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そして、世界は平和になった。

 ある日、あるとき。


 その決意のせいで。


 あの子が幸せと言った日常を、俺が崩してしまった。


 直接ではないけれど。


 結果と言うか、間接的にそうなってしまった。


 そして、俺からも奪われた。


 唯一の安らぎの場所と、愛しい愛しいあの子を。


 ああ。


 ひとり泣いてはいないだろうか。


 孤独に怯えていないだろうか。


 いきなり引きずり出された戦場と言う名の舞台で。


 俺とあの子は再会を果たす。


 ああ。


 ああ。


 どうして、どうして。


 お前がそんなところで怖い顔をして立っているんだ?


 こんな争いがなくなるようにと願っていたお前が、どうして。


 そんなところで生きている?


 油断していた。


 迂闊だった。


 いつの間に俺の頭は平和ボケしてしまっていたんだ。


 ありえない可能性ではなかったはずなのに。


 どうして どうして どうして…。


 今のお前の眼にはもう人を殺すことしか見えていない。


 それでもお前はあとで自己嫌悪に浸るだろう。


 たくさんの命を奪うことしか考えられなくなった自分自身に嫌悪と憎悪を抱くだろう。


 俺と同じ。


 自分が作った死体の山から下界を見下ろして。


 今日はどんな風に世界を壊してやろうか?なぞと、口元には笑みを浮かべながら。


 ほくそ笑む。


 凄惨な光景を頭の中に思い描きながら。


 ああ。


 ああ。


 楽しみ。


 と、そして、嘆くのだ。


 自分がしたかったのはこんなことじゃないのに。


 これでは本当にただの、悲しみを大きくするだけの殺戮者。


 いや。


 イヤ。


 嫌。


 否。


 ちがうのに。


 もっともっと上手くやれると思っていた。


 誰も傷付けずに創れると思っていた。


 誰もが幸せになれる世界。


 きれいごとかもしれないけれど、みんなそのために戦ってきた。


 命を張って。


 やがて、気付くのだ。


 それが愚かな行為だということを。


 そんなやり方では憎しみしか生まれないと言うことを。


 それでも回りだした歯車は留まらない。


 止まれない。


 もう自分の意志だけではどうにも成らないところまで来てしまっている。


 愚か。


 愚か。


 愚か。


 そう言って、笑う俺もその中の一人だ。


 もう止まれない。


 引き返せない。


 引き返したくない。


 今まで払ってきた犠牲を考えるとなおのこと。


 何のために奪ってきたのか判らなくなる。

 

 理由が欲しい。


 それを正当化するための立派な言い訳が。


 ああ。


 醜いな。


 いやな人間だ。


 けれど、もう直せない。


 そんなところはもう直せない。


 直す必要はない。


 俺が全てを成して見せよう。


 他者が本当に望む世界を造ってやろう。


 この俺が。


 この俺自身で。


 それが俺の言い訳になるのなら。


 俺は終わりたい。


 その罪にとらわれて生きていたくはないから。


 肉体に同じ痛みを持って。


 終わろう。


 道連れにこの醜き戦いを背負って。


 俺の存在はこの世界の中ではちっぽけな命の1つに過ぎない。


 けれど、この戦いを知る個々の中ではそれほど小さくはない。


 その上にさらにインパクトもつけてやろう。


 俺は戦場であの子を見つけた。


 愛しい愛しいあの子を。


 俺だけしか縋る者がいなかったあの子を、戦場で見つけた。


 そのあの子に俺の死を与えてやろう。


 これで元の優しいあの子に戻ってくれたのなら、きっと世界はいいほうへ変わるだろう。


 争いのない、平和の世界へと。


 たとえそれがあの子に涙を与えても。


 俺が居た過去と涙しか与えなくても。













 おびただしい数を積んできた死体の山に、今日はとうとう俺自身が沈み込んでしまった。


 やぁ、やぁ。


 いままでごめんよ。


 けれど、今から俺も君たちの仲間入りだ。


 やぁ。


 こんにちは。


 ひさしぶり。


 ごめんね。


 







 俺の死体はあの子が積み上げた山のてっぺんにきっと一生在るだろう。


 きっとあの子は一生苦しみ、悲しみ続けるだろうけど、それでも俺は幸せだ。


 あの子が作った死体の山のてっぺんであの子を見守れるから。


 それはきっと、この世界のどの場所よりもあの子に一番近い場所だから。














 そして、少女は戦いをやめる。


 戦いをやめ、明日を見る。


 平和を探す。


 手探りで一から。


 何もない世界から幸せのある世界を創造すると決意する。


 







 「これでもう、離れ離れにならないね」











 貴方はずるいよ。


 ずるい。


 私にやさしさをくれなかった。


 ぬくもりをくれなかった。


 こんな冷たさ、ひどいよ。


 全然あったかくないよ、寒いよ。


 痛いよ。


 悲しいよ。


 ……一人ぼっちだよ……。


 私に大好きな貴方の大嫌いな冷たい体だけを残していくだなんて。


 ひどいよ。


 ひどい。


 貴方のせいでとても私の腕が疲れるのよ。


 いつもいつも、大好きな貴方だった死体を腕に抱きしめてるから。


 じゃないともう夜も眠れないの。


 




 




 でも、幸せなの。


 悲しいはずなのにね。


 泣きながら、私は人々の幸せを願うの。


 みんなみんな早く幸せに成仏してね、と。










 そして、少女は今日も可憐に舞う。


 新しい平和の世界のためへと。


 世界が平和になるようにと。


 全ての争いの種を断ち切ってみせる。


 この世から全ての。


 そう…全ての種を。


 だから、これは戦いじゃないわ。


 平和を作るためのお掃除よ。


 汚いものはゴミ箱へポイ!よ。


 だからね、私の服はいつもすぐ赤色に染まってしまうの。


 でもね、平和の世界はもうすぐ来るの。


 みんなみんな戦わずに済むの。


 みんなみんなお空でひとつになって笑えるよ。


 だから、私頑張るね。


 ほら、もうすぐ平和が来るわ。


 戦いの種がない平和な世界が。


 誰も居ない、戦いの音がない静かな平和な世界が。


 もうすぐ出来上がる。

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