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道標

 まずは知り合いを演じて。


 それから友達を演じて。


 そして、恋人を演じて。


 家族を演じた。


 それから最後に他人を演じた。


 だって、ねぇ…本当の僕等は互いに敵同士でそれ以外の何者でもなかったんだから。


 僕等はお互いの立場を忘れて、そんなふうにだんだん親しく変化していく役を演じていた。


 演じていただけなんだ。


 僕等は選べないんだった。


 僕等は初めから決められていた。


 敵同士であると。


 だから、それ以外の何者にもなれないのにね…。


 なったつもりでいただなんて、笑わせちゃうよ。


 本当の立場に戻ったあと、気を遣ってくれる皆に敵であることに悲しみもなにもないって、言った。


 そしたら皆悲しそうな目で僕等を見ていた。


 嘘をついたのかな、僕等は。


 それとも嘘をついてないのかな、僕等は。


 どっちなんだろう。


 悲しいのか、悲しくないのか…。


 判らないまま、そして、僕は君に銃口を向けた。


 その瞳に僕の、恋人だった人への未練が見える気がして目を合わせなかった。


 合わせることが出来なかった。


 お互いに、己の顔がその人の瞳に映ることを嫌がった。


 否応なく、敵同士で今この場で対峙しているのだと認めたくなくて。


 まだ…こんなになっても僕等は情を捨てきれずにいたよ。


 捨てきれずに、ずるずると今日まで生きてきた。


 敵同士であることを認めるのを拒絶して、拒否して。


 それでも敵である君の仲間の命は奪ってきたよ。


 だって、敵だもん、彼等は。


 敵以外の何者でもない。


 だからそう…遭遇すれば排除するだけ。


 そして、今…この戦場で君ともとうとう遭遇してしまった。


 そうだね…。


 僕は言ったよ、君に。


 君も言ったね、僕に。


 『今から自分達は敵同士です』


 そう言った。


 もちろん、軽い気持ちで言ったんじゃないよ。


 流されて言ったんじゃない。


 でも、自分たちが望んで言った言葉でもないし、軽い気持ちで言って良いことでもなければ、軽い気持ちで言えるような台詞でもない。


 でもね、僕等には覚悟と決意が必要だった。


 声に出して直接君にぶつければ、自覚すると思ったんだ。


 明確に出来ると思った。


 君とのラインを。


 けれど、僕等は境界線も曖昧なまま背を向けてしまったね。


 想いを捨てきれずに、割り切れずにここまで来てしまった。


 君はきっと素直に降伏してくれはしないだろう。


 …君はいつだって高姿勢を崩そうとしない。


 今の状況を解っているのだろうか?と思わずにはいられないような強気な態度で。


 いつだって凛と背筋を伸ばした澄ました顔つきで。


 僕に刃を向けてくる。


 戦う必要がどこにある?


 君はそんな問いかけもせず、させてもくれずに有無なく交戦をしかけてくるけれど。


 僕等はあんなにも互いのことを理解できていたのに、どうして戦う必要があるのだ?


 僕等は理解できるよ。


 互いに歩み寄って、全てを曝け出せば。


 ううん…、全てを曝け出すと行かずともその手に握りしめられた武器を捨てて、代わりに互いに手を取り合えば、それだけでいい。


 たったそれだけの簡単な動作で僕等は変われるよ。


 争いのない世界を作れるはずなんだ。


 だからさぁ、ねぇ…まずは僕等が手本になろうよ。


 誰かがその道を示してあげないと、今の世界は変われない。


 対立していた者同士が手を取り合うのは確かに難しくて。


 手を取り合っても何をしていけばいいのかが判らなければ、すぐ元に戻ってしまう。


 だから、僕と君が手を取り合うことで、争わなくとも生きていけるよって事を証明して見せようよ。


 そのために君もその手に持つ武器を捨てて?


 僕はもう捨てたよ。


 必要ないからね、そんな物騒なものは。


 僕が武器を捨てて、両手を差し出せば君も武器を捨ててくれて。


 僕の掌の上に自分のそれを重ねて笑ってくれた。


 そうですねって。


 必要ありませんよねって。


 この手と手さえ重ねあせるだけで私達は戦わずして生きれるはずです。


 君はそう言って、僕の手を握り締めた。


 もう何も演じなくていい。


 もう敵同士ではない。


 本当にただの好き合う者同士。


 それだけの自分たちでいいのだ。


 皆に示そう。


 僕等は解り合えるのだと。


 その手に持つ、人の命を奪うだけの道具は捨てて、自分の手と相手のそれを重ね合わせて握るだけで…ね。


 ほら、世界は良い方へ変わってゆくよ。


  

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