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痛みさえも、それは愛?

 あの人の苦しむ姿を見る。


 傷だらけの後姿。


 どこかさびしげ。


 あの人の全てが何者にもまさっているのに。


 どうして唇を噛み締めて苦しむの?


 あの人の足元にすりよる。


 いつもみたいに笑って抱き上げてくれない。


 どうして?


 まるで僕がここに居ることに気づいていないのかのように。


 今までの日々が作り物だったかのように微動だにしない。


 僕の存在に反応しない。


 あの人は泣かない。


 いつも苦しそうにあえぐだけ。


 くつろげた襟元からかすかに覗く細く白い首に浮かび上がるそれは、何?


 赤い、赤い…赤い痕。


 まるで誰かの指が絡みついたような痕。


 あの人はこれに苦しめられているの?


 …僕が消してあげれたらよかったのにな。


 けれど、僕には無理だ。


 そんな力は無い。


 あの人を助けてあげられるだけの、


 守ってあげられるだけの、


 包んであげられるだけの…力が無い。


 無力だ。


 だから、どうか…誰かあの人を救ってあげて。


 抱きしめてあげて…。


 僕はそれをしてあげられないから。


 呆然と立ち尽くすその姿。


 何を考えているのか判らない虚ろな瞳。


 不規則な呼吸。


 あれは…過呼吸?


 ストレスからくるっていうあれ?


 袋…袋が必要だ。


 うろうろとする。


 袋を見つけた。


 夕暮れのテーブルの上。


 だけど、手が届かない。


 嗚呼…なにもできないのか。


 このまま何もできず死なせてしまうのか。


 とそこへ。


 人影が現れた。


 あいつは誰だ。


 倒れこんで胸元を押さえるあの人のあごをすっととって。


 あいつはあの人へと唇をつける。


 こんなときになにをやってるんだ。


 不謹慎だ。


 けれど…あれ?


 あの人の呼吸が元に戻ってゆく。


 はぁ…と唇を解かれ、呼吸が正常に戻ったあの人が目をとろんとさせて。


 朦朧とした意識の中で涙を流して。


 あいつのぬくもりを求めた。


 カラダを手繰り寄せて。


 何度も何度も唇を重ねあわす。


 嗚呼…あの人はもう苦しくないんだ。


 呼吸は正常にできているし、ならあの傷だっていつかは消えるんだよね。


 あの首に付けられた赤い痛々しい痣だって、いつかは癒えるんだよね。


 あいつが癒すんだ。


 あいつが抱きしめてくれる。


 あいつが側に居てくれさえすれば、きっとまた笑ってくれる。


 僕にじゃなくて、あいつにむけてかもしれないけれど…。


 あの人が…もう苦しまずに笑えるなら、僕はそれでいいんだよね…?


 たとえ、今度は僕が笑えなくなったとしても…それで、いいんだよね…?














 ……にしても、一体誰があんな傷をつけたんだろう。


 一体どこの誰があんな痣をつけたんだろう。


 










 僕は知らなかった。


 あの傷すべてが、あいつによって付けられたものだったということを…。


 嗚呼…それでもあの人はあいつを愛しているのですね…。

 

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