魔王様、Sorry!
ニーファとくっついて世界中の皆様から大量の自家製砂糖を御祝いとして頂いてから1週間。
既に学園、主に特別生の中では当たり前の光景となった──────訳でもなく、特に日常に変化は無く生活していた。
付き合う以前からそれなりに仲良くしていたので、今頃感が凄い。周りからの今頃感も凄かった。
仲の良いミラノからは、『やっとか』と微笑まれて、少しイラついて腹パンしたとかしてないとか。
ニーファはステラさんに『良かったですね〜』と楽しそうにお喋りをしていた。
…………マサキの勇者パーティとかに伝えるべきか?
あと、行くとか行っといて一切出会っていないリョーマのところとか。
……………マサキは兎も角、リョーマはいいや。うん。問題ないだろ。社会人だし。
話は変わる……あんま変わんないけど、今回の殺し合いの被害が世界各地にまで吹っ飛んだらしい。神竜が本気で戦うと、世界が揺れるんだね。
んで、その時に俺達が学生寮に居なかったのでみんな心配していたらしいが……適当に誤魔化しといた。
学園内でも、自国に1時帰国した者などが多くいた。ミラノも、先日ステラと従者を連れて1時帰国していた。
…………なんか、ごめん。
そして。
我が国の公爵家の娘であるミカエラ嬢から、このようなお話が。
それは、誰もいない教室(放課後)での話────
「アレク様、魔王様にご連絡しましたの?」
「…………………はい、してないです」
「………私に実家から帰国命令が出ていますので、向かうのですが……アレク様はどう致しますの?」
話し合いの結果、ミカエラ様御一行を俺達と一緒に魔都付近に転移させ、一緒に向かうことになった。
その事をニーファに説明しようとしたら、ニーファは俺の膝を占領し、一時間ほど寝やがった。
「なぁ、ニーファ」
「………むぅ?なんじゃあ〜」
その後、俺の膝の上で寝惚けているニーファの角を摩りながら、何気なく毒を吐く。
「俺らさぁ、山1つ潰したやん?」
「……そ、そんなこともあったのぉ〜」
「しかも、実家のすぐ近くやん?」
「……そういえば、お主、魔族の王子じゃったな。忘れとった」
「何それ酷い………んで、一応言っとくべきじゃね?父さんに今回の事件の全貌」
現実を突きつけると、ニーファは表情を固めてしまった。
「………頑張れ!アレク!我は此処で応援しとるぞ!」
「お前も来るんだよ!ほら、早速行くぞ!あくしろよ!」
アホな事をほざくので、強制的に連れていくことにした。実は想定済みだったりする。
「ほら、行くよ」
「はいはい、分かった分かった………メリアも行くかの?」
「えっと………プニエルちゃん達のこともお伝えすべきかと思うので、行きます」
そう言って、メリアは幼天使とウェパル、デミエルを抱え、背後にエノムルを従えて答える。
その後、ミカエラ嬢達を連れて、俺は転移を発動し、魔王国アヴァロンの魔都郊外へと移動したのだった。
「前みたいに城前じゃないのか?」
馬車に乗りながら気楽に魔都の入口を目指していたら、ニーファが疑問をぶつけてきた。
「普通は門から行くだろ?」
「では、今までは………」
「不法侵入だね」
そうして、城壁に近づいてみると、人影が無いことに気づく。まぁ、都市内で動く人の気配は感じるのだが。
「この時間帯なら、外に人が居るんじゃないんですか?」
メリアが疑問を持ったので、俺はわかりやすく現実を突きつけて答える。
「まぁ、魔都って言っても出入りはそこまで激しくないし、国も1個だけだから外部からのお客さんって少ないんだよね」
「なるほど……」
「それに、誰かさんが災害規模の事件を起こしたから、余計ね」
「お主も加担しとるからな?我だけではないからな?おい、聞いているのか!?」
さて、今俺達はミカエラ嬢の馬車の後に、自分の黒馬車を連結させて移動している。
なんと、我が馬車の御者を務めているのはウェパルだ。
スライムの癖に、技量がどんどん上がってるな。一家に一匹レベルで必要かもしれん。
ついでに言うと、ニーファの従者組は俺の正体を教えていない。転移魔法が使える冒険者として、里帰りついでについて行くという理由で。
同じ魔族ではあるが、出自も分からない輩に仕える主の護衛を務めさせる訳には行かないと、反発する者もいたが、ミカエラの一喝で黙った。
その後、俺の正体を察した聡明な従者達が反発した者にコソッと言ったらしく、後半は俺の方を見るとビクッ!と震えていた。
まぁ、俺に文句を言ったお嬢様を絶対に守る!と張り切っていた青年は、俺の正体を知ってさぞ震えているだろう。だって、仮にも王族に口答えしたんだし。
無論、どうでも良いので気にしないよ。
公爵家の娘の権限で難なく城門を通り抜け、ヘイドゥン公爵家の前で分かれる。
「それじゃあ、帰る時はこれで呼んでください。転移でお送りしますので」
「はい、わかりましたわ。アレク様、ありがとうございました」
ミカエラに遠隔通信が出来る水晶型通話魔導具(クロエラ製)を渡してサヨナラした。
「魔王城に何用であるか!この時間帯に入場するという連絡は………ってスライム?……それにアレク様!?」
門番を務める兵士にビックリされながらも、城門を通り抜け、魔王城に入る。
「アレク様、そして皆様方、馬車は我々が移動させていただきます。陛下の元へお急ぎ願いますか?」
「あぁ。事情はだいたい……十割ぐらい把握してるけど……先に行かせてもらおう。頼んだよ」
「はっ!!」
馬車を兵士に任せて、魔王城内部を歩く。エントランスに入ったところで、母エリザベートが待ち構えていた。
「ただいま、母さん」
「おかえりなさい、アレクちゃん……そして連れのみんなもお疲れ様。………あれ?プニエルちゃんは?それに、増えてる?」
母さんが疑問を持ったらしいので、メリアが抱えていたプニエルを渡す。
「その子がプニエルだよ」
「えっ?」
「マシタのママ!」
「え、ホントにプニエルちゃん!?」
驚いてくれて何よりです。
その後、他の三匹も紹介して、父のいる執務室に向かい、イマココ。
「ということで、ご説明にまいりました!」
「そうかそうか……アレク、正座」
「えっ………」
「知らんのか?異界の英雄達が伝えた最上級の謝罪礼儀であって……」
「あ、はい、します、正座」
「素直でよろしい」
何故か父さんに正座を強要されています。我が父シルヴァトスよ!俺が何をしたって言うんだ!
「あ、ニーファ殿からもお話を聞きたいのですが………」
「う、うむ。わかっておる」
最近の政務の疲れのためか、椅子に座り、膝の上に幼天使プニエルとウェパル、デミエルを乗せて和みながら、器用に俺とニーファにドスを聞かせてくる。
執務室に居合わせた妹のユメは、俺に挨拶をする機会を逃して、アタフタし、最終的には怖い父の目から逃れるために父さんの背後に移動した。
「さて………では聞こうか」
一から十までを包み隠さずお話して、全てをお伝えするが、流石に秘境を1つ潰したことで愚痴愚痴怒られた。
しかし、四堕神に命を狙われていると言った瞬間、その顔に笑みを浮かべていた。その瞳には、明確な殺意が浮かんでいた。
「そうか……事情はよぉーくわかった。既に各地への対処は済ませてあるから良いものを……次暴れる時には一言お願いしますね?ニーファ殿」
「う、うむ。承知した」
「それと、アレクのこと、宜しくお願い致します」
「そこは安心せよ!神竜の名において守ろう」
「その神竜に殺されかけたんだよなぁ……」
説明が終わり、一段落着いたところで父さんからお許しが出された。
ついでにニーファの正体を母さんとメリアは凄い驚いていたけれど。
………ん?
「ユメはニーファの事知ってたの?」
「え、うん。知ってたよ?最初に会った時にニーファさんが教えてくれたよ」
「そうか、誰かにバラしたか?」
「言い触らしてないよ!」
「流石我が妹。いい子だ」
「えへへ〜♪」
「……………おい、ニーファ。昔のお前は何をやってるんだ?」
「いや、まぁ、そのぉ……うん」
「それと、メリアは知らなかったっけ?」
「は、はい。初耳です」
「…………お前、よく生きてけたな」
「どういう意味じゃ!?それ!おい、目を背けるな!!おい、アレク!!」
「…………仲が良さそうで何よりだわ〜」
「……エリザ、肝が太いな」
「何が太いですってぇ〜?デブって言いたいのかしら〜?」
「いや、違うぞ?お前は十分美しから、安心しろ」
父さんは父さんで大変だなぁと思った。
ついでに、何故俺とニーファの婚約を認めてくれたのか聞いてみると。
「お前の幸せを考慮し、魔族全体のことも考えた結果だ。お前が夫になれば、ニーファ殿は魔族領で暴れないであろう?………確証はないが」
打算ありきだそうです。
まぁ、祝福してくれているのは嬉しいので、良しとしましょう。
「それとアレク。本当に反省してるのか?」
「……………シテマスヨ?」
「少し話そうか」
「いやだぁーーー!!!」
その日、魔王城から悲痛な王子の声がしたとかしなかったとか。