魔界祭:前日
突然だが、『魔界祭』についてお教えしよう。
五年に1回の周期で行われる魔族全体の行事。
遥か昔を生きた伝説、初代魔王への感謝や祈祷、慰霊の為の神祭を『魔界祭』と呼ぶ。
現魔王シルヴァトスは十二代目。
そして、初代魔王が魔族を統一し、王として君臨したのは三千年以上前、つまり『神魔大戦』の前に存在していたらしい。
しかし、種族間戦争が絶えなかった昔は、人族と魔族の戦争は両者共に戦火を撒き散らし、世を荒廃させた為、詳しい文献の殆どが紛失してしまっている為、王の名前も姿もわからない。
全て歴史の闇に葬り去られたが、かつての栄光を作り出し、現在まで続く平和の礎となった初代様を讃える為の神祭が、明日行われる『魔界祭』だ。
「ということでただいま」
「あぁ、遅いぞまったく」
マサキやリョーマ達と海で遊んだ次の日。
いつものメンバー全員で実家に帰ってきた。
既にメリアはウェパルを連れて母さんに連行され、祭りの準備に駆り出された。
で、今俺とニーファ、プニエルとデミエル、エノムルで、父さんの執務室にやってきた。
「ふむ……毎度の事だが、アレクには開催宣言の時に王族として横に並んでもらうからな」
「良いよ」
「詳しい話はユメに聞いてくれ」
「わかった」
父さんの執務室を出て、グロリアスの案内の元長い廊下を歩く。
四天王の1人、《豪》のグロリアスは次期魔王ユメの護衛を務めており、今は俺達の道案内をしてくれている。
「アレク様、学園生活はどうですか?」
後ろを振り向いて、俺の横を見ながら話しかけるグロリアス。
しかしその目線はプニエルの方に行っていた。
「………楽しいですよ?あと、話し相手の目を見て質問してくださいよ」
「そんな殺生な……」
「ウチの子見てんじゃねぇよロリコン」
やはり、ぶれない変態紳士エルフだった。
ロリコンの事は置いといて、ユメの執務室に着いた。高そうな木の扉を抜けて室内に入る。
中は父さんの執務室とほぼ同じで、仕事に必要なものだけが置いてある。
「あ、兄様。お帰りなさい」
「ただいま。父さんから詳しい話はユメに聞けって言われたから来たよ」
「……言われなかったら来ないの?」
「いや来るけど」
「……そっか」
なんか顔色が悪くなったと思ったら一瞬で良くなったんだけど。どゆこと?
「んっん。それじゃ説明するね」
今回の『魔界祭』では、魔王城前で開催宣言を行い、儀式を行う。
儀式は、初代役と姫役があり、初代役を選出された男性魔族が演じ、姫役をユメが演じるらしい。
内容は、儀式場の周りで踊ったり、供物を捧げたり、何やかんやあったりするだけだ。
最後に初代から姫に冠が与えられるのが見所。
「そうかーユメが姫役かー……カメラ用意しとこ」
「やめてね!?すっごく恥ずかしいんだよ!?」
まぁ、明日が楽しみである。
…………主に屋台が。
表には出さないけど、儀式よりも食べ物が大事なのは当たり前だと思う。