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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第三章 特別生のお兄様
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研究会勧誘イベント


 魔王城でなんやかんや会ってから数日。ユメと力試ししたり、魔都の城下町に繰り出したりして暇を潰していたが、ミカエラから学園に戻るとの連絡が入ったので学園に戻ることになった。


 ………そう言えば、例の骨董屋が見つからなかった。開店休業だったからか、迷惑な神が復活したからか、後で会いたいものだ。拳を握った状態で。


「アレク様、何かありましたら、我が家が御尽力致しますので、呉々もお気おつけて」


 ヘイドゥン公爵家にミカエラを迎えに行ったら、ミカエラの父である公爵家当主に挨拶された。渋いダンディーなオッサンだ。

 魔王シルヴァトスの親友であり、悪友だとか違うとか。


「はい。ミカエラ嬢は学園の先輩でもありますから、いつでも頼らせて頂きますね」


 そして、ミカエラの乗る馬車を連れて魔都を出て、俺の転移によって世界都市に戻ってくるのだった。


 そして、時間は進んで今。教室にて。


「なぁなぁ、2人は入る研究会を決めたのか?」


 クロエラの言葉に、俺とニーファは揃って首を傾げる。


「「研究会って何?美味しいの?」」

「食べられないよー………あぁそうか。君達は家に帰ってたから知らないんだったね」


 そう言って教えられたのが、この学園の通常授業に加えて放課後、学生達が自主的に活動する『研究会』というもの。

 研究会といっても、所詮は学生レベルなので、ほとんどのものが半分お遊びのようなものらしいのだが、中には優れた功績を上げて、世界同盟から表彰されるケースもあるんだとか。

 つまり、部活だな。

 よくよく思い出してみれば、帰り際に色々と集まって活動していたのを見た気がする。


「これから研究会の勧誘イベントに行こうと思ってんだけど、2人も同じ一年生の誼として一緒に行かない?」

「…………部活かぁ」

「? 部活ではなく、研究会だぞ?」

「いや、あぁ、うん」


 前世の嫌な記憶が目覚めた今、以前の俺って滅茶苦茶な人生歩んでんなーって思う。

 中高合わせて、部活に入部していない。まぁ、友達いなかったし、幼年のトラウマ上群れたくなかったし。

 そう考えると、今の俺って更生してんだなーって思う。ぼっちから卒業してるし。一応、女神に感謝感謝。南無南無。


「まぁ、行くだけ行って、気に入るのが会ったら入ってみるか」

「うーむ……面白いのか?」

「それは研究会によるな。あと本人の趣味嗜好の問題」

「そうか」


 イベントに参加することを決めた俺達は、教室から出て、会場である『中央広場』に向かうのだった。





 クロエラに連れられて向かった先は、ユグドラシル中央学園の中でも、取り分け多くの学生達が行き来するといわれる『中央広場』と呼ばれる場所。


「ハードバッティング研究会に入りたい人は、ここまでお越しくださーい!」

「家庭手芸研究会に入会の方、待ってまーす!」

「ドラゴンライド研究会へどうぞー!」


 様々な研究会からの勧誘の嵐が、中央広場全体に響き渡っている。

 この研究会は、身分など関係なく活動するもので、身分を逆手にとるやつは大体ここでしばかれるらしい。

 普通なら罪に問われるが、研究会の趣旨を伝えた上での行動なので、自業自得と扱われる。

 まぁ、流石に酷いしばきを受けた場合はちゃんとした対応が入るのだが。


 一通り見た感じだと、ここにはスポーツ系と文化系の研究会に別れており、そのほとんどがここに来ている感じだ。

 さながら祭りのようだ。年若い学生たちがそれぞれ思い思いに勧誘活動を続ける姿からは、エネルギッシュな雰囲気を感じられる。

 人族も魔族も獣人族も関係なく楽しんでいる様子は、現在の平和を表している証拠だった。

 運動系の研究会は、『ハウント研究会』や『ハードバッティング研究会(野球)』などがあり、文化系のものは『家庭手芸研究会』や『火属性研究会』などが存在する。


「2人はどんな研究会に入りたいの?」

「あまり動かない、室内、疲れない研究会。スポーツは論外。俺って研究職だし」

「いや、研究職なのか?お主。まぁ、我は暴れたい気もするが、研究会となると(しがらみ)が凄そうじゃしのう……アレクと同じ所に入るとするかのう」

「おおー……ラブラブだねぇ………爆死しろ」

「「ドンマイ」」

「うぜぇっ!」


 ちょっとクロエラで遊んでみたりしながら、中央広場を散策する。

 ついでに、クロエラはやはり魔法、魔術系の研究会に所属するつもりらしい。

 虱潰しに歩いたり、見たりして、時間を潰していると、見覚えのある顔が。


「あれ?3人揃って研究会さがし?」

「あ、ほんとだ」


 目の前に居るのは、フリエラ先輩とティターニア先輩の仲良し二人組。

 ティターニア先輩の手には『女子漫画研究会』と書かれたプラカードがあり、背後の研究会所属の女子学生達の手には、形容し難いB専の本が。


「えっと……そのぉー……魔術系の研究会を漁ってましてー……」


 クロエラも気付いたのだろう。この研究会に入ってはいけないと。関わってはいけないと。

 腐った女子に関わってはいけないのだ。


「あぁ、君達の実力に見合った研究会だと……ちょっとマイナーだけど、満足できそうなのはあれかな?」


 フリエラ先輩の指した先には、広場に点在する樹の中でも、端に位置する樹に隣接するベンチに座り本を読む少女。

 直射日光を避けるためか、日傘をさしている。

 よく見れば、周囲の人間達が一人の少女を避けているようにして移動している。

 実際、彼女が開いているブース周辺は人払いがされている状態だった。


「あれは?」

「不思議な光景でしょう?みんな、マールちゃん……『氷心(ひょうしん)の魔女』を恐れているのよ」

「氷心の魔女?」

「そう。圧倒的な実力を持ちながらも他者と決して馴れ合おうとしない。誰も彼女が笑う姿を見たことがないのよ。そして、得意属性も含めてついた呼び名は『氷心の魔女』。もしかしたら、君達なら気が会うんじゃないかな?」


 ふーん。氷心の魔女ねぇ……

 少女……名はマールだったか、見た目は人族で、碧眼の美少女。海のように深い色の髪をショートカットに切り、眠そうな目で本を読んでいる。

 心此処に在らずといった感じで、本の世界に没頭している。

 座っているベンチの傍らに、申し訳程度に『古代魔術研究会』と書かれたプラカードが置かれていた。


「ついでに言うと、彼女は3人と同じ特別生一年生だよ」

「……え、そうなんですか」

「うん。私の祖父…学園長の推薦によって入学したの。完全な授業免除の権利を与えられているのよ。天才だから。あの子の能力は大半の教師陣を超えているから、彼女のレベルに合わせた授業って無理らしいわよ」


 ティターニア先輩とフリエラ先輩の説明を受けながら、クロエラとニーファを見る。


「………古代魔術だって。行く?」

「古代魔術……ボクの魔法学と組み合わせれば……よし、行こう!」

「別に構わんぞ……我が使ってる魔法とか魔術は古代のじゃしな」


 そう言えば、ニーファは近代の魔法はほとんど使えないが、古代の力は使えるらしい。

 いや、使えなくはないが、覚えるのが面倒だとか。


 決断した俺達は、マールの元に足を運び、話しかける。


「あのー…古代魔術研究会に興味があって来たんですけどー……入会って出来ますー?三人ですけど」


 俺が話しかけると、マールは本の隙間から顔を出すように此方を覗いてきた。


「ん。………なら、これを解いてみて」


 マールが渡してきたのは、三角錐に複雑な模様が描かれた模型。


「ほー……魔術迷路だね」

「迷路なん?角錐なん?どっちなん?」

「両方だよ。何かしらの魔術やら魔法やらが複雑に書かれたアイテムで、組み立て換えれば何の術式かわかるんだ」


 知恵の輪かな?三角錐型の、難易度高い奴。


「これが解けたら入会できるの?」

「ん」


 クロエラの質問に本を読みながら頷く。しかし、その視線は此方を少しだけ見ている。


「へぇー……これ、既製品じゃないね。オリジナルかぁ……ほぉー」

「………これって態々組み換えなきゃなん?」

「ん?多分そうじゃね?」

「はへー……面倒いが面白そうだな」

「我にも見せよ」

「へいへい、ほら」


 三分ほど時間を掛けて弄り回した結果、俺は何の術式が書いてあるか読み取れた。


「うん、わかった」

「いや、まだ組み終わってないけど!?」

「お主、嘘は……」

「………ニーファ、お前に使ったことのある術式だぞ、これ」

「……え?」


 それから一分足らずで組み立て終わり、3人は何の術式かをマールに答える。


「「「メギドの火」」」


 俺が殺し合いでニーファに放った融合禁忌の古代魔術の1つとなった魔術。

 国を、世界を焼き払うために考案され、実行された破滅の力。


「…………正解。知ってるの?」


 マールは驚いた様子で3人を見つめる。


「魔法学を極める為には知っておくべきだろう」

「使ってぶっぱなしたことあるし」

「ぶっぱなされたことあるし」

「………ボクは何も聞かなかった。うん」


 クロエラが改めて俺とニーファの異常さを理解したことは放っておいて、マールに話し掛ける。


「で、だ。解けたから入会OK?」

「……普通は、どんなに早く解いても一時間はかかるはずなのに……」

「「「普通じゃないんで」」」


「………わかった。案内する」


 本を懐にしまい、日傘を手に持ったまま歩き出す。余程太陽の光が苦手のようだ。


「ついてきて」

「ああ」

「わかったよ」

「うむ」


 こうして無事にマールの出した課題をクリアした俺達は、古代魔術研究会の共同研究室に案内されることになったのだ。


 案内された場所は、昼間だというのに誰も立ち入らない場所であり、全く陽の光を受けない学園の地下で、初めて足を踏み入れるエリアである。


「ここ」


 無言で案内を受けていたら、地下通路の端、つまり最奥に来た所で止まる。

 一見、何もないように見えるが、古めかしい仕掛けが施されているようだ。


「隠し扉か」

「ん」


 マールが制服のポケットから紫色の光が模様の上を走る立方体の石。

 マールが細い手を廊下の壁に伸ばし、同じ大きさの模様が描かれた場所に石を当てる。


ガチャリッ!


 石が壁に吸い込まれるように……正確には押し込まれて、壁の奥からロックの解除音が鳴る。


「鍵石だね……今どき珍しいヤツだよ」


 クロエラいわく、前時代の魔導具らしく今は流通していない代物らしい。あるとしたら、闇市だとか。


「…………ここが研究会の共同研究室」


 隠し扉の中に広がるのは、数千冊にも上る古めかしい書物が収納された部屋と、魔導具が積み重なっている研究机や椅子。


「他に所属している人は?」

「いない。ここには私が一人」


 なるほど。

 先程の魔術迷路が彼女なりの入会試験なら、他に会員もいないのも納得である。

 俺達は、古代魔術についてそれなりに知っているから難なく解けたが、一般の学生レベルでは突破不可能だろう。

 研究室の中は広く、整理されており、なかなかに好感の持てるものだった。


「……この研究会の目的は、太古に存在していた優れた魔術、魔法を学び知り、取得すること」


 殊勝な心掛けだな。

 この時代の人間の多くは、現代の魔術魔法で満足しているが、彼女は逆に古代の魔に目を奪われたのだろう。


「……笑わない?」

「どうして笑う必要があるんだい?俺の魔法学を極めるためには、今を知り、古代を知る必要がある!そこに笑う要素なんて1つもない!」

「まぁ、使えるし、他にも覚えたいし、笑うとしても虐げる笑いじゃないよ?俺の場合」

「………我は古代魔術しか使えんから、我を笑うも同然じゃしな」


 俺達の自分勝手な返答にマールは眠そうな目を見開き、丸くする。

 恐らく、古代の力を専門に研究しているマールは、他の魔術師、魔法使い……特に現代をこよなく愛するものにとっては、『変わり者』扱いで、肩身の狭い想いをしてきたのだろう。


「……不思議な人達。ねぇ、貴方達の名前は?」

「アレクだ。よろしく」

「ニーファじゃ」

「魔法学者のクロエラだ」

「……私はマール。これから宜しく」


 こうして、俺とニーファとクロエラは、マール室長の元に集い、古代魔術研究会に所属することになったのだった。


「え?3人とも特別生なの?」

「「「うん」」」

「……知らなかった」

「俺も君を初めて知った」

「我もじゃ」

「それは確かに」


 その後、マールから人数分の鍵石を貰い、教室に戻ったのだった。


 その背後を、マールがちょこちょこと着いてきて、初めての授業を受けたのが、全員を驚愕の嵐に沈めたのは別のお話。


 そして……スライム愛玩者が増えた瞬間でもあった。


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