お父さんとお母さん
『朝。』
目もくらむほどに明るい朝は嫌いじゃない。
けど、好きでもない。
夢から現実へと起こしにやってくる光りはとても嫌い。
まだ眠いんだよ…。
言い訳なんて全然聞いてくれないで、毎朝毎朝凝りもせずに眩しい光りで僕を照らしにやってくる。
時計の針が正午を刻む頃には色が濃くなって、なんか老けたみたいになる。
ねぇ、歳とったかい?
…けれど、きっとまた次の日にはまた若返ってるんだろうなぁ。
そう思うと、なんだか少し…げっそりとした気分になる。
そう思うのって僕だけなのかな?
あぁ…そうだ。
このときはもう朝って言わないな…。
『昼。』
老けたから名前が変わったんだな、きっと。
ほら。
太陽も朝より上に上がってる。
老けたんだね…。
朝が老けると昼になる。
昼が老けると夕方になる。
夕方の空は赤く染まって好き。
小さい頃は悲しい気分にさせられて嫌いだったけど、今はとても気に入ってる。
オレンジのかかった夕暮れはとても綺麗。
橙色から藍色に変わる瞬間も好き。
お父さんが眠って、お母さんにバトンタッチする瞬間。
お父さんである朝が老けた昼が更に老けて夕暮れになると、知的美人な『夜』であるお母さんが活躍する。
また明日の朝も起こしに来るんだろうなぁ…若いお父さんの朝が。
『夜。』
夜は好きだ。
どんな時もいつもひんやりと冷めていて、とてもクールだ。
暗闇に住んでいるところが好き。
鳶色のカーテンで素顔を隠しているところが好き。
月を目立たせて脇役に納まってるところが好き。
……夜ってかなり照れ屋だ。
僕達を眠りに誘う歌を聞かせてくれる。
優しい子守唄はどこからか静かに聴こえてきて、気付けば包まれて眠ってる。
ずっと見守っていてくれる黒い存在は誰もが知っている自然のお母さん。
『朝』がお父さんなら『夜』はお母さん。
対だけど、二つは一つのカラダに住んでいる。
『空』という神様の中に生きている。
全てを覆いつくしてくれる闇。
その瞬間だけ自分が判らなくなるけれど、僕はその時間が好き。
色々考えさせてくれる空間だから。
元気で明るい『朝』と落ち着いてクールな『夜』。
ひんやりと身にまとわり付いてくる空気は、その日のことを振り返って反省させる不思議な力がある。
そんなところまでお母さん。
黒い色を好んで明るみには絶対に出てこないけれど、我が子を見つめるときの眼は、心はいつも温かい。
夜は好きだ。
世界を黒く自分色に染めるけど、僕を安心させてくれる。
明日も頑張ろうって思える。
月みたいに目立つことはしてないけれど、とても落ち着いていて羨ましくなる。
まだまだ小さいなーって悔しくなるときだってあるけれど、まだまだ時間はあるからと思える。
『朝』が明るいお父さんなら、『夜』はクールなお母さん。