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侵食

 夢中で夢中で、だから見失ったんだ。


 だからこそ分からなくなってしまったんだ。


 必死で必死で、だから気付かなかったんだ。


 だからこそ応えてあげられなかったんだ。


 だから間違ってしまったんだ。


 ――息のする場所を。


 息が出来る場所を求めて。


 安寧を求めて。


 平和を求めて。


 この足は駆け出した。


 脇目もふらずに。


 ただひたすら走り続けた。


 追いかけた。


 がむしゃらに毎日。


 どこにあるのかも知らないものをずるずると。


 あるのだと信じて。


 走り続ければきっと見つけられるものだと思い込んで。


 なりふり構わずにただ足を動かし続けた。


 肩で息をして、聞こえてくる音に怯えながら。


 迫ってくる闇の日から逃れようと、精一杯空気を吸い込んで前だけを見据えて走った。


 平和を。


 安寧を。


 優しさで満ち溢れた幸せな日々を取り戻したくて。


 ただそのためだけに。


 何物にも変え難い光のためだけに息を切らして痛む足を叱咤しながらも走り続けた。


 その先に必ず安らぎがあるのだと信じて。


 追って来る騒々しい足音を振り切って。


 聞こえてくる悲鳴を無視して。


 泣き叫ぶ声に耳を塞いで。


 そうしているうちに夜が明けて、明るい世界が広がってくれるのだとひたすらに信じて。


 暗黒の世に呑まれない様に一生懸命踏みとどまって。


 侵略されて赤色に染まる同士たち。


 そんなふうにはなりたくなかった。


 壊された思い出を抱えて。


 昔を見つめて居たかった。


 一体どこの誰が何のために始めたゲームなのか知らないけれど、もううんざりだ。


 どうせこれも単なる気まぐれから始めただけのお遊びの一種なのだろう?


 これ以上巻き込まないでくれ。


 息が出来なくなる。


 けれど、立ち止まってはいられない。


 走り出す。


 息がもっと苦しくなるけれど、このままここで息絶えるよりも。


 少し苦しさが増すだけなら、息の出来る場所を探すほうが建設的だろう。


 だから走る。


 ただひたすらに。


 道を見失ったふりをしながら。


 何にも気付かないふりをしながら。


 耳を塞いで。


 息を潜ませて。


 少々苦しくなっても立ち止まったりはしない。


 あの苦しさに比べたらこれくらい、どうってことないと思えるから。


 けれど。


 本当は来る時のままにこの身を預けて流されたいとも思うんだ。


 そのほうがきっとずっと楽だろうから。


 そう思うけれど、それでも後ろを振り返って闇に呑まれるのを好としないのはひとえに。


 全てを諦めたくないからだ。


 だから、今日も走り続ける。


 目がかすんで足元がふらついても。


 走る続けるんだ。


 きっとあるだろう静かな優しい時がある場所を目指して。


 今はひたすらにただどこかも分からない道を全速力で息を乱しながら。


 一人でも行くんだ。


 周りはもう赤い色。


 赤に支配された哀しい世界に取り込まれてしまっているから。


 帰るところはもうどこにもない。


 だからこそ、ひたすら前だけを見て。


 信じたものを追い求めてゆく。

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