ここにバカがひとり
息を吸って息を吸って、吐いた。
また一つ息を吸っては吐いた。
大きく吸って、小さく吐いた。
準備はいい?
さぁ、位置について。
用意!
――それで、それから、何を、どうするんだい?
今更に首を傾げてしまった。
だって、何をするつもりだったのか、忘れてしまったから。
仕方ないじゃないか。
思い出そうとしても思い出せないんだから。
ここにバカがひとり。
世界に取り残されたバカがひとり。
出遅れたんだ。
バカだったから。
緊張して緊張して。
心臓がバクバクしてたんだ。
だから、それを少しでもほぐそうと深呼吸を何度も繰り返してたんだ。
これ以上緊張してカチカチになってしまわないようにただそれだけに意識を集中させていたら、そしたら……忘れてしまっていたんだ。
何をするつもりだったのか。
なんでそんなにカチカチになっていたのかが、分からなくなってしまったんだ。
ぽっかりと穴を開けて緊張が記憶が消去してしまったようだ。
息を吸って吐いて。
――それから?
やっぱりここは、位置についてよぉーい…ドン?
それとも、準備運動?
ここに首を傾げたバカがひとり。
いつまでそうしてるのか。
いつからそうしていたのかさえもう思い出せない。
だから、いつまでもそうしているのか…。
世界に忘れられたバカ。
だって、一つのことに頭をとられると、これから何をするのかさえ覚えてられなくなるような奴だったから戦力外だって置いてかれたんだ。
ひどい話だと思わない?
…え?
僕の頭がひどいってかぃ?
……世界が賢すぎただけだよ。
そして、また息を吸って大きく吐き出したんだ。
思い出すのに頭を使いすぎて疲れちゃったから息抜きにそうしたんだ。
だけど、あれ…。
何をしてたんだっけ?
何に頭を使って僕は疲れたんだろうね。
そうしてまた僕は息を吸って吐き出すんだ。
そして、また何を考えていたのか忘れてしまうんだ。