危険な戯れ
グロリアスを
《剛》から、《豪》に変更しました。
さて。今後使うことが増えそうな魔神杖カドケウスをアイテムボックスに収納して、俺は魔王城への帰路に着いた。
すでに夕刻。あと数時間で夕飯の時間となる。
そして、門をくぐった先にいたのは……
「ムジカさん?」
魔王城の宮廷メイド長ムジカが俺を、虚無を思わせる眼で見ている。
「お帰りなさいませ。アレク様。ちょうど近くを通りかかったので、出迎えに参りました」
「それは…ありがとうございます」
ムジカに礼を言うと、彼女は静かに一礼し、俺の歩みに従うように付き添ってくる。
「もしかして…ユメが探してました?」
「はい。城内を走り回り、後に城下町に行こうとしたのを《豪》のグロリアス様がお止めになりました」
「あーーー。後でお礼と謝罪をしなきゃな」
四天王が一人、《豪》のグロリアス。異端のエルフである細身の青年で、活性化と呼ばれる力を使って自らの力を増加させ、魔王にも匹敵する力を一時的に発動、行使することができる存在だ。
しかし。美しい見た目を持つ彼の性癖は、残念ながら幼女趣味、ズバリ、ロリコンである。だから、妹をあまり近づけたくないのだが……。
「YES、ロリータ!NO、タッチ!」
と、多くの女性が黄色い声援を送るようなキメ顔でそんなことを言っている四天王その1。重症である。
まぁ、礼を言うことは必要だろうな。
後日。既に時計の針は九時を指している。
……少し寝過ぎたな。
身支度を整えて、部屋を出る。
すると…
「あ!お兄ちゃん、おそよう!」
満面の笑みで挨拶するユメ。
そしてもう一人。
「これはアレク殿。おはようございます。ユメ様の護衛は私がお勤めし、完璧にこなしておりますよ。毎日」
グロリアスが、ユメに付き添っていたらしい。
……さりげなく自分の正当性を主張しやがった。
「えぇ。おはようございます。グロリアスさん。貴方がユメの為に頑張っていることは皆ご存知ですよ」
「そう言って貰えると助かりますな」
爽やかな表情で受け答えするロリコン。
一応、毎回恒例となるが釘をさす。
「ユメに手を出したら男しか愛せない体にしますからね?」
「ご安心を。私は手で触れるような外道、犯しませんので。見守ることが、幼き女神を愛す唯一の方法だと思うので、私はそれを破るつもりはないですよ」
「ほんとブレませんね貴方」
まぁ、今始まったことじゃないのでどうでもいいが。
「お兄ちゃん、遊ぼ!」
ユメが上目遣いで頼み込んでくる。
……クッ。誰に仕込まれたんだ…?母か?
「朝ごはん食べたらね?」
「うん!」
そうして、今日の俺の予定はユメと戯れることになった。
朝食後。軽く休んでから、中庭へと出る。
既にそこには、ユメとグロリアス、そして母エリザベートが待っていた。
「母さん?」
「ここで編み物しながら見てるわ〜」
「わかりました。……あ。一応、防御結界張っときますね」
「あらあら〜。確かに、貴方たちの遊びって結構危険よね〜」
「ハッハッハッ。これでもユメに力を抑えるように言ってるんですよ」
そう。これから俺らがやる『遊び』は、滅茶苦茶危険なものだ。上級魔族なら生き残れるが、中級魔族や只の人間とかだったら即死するレベルのものである。
「よーし!お兄ちゃん!中庭の中だけで鬼ごっこしよ!」
「うん。わかったよー!」
鬼ごっこか。地獄の爆走劇が始まるぜ。
「グロリアス、開始合図よろしくね!」
「かしこまりました。愛しの君」
そして、地獄の鬼ごっこが今ーーーーーーー
「それでは、3、2、1、鬼ごっこスタート!」
ーーーーー始まったっ!
「行くよー!お兄ちゃん!」
その言葉と共に、ユメの姿がブレる。瞬間、ユメが先程までいた地面が大きく抉れ、吹っ飛ぶ。
俺はすかさず右に避ける。
ドゴオォォォォォォォォォンッ!?
俺が先程までいた地面が文字通り消滅する。
「やっぱり、これ鬼ごっこじゃなくねっ?!」
「え?鬼ごっこだよ?お兄ちゃん!」
「いや、これ殲滅戦……」
喋っている途中で、ユメはこちらに突撃。俺は上空に飛び、それを避ける。が、ユメは上空にも突進。俺はすかさず地面に着地し、猛ダッシュ。
それを何回も、何回も続けていく。
………そう。この兄と妹の遊びは、次元が違い、少しでも気を抜いたら即死しかねない危険なものであるのだ。
これを毎年続けたおかげで、今の俺にステータスがあったら素早さに全振りされているのではないだろうか?
まぁ、魔力の方が多いんですけどね。
そして、恐怖と破壊の鬼ごっこは日が暮れて、父シルヴァトスが止めに来るまで終わらなかった。
エリザベート?あー。あの母親は危険を察知してそそくさと退散したよ。笑顔で、
「仲良いわね〜」
とか言いながら。
グロリアスは遠目から見守って止めやしない。
あぁ、本当に大変だった。
「お兄ちゃん、楽しかった!またやろうね!」
夕食を食べて、寝るとなった時に、ユメにそんなことを言われたら断れないのは、無論、あたりまえである。