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刺傷

 刺傷。


 それは刺す事でできる傷。


 とてもとても痛いもの。


 けれど、私がここに生きているという証になること。


 刺傷。


 それは他者を心に宿したからできてしまったもの。


 とてもとても苦しいもの。


 けれど、私が独りじゃないという証になること。


 刺傷。


 それは愛おしさからできてしまったもの。


 とてもとても悲しいもの。


 けれど、私が誰かに愛されているという証になること。


 刺傷。


 さしきず。


 サシキズ。


 ――人が常に孤独と戦っているという証にあるもの――











 私は貴方を愛しています。


 とてもとてもとてもとてもとても。


 愛おしく思っています。


 お慕い申しております。


 貴方に向けて幾度この気持ちを紡いでも、貴方に全て伝えきれない。


 いくら言葉にして示そうにもそれだけでは足りない。


 もっともっともっともっともっと。


 貴方にこの想いが伝わればいいのに。


 この思いが。


 この想いが。


 この重いが。


 このおもいが。


 このオモイが。


 貴方を埋め尽くしてしまえればいいのに。


 そしたら私だけをみていてくれるでしょう?


 貴方は嫉妬に苦しまなくてすむでしょう?


 そう言えば貴方は笑う。


 無邪気に顔を歪めて、微笑む。


 私のこの手に鎖を巻きつけながら。


 とても重い鎖が手首を締め付けていく。


 ああ。


 この重さは貴方の私への狂気すぎる想いの重さだ。


 私に対する執着と依存。


 これがあるから貴方が苦しむ。


 けれど、これがなければ貴方はもう生きていけない。


 きっと私も生きていけない。


 いくら言葉にしても足りなかった。


 この想いは貴方に全部伝えきれない。


 貴方への愛おしさなのに。


 なんてもどかしいのだろうか。


 言葉では足りない。


 とてもとてもとてもとてもとても。


 切ない。


 だから。


 もっともっともっともっともっと。


 貴方に伝わるように。


 だから、許すの。


 貴方が私にしたように。


 私も許すの。


 互いの想いを刻み付ける苦を一生背負うことを。


 貴方が伝えようとしてくれる愛を私が受け止めることを。


 言葉以外で示そうとしてくれてる貴方のこの恋情を。


 私自身の身を張って受け入れることを。


 痛みの伴う滑稽なほどのその想いを私にぶつけることを。


 私がここに生きていて愛されているという証を。


 私は笑って享受する。








 私は貴方を愛しているのに。


 貴方は私を愛してくれてるのに。


 それなのにそれでもまだ信用できないなんて。


 なんて憐れな私たち。









 縛って傷付けあうことでしかお互いの愛を証明できない。


 束縛しあってでしか信じることができない。


 それがひどく痛く、苦しく、悲しく、愚かで滑稽なことだと知りながらにしてもなお。


 それでも、ああ…。


 私たちは互いを。


 まだ。


 きっと。


 ずっと。


 一生。


 永遠に。


 「―――…愛おしく思うのでしょう…――」


 貴方も私も刺傷だらけ。


 私たちの愛はまるで鋭くとがった刃のようだから。


 それが互いが触れ合うたびに互いを貫通させて。


 それが愛の証になって、幸せと呼ぶに値する。 

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