嘘つき
――好き――
好きだよ。
好き。
君のことが、好き。
とても好き。
誰よりも好き。
何よりも好き。
自分よりも好き。
けれど、君は僕のこと、好きじゃない。
むしろ嫌い。
きっと嫌われてるんだと思う。
僕にはいつもとても嫌そうな顔をするし。
僕が近づくといつも不機嫌になるし。
けれど、僕はめげない。
だって、君が好きだから。
君に認めてもらいたいから。
せめて、受け入れてくれなくても認めては欲しいから。
君は僕の事が嫌い。
どうしてかな。
判らない。
僕には判らない。
君のこと好きだって僕が言うと、君は泣きそうな顔になる。
嘘つきって、いつも怒る。
そして、逃げる。
僕の前から逃げる。
走って立ち去る。
時々歩いて立ち去る。
本当のことなのに、君はそれを嘘だと決め付けていつも切り捨てる。
拒絶する。
僕を。
僕の気持ちを。
君への想いを。
自分に向けられるこの感情が信じられないと言うような声で。
嘘つきって。
僕はいつも嘘ばかりだって。
本当は何も好きじゃないくせに自分にそんなこと言うなって。
そう言って、いつも怒鳴って、そして。
怒ったまま泣きそうな顔で、僕の前から消える。
嘘じゃないのになぁ…って言っても、君はそれさえも信じてくれない。
完全拒絶。
完全否定。
僕の存在さえも否定するような酷い行為。
けれど、僕はやっぱり君が好き。
好きだよ。
君が嘘だと言っても僕の中では本物だ。
好きなんだよ。
君のことが、この世で一番好きなんだ。
なんて、重い言葉なんだろうね。
――けれど、君がそこまで僕を嫌がるのならやめるよ――
嫌い。
嫌いだよ。
君のことが、嫌い。
吐くほど嫌い。
誰よりも嫌い。
何よりも嫌い。
自分よりも嫌い。
君のことが、この世で一番大嫌いなんだ。
――これでいい?――
君の言うとおり僕は嘘つきになったよ。
君のこと好きなのに、嫌いだなんて嘘ついてる。
嘘ばっかり。
どうすれば君は、信じてくれるのかな。
君にしばらく近づかないでいたら、君がちらちら僕を目で追ってくることに気付いた。
なんで?
と思いつつも君が僕のことを見てくれてるのだと思うと、それだけで嬉しくなった。
けれど、無視。
舞い上がって近づいたらまた嘘つき呼ばわりされてしまうから。
しばらくは言わない。
言えない。
好きだって言わない。
嫌いだもん。
君のこと、嫌いだもん。
僕は嘘つきだから、これでいい。
これで本当の嘘つきだよ。
好きなのに嫌い。
そんなことしてたら君のほうから僕に声をかけてきた。
嬉しかった。
けど、前みたく好きとは口にしない。
でも、言いかけた。
けど、途中で思い出してやめた。
代わりに嫌いだって言った。
嘘つき。
本当に君に嘘をつく。
心の中で好きと呟く。
君に直接声に出して伝えても信じてもらえないから。
いくらめげないと言っても、それはとても辛いから。
けれど、嫌いって君に言ったとき、心が痛んだ。
泣きたくなった。
けれど、情けないから我慢した。
嫌い。
君のこと、嫌いだよ。
そう言ったら君はカッと顔を赤くして、頭に血が上ったような…そんな顔をして。
そして、その後に傷付いた顔をして、僕の前から去った。
走って逃げた。
それを呆然と見送った後、なんだか…変な気持ちになった。
君が僕の前から逃げ去るなんていつものことだけれど。
変な言い方だけれども、なんだかもう…いつものように逃げ去る君の姿を見る事なんてできなくなるように思えて。
それはつまり、もう君と僕は話すこともなくなるってことで。
もう好きも聞いてもらえなくなる…?
そこでようやく僕は自分の失言に気付いた。
しまった。
好きとは違って、嫌いは本人に直接言っていいものではなかったんだ。
たとえそれが嘘だとしても…僕は君をその言葉で傷付けたんだ。
僕はあわてて君を追いかけた。
君の姿を捜した。
君をすぐに見つけた。
泣いてる…。
そう思った。
けれど、君は泣いてなんかいなかった。
顔を真っ赤にして怒っていた。
この嘘つきって。
どういう意味の嘘つきなのか判らなかった。
君にずっと好きって言い続けてたのに嫌いって言ったことに対しての嘘つき?
それとも本当は君のこと好きなのに嘘ついて嫌いって言ったことに対しての嘘つき?
どっち?
君が好き。
君のことが好き。
君が一番好き。
他の誰よりも、他の何よりも…好き。
好きだよ。
君が怒ってる姿を見つけて咄嗟に僕の口から出たのは、やっぱり好きの言葉ばかりだった。
何回目の告白なのかもう判らない。
何十回?
何百回?
これでまた逃げられれば、また記録更新だ。
聞き逃げの。
そういえば、よく考えればちゃんとした答えなんて一度ももらってない。
全部嘘つきってだけ言われて逃げられてた。
好きとも言われてないけど嫌いとも…そう、嫌いだなんて、一度も言われてない。
ただ態度からみてそうかなって思ってたけど、まだ判らないんだった。
好きって君にまた言った。
今度は逃げられないように抱きしめて。
腕の檻に閉じ込めて。
君は絶句して、怒った。
嘘つきって、また。
泣きそうな顔で怒鳴って。
腕の中でもがいた。
けど、放さなかった。
しばらくしておとなしくなった君の顔を覗き込んでみたら。
君は嫌いって言われて怒っていた時よりも赤い顔をしていて。
照れていただけだと判明した。
それで、ああ…と納得してしまったことが一つ。
僕が好きって言った後に君がすぐに怒るのは照れ隠しだったけれど、何故毎回逃げるのか。
それはきっと真っ赤になった顔を僕に見られたくなかっただけなんだろう。
嘘つきって怒るのが僕に好きと言われて恥ずかしかっただけだと知って。
その後に毎回絶対逃げ去るのが真っ赤になる顔を隠すためだったと知って。
僕もつられるように恥ずかしくなって、顔が熱く火照った。
なんて可愛いんだ、君って子は。
そこで僕は相当…君のことが好きなんだと改めて自覚した。
好き。
好き。
君が好き。