落とし穴
テスト用紙。
意味の解らない文章や数字がずらりと無造作に並べ立てられているだけの紙。
白紙で出そうか。
解答用紙は。
問題用紙には漢字の訂正と英語のスペル間違いの訂正を指摘してだしておこう。
こんな問題、やってられない。
こんな間違いだらけのテスト、受けてられない。
文法を無視した文章。
方程式を解さない問い。
すべての法則を無視した理科の問題。
示された時代と内容が一致しないのにそれには触れてこない社会の問い。
一体これで何をはかろうというのか。
少年はふざけるのもいい加減にしろと配られたテストの解答用紙には名前だけを記入して。
問題用紙には全ての誤りを訂正してだした。
もちろん、問題用紙にも名前を書いて。
別に先生達を挑発したり馬鹿にするつもりでしたんじゃないけれど。
なんだかこんなでたらめな問題を出されると訂正を入れて突き返したくなるってものだろう。
ああ…でも、それは自分だけなのかもしれない。
みんな周りはカリカリと紙をはじくシャーペンの音だけがする。
訂正を入れてるんじゃない。
必死ででたらめな問題を解こうとして躍起になってはじく音だ。
そんな…解けるはずないじゃんか。
そんな問いに答えは存在しないんだから。
少年は教卓に立つ先生に問題用紙と解答用紙を渡して教室をさっさと出た。
本当はチャイムが鳴るまで席を立つのはいけないことだったけれど。
この教室の空気を一秒でも長く吸っていたくはなかったのだ。
だから、少年は間違いだらけの問題に悪態をつきながらも睨みあい、向き合う同級生達を置いて出て行った。
…馬鹿らしい。
そう思いながら……。
数日後、少年のもとに進学校合格の通知が届いた。
なんと受かったのはこの少年1人を除いて他にはいなかったという。
学校側としても来年の新入生が1人だけとはまた困った話だろうが、それも仕方ない。
あんな卑怯なテストを作ったんだから…自業自得だともある意味言えた。
気付かなかったほうもどうかと思ったが、それだけ真剣だったってことだろう。
問題用紙がちゃんと見れないくらい。
それがおかしいことに気付けないくらい。
解くことばかり考えて問題がおかしいことに気付かないなんて…盲点もいいところだとも思ったけれども。
受験で試されたのは問題を解ける学力・能力だけではなかった。
真に試されたのは問題の誤りに気付くかどうか…そこを試されていたのだ。
解く力ではなく、重点はそこに置かれていたのだ。