表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

雨に降られて

 この雨の中、どうして私はここに居るのでしょう?


 本当なら今頃家で夕食作りに精を出していたはずなのに…。


 ああ…これは当分、止みそうにないな…。


 花屋に肉屋に靴屋に八百屋…。

 

 諦めて濡れて帰りましょうか…?


 周りの店には傘なんて売ってそうにもありませんし。

 

 にしても…ああ。


 あそこの木偶の坊さんは一体何をしてらっしゃるのでしょうね…。


 あんなところで、女の方と肩を並べて歩いてるなんて。




















 カサ。


 かさ。


 笠。


 傘。


 ねぇ、ねぇ…私を入れてくださりませんか?


 この雨の中、さすがに濡れて帰るのは少々忍びないのです。


 まだしばらく止みそうにもありませんし、お願いします。


 ご了承、頂けますでしょうか…?


 少し急ぎの用がありますので…無理には言いません。


 貴方さえよろしければの話ですので…。


 ………………だめでしょうか……?


 







 ざァざァざァ…――。


 










 …御一緒して頂けるんですかっ?


 有難う御座います!


 また後ほど改めて御礼をしますね。


 気なんて遣ってませんよ。


 なんだか私の気が済まないだけですから…お付き合いしていただきますよ。


 では、失礼致します。















 ざァざァざァざァ……――。













 えっと…そうですねぇ…貴方はどちらに向かわれる御予定でしたのですか?


 駅?


 なら、私もそこまでで結構です。


 ええ、大丈夫ですよ。


 駅なら電車にでも乗って帰れますし。


 それでも自宅まで行こうとすれば濡れるんじゃないかですって?


 …ふふふ…。


 お優しい方ですね。


 でも、そこは御気になさらずに。


 駅の売店になら傘くらいきっと売っているでしょうから、そこで買います。


 ……え?


 いいですよぉ…そこまでしてもらわなくても…かえって申し訳ないですから。


 ……。


 …そうですねぇ…ここまで言って頂いてるのにお断りするのもなんだか失礼ですよね。


 では、貴方のお言葉に甘えさせて頂きます。


 ふふ…可笑しな方ですね…貴方は。















 ざァざァざァざァざァ…――。













 荷物は持ってくださらなくて結構です。


 無理言って入れて頂いている身の上、私にそのような気なんて遣わないで下さいな。


 それにしても雨脚が強まってきましたね…肩とか、濡れてませんか?


 ……ああ…、ほら。


 もう少し此方にお寄り下さいな。


 肩が濡れてるじゃないですか…!


 私のほうが入れて頂いてる側なのに変な遠慮なんてしないで下さい!


 はみだしてるならちゃんと傘にお入り下さい。


 私は少しくらい濡れたっていいんですから…ね?


 













 ぽつぽつぽつぽつ…。















 あ!


 ここを右に曲がったところが私の家です。


 お付き合い頂き、誠に有難う御座いました。


 …雨もそろそろ止みますね…小雨になってきました。


 ああ…そうだ。


 どうです?


 少々散らかっていて見苦しいかも知れませんが、お茶でも飲んで行かれませんか?


 













 ぽつぽつぽつ…。















 その…私のほうから誘っておいてなんですが、たいした御持て成しもできず、すみません。


 粗茶ですが、ご一服どうぞ。


 それ、玉露なんですが…どうですか?


 玉露とか、お嫌いですか?


 そうですか。


 ホッとしました。


 お口に合って嬉しいです。















 ぽつぽつ…――。













 


 ……何ですか?


 その眼差しは。


 仰りたいことがあるなら、言ってくださって結構ですよ?


 …なんです?


 …これは一体何のプレイかって?


 嫌ですねぇ…?


 何を言ってるんですか?


 ………………本当何を言ってるんですかぁ?


 頭、ボケましたか?


 もう随分歳ですからねぇ…貴方も。


 え?


 私のほうがその倍年上ですって?


 はっ。


 だから、なんです?


 なんだって言うんです?


 私、買い物に行ってたんです。


 そしたらこの雨に降られたんです。


 判ります?


 貴方が急に私と夕飯を一緒にしたいって言うから、急遽材料の買い足しに出かけたんですよ!


 …貴方のせいです。


 貴方が私と夕飯を食べたいなんて言うから…なのにっ!


 当の貴方は何を思って他の女と笑ってたんですかっ!?


 あれには怒りよりも呆れました。


 拍子抜けしました。


 まさかあんなところで油売ってるなんて…! 


 私が困ってるって知ってたくせに…。


 メール、見ましたよね?!


 言い訳なんて結構です!!


 もう帰ってくださいな!!


 …………え。


 道に迷って、あの女の方と話してらしたんですか…?


 あそこに行くために…?


 …なんで?


 …私のため、ですか?


 ………………白々しいですね。


 でも、まぁ…いいでしょう。


 信じてあげます。















 ぽつ…――。















 さて、雨も完全に止んだみたいですし、さぁ、夕飯作りを再開しましょうか。


 …手伝ってくださるんですか?


 ふふ…ちゃんと手は洗ってきてくださいね?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ