り関係の神が来るじゃろうに……」

「流石夜天神様。やることなすことが不思議です」

「その発言どっちかなー?褒めてるの?貶してるの?」

「褒めてます褒めてます」

「私の信者が虐めてくるぅー…」

「いじめてませんよ!?」


 メリアも冗談が言えるようになってなによりです。




 時間は過ぎて日が暮れ始める。

 日が沈む前に魔王城前の広場で行われる儀式。


 『ダロスの儀』


 初代に感謝と畏敬の念を送り、魔族の平和を願う儀式。


 出てくるのは『初代』と『姫』とモブ達。

 姫役をユメが行い、初代役を国民の中から選ばれた男は、メノウさん。

 伸ばした青い髪と茶色の目を持つ美青年で、昨日儀式の練習では、周りに好かれる青年だった。


 そして始まる『ダロスの儀』。

 何故この名称なのかは分かっていないが、古くからある伝統的な儀式が行われる。


 豪華な意匠が施された祭壇の上に立つユメとメノウ。古い感じの踊りをゆっくりと披露し、初代からの授かりものとして冠をユメの頭に乗せる。

 そんな感じに儀式は滞りなく続く。


 その時の観客達は、儀式の邪魔をしないよう、静かにそれを見詰め、平伏し時が過ぎるのを待つ。


 メノウは動きずらそうな丈の長い儀式着を纏い、宝石の着いた古い杖を持ち、踊りのように足を動かす。

 ユメも負けじと動き、鈴の着いた杖を鳴らしながら感謝の踊りを捧げる。


 ………………ん?


 なんだあれ。なんだ?

 儀式は終盤に入り、メノウが杖を天に伸ばす。

 ユメは膝を折り、供物を捧げるかのようにお椀にした手を伸ばすその時。

 儀式場に立つメノウの体……特に杖に、青白い魔力が集まっていく。それは魔族の国民の体からうっすらと流れ出ていた。

 それは目に映る程の力を持っているのに、誰も気づかない。いや、心ここに在らずな感じ。

 …今までの儀式ではこんなん無かったぞ……

 よく見れば、儀式を見ているメリアも気づいていないらしく、心ここに在らずといった感じだった。

 プニエルは空を眺めて……見えてる?


「アレク……これは?」

「……わからん。初めて見る」

「ほわわ〜ん」


 ニーファは気づいたらしい。

 プニエルは擬音で感想を言ってくれた。


「………あの男をよく見ろ」


 言われた通りにメノウを睨む。

 目に魔力を通し、その全容を知る。


「……神気(・・)?」

「確定じゃな」


 つまり、あいつは………


 そんな疑問を浮かべられる事象は1分で終息し、滞りなく儀式は終わったのだった。






「父さん、一つ聞きたいことが」

「ん?なんだ一体」


 儀式も終わり、もう少しで祭が終わるところで、父さんに話しかける。


「儀式の初代役ってどんな感じに選出したのか教えて?」

「む?そうだな……まず国民全体に希望者を募る」

「うん」

「その後、我と四天王、大臣達と名簿を見たり、実際に面接したりする」

「うんうん」

「その結果、審査を通ったのがメノウだ」

「へー……ありがとう」

「うむ……お前もやりたかったか?」

「まさか。目立つじゃん。やだよ」

「そうか」


 父さんと別れ、先程行った屋台を探す。

 件の屋台は既に閉店していたが、目的の人物は裏で水風船をポンポンして遊んでいた。


「アンテラ、2つ聞きたいことが」

「うん、来ると思ってたしねー」


 この世の最高神であるアンテラに質問攻めをする。ついでに、アンテラの後ろにはニーファが構えており、逃げ出させない。

 メリアとプニエルは状況がわかっていないようだ。


「大丈夫逃げないよー?この場で逃げるとか神としての威厳がー……」

「祭りに来てるんじゃ。それは無い」

「うぐ」


 ニーファの的確で致命的な言葉の一撃にアンテラは苦しむように胸を押さえる……フリをする。


「本題に入るぞ。まず一つ。『ダロスの儀』ってなんだ?」

「………殆ど似通ってるけどねー。初代魔王に捧げる儀式。でもその本質は違う」

「本質?」

「そう。そもそもこの儀式は魔族が《魔統神》に魔力を捧げるものだよ」

「………」

「そして、君達が見た魔力の奔流は五年に一度、つまり毎度起きていた現象さ」

「……メノウに集まっていたのも?」

「いや、違う。集まっていたのは初代役の人が持つ杖だよ」

「杖?」

「あの杖は《魔統神》に魔力を捧げる為のもの。時空間魔法を使って封印されている《彼》に力を注いでたんだ。まぁ、今回はメノウって人がわざわざ吸収しに来たみたいだけど」

「……ふーん」


 なんかとんでもない杖だったっぽい。

 しかも、この祭りは五年に一度。

 つまり何度も繰り返し開催してるから、その分溜まる、送られる魔力は相当だろう。

 だって、参加している魔族全員から、微量ながらも吸収しているのだから。


「……最後の質問。メノウって何?」

「そうだね……記憶が確かなら…《魔統神ダグロス》の《神徒》だったかな?」

「……………なるほどね」


 つまり彼は────────────


「「敵か」」


 俺とニーファの声が重なり、ちょっと殺意が高まる。


「そゆことだねー……殺るのかな?」

「一応。攻撃はする」

「ちょっとだけ教えると、《神徒》ってのは結構強いよ?特に……《○○の神徒》って奴は強いよー?上級神の側近って感じだからー」


 つまり、メノウを倒せば……


「嬉しいことがいっぱいってことか」

「それはどうかと思うが?」

「うん。嬉しくはないと思う」


 そして、祭りが終わりを迎る時間に近づきながらも、街は人の声と熱で賑わい続けるのだった。


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