魔神杖カドケウス
何かに誘われるように、骨董屋の扉を開く俺。
店内は、古びた魔道書や呪われてそうな道具などが揃い、なんかヤバイ雰囲気を醸し出している。
「いらっしゃ〜い」
間延びした気怠そうな声と共に、一人の女性が現れる。
闇のように真黒な髪に、夜を思わせる黒い瞳。身長は高いわけでも無いが、その身を纏う黒いローブが、彼女の美しさと不思議さをより強調している。魔族では無いだろうが……
……にしても。なんか既視感があるんだよなー。
「えっと…。どっかで会ったことあります?」
単刀直入に質問する。
「んー?気のせいじゃ無いかなー?……ま、いいや。僕の名前はアンテラ。ここの店主だ。君は?」
「あー。僕の名前はアレクです。よろしく」
「ふーん。アレク君ねー」
俺に瞳を向けてジロジロと見つめてくるアンテラ。
なんなんだ?こいつ……。
「うーむ。よし。君に良いものをあげよう」
「良いもの…ですか?」
「うん。無料でプレゼントするよ♪」
「……なんでですか?」
「なんとなく。いつか必要になると僕が君を見て思ったんだ」
「でも…」
「あー!もうっ!人のご厚意は受けておくべきだよっ!」
「あ、はい。わかりました。有り難く頂戴いたします……」
それを聴いて満足したのか、アンテラは店の奥へと歩いた。色々と気になるが、暇なので店内を見回す。色々なポーションや便利そうな魔道具もある。……これらは買ってくか。
「まったかなー?」
ちょうどアンテラが出てきた。……ん?その手に持っているのは…….?
「それは?」
「これはねー。魔神杖カドケウスって言うんだー」
二匹の赤き蛇が柄に絡み合った、禍々しくも神々しい黄金の翼を持つ杖。魔神杖カドケウス、か。
「遥か昔に神が創った神造級の武器だね」
「アーティファクト的な?」
「まぁねー。君の全力の魔力を込めても余裕で耐え切れるし、君の思い描くように魔力の質を変化させることもできると思うよー?」
なんだとっ!?俺の魔力に耐えられる…か。
今の俺は、四年前と比べて数値化するのも面倒なぐらいに魔力値が増加している。並大抵の杖では、耐え切れず木っ端微塵になってしまうのだ。
「どうするー?あげてやっても良いよー?」
「無償でいただきますね」
「チッ」
あ、やっぱり。渡すついでに面倒ごとを頼もうとしたなこいつ。
「んー。まー良いや。ハイどうぞ」
「あざっす」
渡された魔神杖。少し魔力を込めると、紅い光が杖の先端から溢れ出て、渦を描く。そこから感じられる歓喜のような感情。これは…
「おー。共鳴してるねー」
「共鳴?」
「うん。その杖は喋れないけど意思があるからねー」
「マジか」
なるほどな。つまり使い手として認められた……と考えて良いかな?
「ありがとう。良いものをもらった」
「どういたしましてー」
「んじゃ、あとこれとこれ、いくら?」
「あー。これわねー」
そんな感じで残りの買い物を済ませて、俺はアンテラの骨董屋を去る。
「またのご来店をお待ちしてまーす」
……最後まで、よくわからん奴だったなぁ。
まぁ、そんなことは置いといて、俺は手元の手に入れた得物…魔神杖カドケウスを見つめてほくそ笑む。
「これから楽しくなりそうだ」
何故かそんな気がした。