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 幾つもの命を看取って。


 幾つもの命の誕生をこの身で感じ取って。


 心が温かくなるのを覚えて。


 カラダが温かくなるのを知って。


 じんわりとした温度に、ほろりと涙を流した。


 ねぇ、ねぇ…この星には幾つもの生命が同時に存在しています。


 共生して生きています。


 始まりがあって終わりがあって…。


 樹齢千年を数える木だって私には到底敵いません。


 私より先に朽ちていきます。


 実に悲しいことですけれど、必ずと…胸を張って言えてしまいます。


 そんな長寿の木が芽吹く初めから、朽ちる最期までを見届けられる者はまずいないことでしょう。


 みれるなら始まりか、途中か、最期かの…いずれか。


 この世の法則を破ってはいけませんよ。


 けれど、私のような存在はそれを簡単に無視した歳月を生きています。


 いつ果てるのか判りはしない。


 いつ生まれたのかも思い出せはしない。


 この世の星の生き物は皆生まれてきては無に帰ってゆく。


 私の感覚ではあっという間に居なくなってしまうのです。


 決して交わりは出来ません。


 同じ時を生きていても、同じ時に私は生きていないのだから。


 私は死ねません。


 皆と同じように時を積み重ねていくことは不可能です。


 大好きな人も大好きだった人も友人も恋人も…皆私より先に死んでゆきます。


 その時は必ずやって来るのです。


 側に居てくれると言ってくれた人も、約束を破って死んでゆきました。


 ごめんと一言残して。


 私はいつも見送る側の者なのです。


 昨日生まれたと思っていた子供が気付いたら年老いた身体で孫たちに囲まれていました。


 私は全ての生命の誕生に居合わせる者。


 そして、全ての命の終幕に居合わせる者。


 私はどれほどの涙を流したことでしょう。


 幾千もの命を看取ってきたとしてもそれでもこの涙は枯れることを知らぬのです。


 学ばぬのです。


 慣れる事も知らぬのです。


 知ろうとしないのです。


 判ってはいるのに、悲しみはやはりやってくるのです。


 新しい生命の誕生は新しい悲しみの匂いを乗せてやってきます。


 始まりには必ず終わりがついてきますから…。


 喜びの合い間に漏れてくる死の匂い。


 それでも私は今尚ここに在り続けるのです。


 この世の全ての誕生を慈しみ、そしてまた誰かを愛しむのです。


 ――大好きですよ。――


 私は私の身の回りを取り囲む全てが大好きです。


 花は散ります。


 ですが、また来年咲き誇ります。


 人もそれと同じなのです。


 芽吹き、地に足を下ろして散るまでの間を美しく咲き続けます。


 そして、種を残して新しい花を咲かせる――。


 人も花も同じです。


 脆く、弱く…でも、逞しく繊細な生き物なのだという点において…。


 幾つもの生命を看取って、そして、これからもきっとたくさんの生命の終わりを見ることでしょう。


 それはとてもつらく、悲しいことです。


 ですが、それと同じ分だけの生命の誕生を喜ぶことができ、慈しむことができるのです。


 生まれて死に逝くのは人の世の理です。


 この世の条理です。


 それに抗う者として私は見届ける義務があります。


 どうか健やかにお育ちよ。


 どうか安らかにお休みよ。


 どうかまた会いに来て下さいな…。

















 いつか誰か…私の終わりも見届けてくれる者が現れるのでしょうか…。


 ならば、それはいったいつの話になるのやら…。


 ただ…もしあったとして、はっきりと判っていることはそれがまだまだ気が遠くなるような先の、未来のことだということなんでしょうね。 

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