盛の夢よ…
「掘り返したよ。」
掘り返した。
過去の栄光を。
誇りを。
ずっと昔に胸にしまって今の今まで自分を蝕んできたものを掘り起こして。
「ゴミ箱に捨てたよ。」
ためらいがちに伸ばした腕にこめられた想い。
それは未練。
けれど、堅く握り締めた掌に隠されたそれは震える掌から放り出された。
「投げ捨ててやったよ。」
痛いくらいの想いを。
いっそ苦しめるのならば、要らない。
そんな強がりを言って。
意地を張って。
ぽっかりとできた穴。
ぱっくりと裂けて開いた傷口に滲み出る血液。
額に浮かび上がる脂汗に。
激痛をかみ殺す唇。
痛々しいほどの姿に同情をするもの数知れず。
「何故にそれほどまでに強がるのだ?」
その問いに答える声は、擦れた声なき声。
「過去の栄華を今一度忘れるためです。」
でなければ何の道も開かれない。
自惚れは愚かしい。
浅ましい部分を滑稽なほどに明らかにしてくれる。
ゴミ箱に落とされた過去の栄華よ。
無かった事にされこそしないが、お前は必要がないと言って。
邪魔なのだと言われて忘れられる悲しき結末よ。
もし、誰かに見つけられたとしても持ち主はお前を拒絶する。
「両者哀れなことよ。」
浸透する音に誘われて背を向ける。
もう終わったのだと、それだけを告げて。
去り際にそっとぼそりと…聞き取れないくらいに小さな声で礼を零す。
「有難う。」
お前は最高であったと。
掘り返した胸につっかえてた過去の宝。
過去の遺物よ。
それを土に返して、私は行くよ。
ふらふらと覚束ない足取りで地を踏みしめて。
痛みに顰められた眉と、噛み締められた唇。
頬を滑り落ちるのは汗か…はたまた真珠の雫か。
服にシミを作るのは野に咲く赤い花の嘆き。
斑に描かれる時間の経過とともにひろがっていく地図。
やがてオサマルダロウ事を祈って。
「私は行くよ。」
過去に頼らない。
過去に囚われない。
少し汚れを帯びているけれど、それでも明日を生きるために。
私は行くと感覚のない足で地を踏みしめた。