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蒼い水面

 雨の中、何も考えずに走り出した。


 当てもなく行き先もなく、この世の時間全てを止めてしまいたかった。


 蒼い水面の中、沈む舟。


 見つめては助けようと身を乗り出す。


 けれど、ああ…だめだと身を翻すのは壊したくない絵がそこにあるから。


 ほら、ねぇ…綺麗だと思わない?


 それとも不謹慎だと蔑む?


 濡らしてく天の恵みの音が。


 この肉体からだを、世界を。


 優しく包み込んで。


 ――蝕んで……。


 そうゆっくりと…ゆるゆると。


 









 雨の中、勢いよく地を蹴っていた足はやがてゆっくりと地を蹴り始める。


 目指すは何処だ?


 帰る場所は何処だ?


 迷子になった幼子のように辺りを見渡しては立ち尽くし、そして。


 空をゆっくりと仰ぐ。


 今だけどうかこの醜い心を…隠してください。


 蒼い水面の中、溶け込む色が美しくて。


 思わず足を踏み入れた。


 未知の世界へ。


 一歩一歩…確実に飲み込まれている。


 それを自覚しながらも、ああ…いい。

 

 誰も気づかないだろうよ。


 あてもなく動く足が辿りついた世界には温度はなく、ただ在ることを赦されているのは水の色だけ。


 状況に応じて身にまとう色彩を変じることの可能な水面のそれだけ。


 ああ…。


 沈む舟を見て、綺麗だと思った。


 絶妙なコントラストが生み出す束の間の色。


 それに彩られた世界は、とても美しい。


 ならば、それに飲み込まれる寸前の己も…傍目には美しく映るのだろうか。


 あの目を奪われた哀しい色のように…そんな色を生み出せているのだろうか。


 魅せられた。


 魅せられた。


 あの世界に。


 追い求めて雨の中、出会った。


 何も考えずに真っ白な思考回路の中に浮かび上がった情景。


 沈む色。


 この世界から別の世界へ移り行くその瞬間こそが、己の居たい場所なのだ。


 己の凍った心を溶かす水に。


 全てを赦されたかった。


 美しいと思った瞬間に、己も美しく朽ちれるのならこれ以上幸せなことはない。


 己に美しいと思わせたモノと同じように己もまた…美しいと誰かを魅せられるだろうか。


 この世界に気付くだろうか。


 ならばそこにある色に溶け込みたいと思うだろう。


 蒼い水面の中、沈み行く時間たち。


 時は止まった。


 この水面の中で。


 時に応じて変化する世界の一部の色として。


 蒼い色へと姿を変えて、そしてまたここへ辿りついた誰かを魅せて惑わすのだ。


 新しい色を得て生きるために。

 

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