六時限目:スライム枕
「えー……ってことで、今回は俺が教師です」
「いや、意味わからんのだが」
世界樹の地下迷宮で閃いたスライムの有用性。
教室でそれを考えていたら、リダ先生に早急に実用性を考えて発表しろとの命令を受けてしまった俺は、何故か教壇に立っていた。
さて、訝しむように俺を見る特別生諸君には、しっかりとした説明が必要だろう。
……………まぁ、俺も説明が欲しいんだけども。
「何故、俺が此処に居るか、諸君らの疑問に答えよう………」
多少、胡散臭い喋り方で俺は叫ぶ。
「横暴な担任教師のリrrrrrrrrダddddaaa先生に命令されたからでっす!!」
「「「あぁーー…」」」
先輩勢からの納得の声。
なに?リダ先生は普段からそういう人だったの?
「えー?私が横暴なわけないじゃないですかー」
「「「ジー……(視線)」」」
「…………えっと……私、そんなに横暴でしたかぁ……?」
呑気に反論するリダ先生は、特別生(主に先輩勢)からの鋭い視線を受けて、黙ってしまった。
言動から察するに、自分の知らない一面だったらしいが。
「まぁ、兎に角。俺が何故か行うことになった『授業のような何か』とは……『スライムで出来た家具』です!!」
「?」
「スライムって……あのスライムだよな?」
「家具……?」
みなさん、すごい悩んでますけど、そこまで難しい話じゃないですから、大丈夫ですよー。
「では………はい、此処に並んでいるものに、触れてみてください!ほら、早く立てよ!」
俺は魔法で召喚した縦長のテーブルとその上に乗ったクッションをみんなに触るよう促す。
みんな、何かを察したようにクッションに触れて……その弾力に声を上げる。
「おぉー……柔らかいな…」
「ちょっと冷たい…ちょっと硬い?」
「こっちは暖かいし…もっちり?」
「スライムが中に入っているのですか…?」
「はい、ミカエラ先輩の言う通り、このクッションの中身はスライムです。無論、街の外を出たら高確率で見つけられる、普通の青い奴です。そして、ティターニア先輩とフリエラ先輩の言うクッションの温度は、氷と火の弱目の魔法をかけることにより、弾力などの変化がわかっています」
このスライム入りクッションは、スライムの滑り成分がクッション表面に出ないように、耐水性、防水性の高い布や皮を使っている。
「んで、ここの蓋があるんですけど、その中にスライムの餌を入れることができます。香草などの良い匂いを持つ餌を入れると、その匂いを持つクッションとして使えます」
「ただし、すぐに消化が終わったしまう餌をやった場合、頻繁に餌やりをしないといけませんし、逆に餌をあげなかったら死んでしまうことがわかっています」
まぁ、餌の量を調節して、数十分で食べ終えるようにした状態で寝たら、目覚まし時計代わりに震えてくれるんだけどね。
これはニーファで実験済みで、いきなり動く枕に超驚いていて、目を白黒させていたのが面白かった。
「んでんで、これは『スライム枕』と呼称させて頂きます。…………皆さんには、これを一個ずつ持ち帰ってもらって、明日感想を聞かせてください。では、僕の授業(笑)を終わりにしたいと思いま………」
「いや、アレク君!?まだ授業時間半分しか経ってませんよ!?」
「あ、リダ先生、丁度良いところに!続きの授業、お願いしまぁーす!!」
「え、ちょ」
俺は強制的に自分の授業を終え、席に座ってバトンタッチ。
ほかの特別生達はまだスライム枕に群がっているが、ニーファとプニエルは動かずに待っていた。
「お疲れ様じゃ」
「うん。凄い疲れた。死にそう」
「そんな清々しい笑顔で言われてものぉ……」
「あ、そう言えば、プニエルは同族が枕扱いされてるけど、大丈夫?」
今頃聞くことなんだけど、同族意識によって反抗したりしてこないだろうか。
『んー、大丈夫だよ!プニエルはね!プニエルはね!スライムだけどスライムじゃないんだよ!プニエルなんだよ!!』
「「………………」」
うん。意味わからん。
後日。
スライム枕を使ってみた特別生全員に高評価を得て、量産命令が出されたのだった。
冒険者稼業の他に新しい収入が出来て嬉しいのだが、疲れるんですけど……