その果てに
貴方の腕に抱かれて眠れるなら死んだっていいと思える私を許して。
…なんてね。
そんなことを笑って口にしたら、私は貴方を泣かせてしまっていた。
ああ。
ああ。
なんと、なんて。
罪深き事だろうか。
ひっそりと、想いを通い合わせていた。
誰にもきっと受け入れてもらえないだろうこの愛を。
誰も認めない。
きつい固定観念。
人は皆同じではないだろうに。
ならば他人に、他の誰かに認められなくたっていい。
二人だけの想いで結構。
ひっそりと愛し合うくらいなら、きっと誰にも責められないさ。
外の世界を閉ざして笑う。
二人でただ居られるのなら、たとえ周りが自分たちを認めなくても生きてゆけるだろう。
それは誰かが、他人が壊してはならないもの。
だからもう放っておいて。
いつも少しの背徳感。
罪悪感を感じながら俺は君に触れる。
赦されないのがこれほどに辛いことだなんて誰が知っていただろうか。
知らないから、異質だと責めるのだろう。
最低――とまでは思わないが、無責任すぎるとは思う。
腰を抱き寄せて、顎を持ち上げて上を向かせて。
君は瞳を伏せる。
黒い大きないつも揺れている瞳を瞼の裏に隠して。
強気に貴方さえ居てくれれば――なんて、囁くけれど。
その瞳がいつも揺れているのは常に不安だからなのだろう。
ぷっくりとした薄い紅を差したような唇を少し湿らせて。
薄く口を開けて、俺がそこに触れるのを待っている。
赤く熟れた唇を指先で少し撫でてなぞって。
そして、顔を近づける。
徐々にゆっくりと。
君との距離僅か五センチほどで俺も目を閉じて心の中で呟く。
ああ。
――早く裁きが下ればいいのに――
二人で居られるのならそれだけで幸せ。
それになんら嘘偽りはない。
二人あってこその関係。
二人あってこその幸福。
けれど、やはりこのご時世。
誰か一人がおかしいと言えば皆が皆流されてそんな風に責め立てる。
だから、誰からも許してもらえない関係が辛いのは変わりはない。
君は泣く。
人知れず。
俺に隠れて。
一人泣く。
周りに白い目を向けられるのが怖いのだと。
好きと呟いて繰り返して。
そして、君は壊れていく。
きっといつか俺を責める日が来るだろう。
好きなのにどうして苦しいのだろうと。
ああ。
ああ。
なんと、なんて。
罪深きことだろうか。
君を苦しめる原因が自分だなんて。
この想いが君を狂わせていく。
手を引いて抱きしめた。
その行為がいけなかった。
二人で居られるならそれだけで幸せ。
そうだよ。
そう。
幸せだったんだ。
君と居られて。
けれど、それは二人あってこそのものなんだ。
ごめんね。
ごめん。
早く二人に裁きが下ればいいのにね。
なんて、祈りながら俺は細い君の首に手をかけた。
徐々に力をこめていき、君が息苦しさに僅かに顔をゆがめる。
僕は無表情でそれを眺める。
力をこめて力をこめて、きゅっと君の首を絞めてゆく。
君はそれを見つめながら幸せそうに微笑んだ。
俺もそれを認めて同じように微笑み返した。
ああ。
ああ。
なんと、なんて。
罪深きことだろうか。
愛する人をこの手にかけるだなんて。
息が苦しい。
上手く呼吸ができない。
君は笑う。
そっと持ち上げた腕に、手に力をこめて。
その先に俺の首を捉えて。
ゆっくりとゆっくりと力をこめていく。
そのたびに呼吸が苦しくなっていく。
気管が締め付けられているからだろう。
君は囁く。
キレイに笑って。
『貴方と居られて幸せでした。愛してます、死して尚も。永遠と誓います。』
俺も囁く。
『君と居られて幸せでした。この世の何よりも誰よりも一番に愛してます。死して尚の世であろうとも。幾度生まれ変わろうとも、永遠であると誓います。』
ああ。
ああ。
なんと、なんて。
罪深き愛だろうか。
愛する人をろくに幸せにできずに死なせてしまうなんて。
二人だけの世界では人は生きていけないのだ。
たとえ愛する者同士だとしても。