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否定

 …さぁ、病んでゆけ。


 どこまでも深く深く貪欲に私を追い求めてみよ――。


 もう二度と見つかりはしないモノにいつまでも縋り付いて。


 そうして必死にいつまでも時を刻むというのなら、そうだな…そうだ。


 そのときはお前に褒美をやろう。


 私を忘れなかった礼だ。


 お前を迎えに行ってやろうぞ。


 思いを断ち切れずにずるずると生きた愚か者よ。


 私はお前を恨むぞや――。










 

 空は晴れた。


 ある昼下がりの事。


 独り膝を抱えていじけていたら、声をかけられた。


 何故、お前は生きることを拒むのか?と。


 僕は顔を上げて答えてあげた。


 君が居ないからだよ、と。


 そしたら。


 莫迦を言うな。


 お前が私を死に至らしめたんだろうが。


 にこっと笑った僕の顔を認めたら。


 そしたら、君の失笑を買ってしまった。


 皮肉気に口角を吊り上げて。


 あ…。


 顰蹙も買っちゃったな。


 とか思ったりして。


 また膝を抱えなおし、うずくまる。


 ごろんと平らな床に倒れこんで、それでも膝を抱えたまま。


 君が早く消えてくれないかと。


 どうせ幻に過ぎないのだから余計哀しくさせられるから、もう消えてくれないかと。


 思うけれど。


 でもね、それでもね…まだどこかで君を求めているんだ。


 探してる、今も――。


 ああ…。


 目頭が熱を持ち始めた。


 早く早く早く…消えてくれないだろうか。


 好きだけど、消えてくれよ。


 君はもう…居ないんだろう?


 知ってるよ、そんなこと。


 馬鹿だってよく言われるけれど。


 君にもよく莫迦だって言われたけれど、それくらい僕だって。


 ――知ってるよ――。

 

 目を逸らして、それでもまだ消えない――消えてはくれない君の気配に。


 泣かされそうだった。


 涙が出そうだと、下唇をぎゅっときつく噛み締めて。


 そしたら、君が僕に触れてきて。


 ぽろっと涙の粒が零れ落ちた。


 わしゃわしゃと、乱暴な手つきで頭を撫でてくれる君は偽者のはずなのに。


 懐かしくて。


 ぱたぱたと、涙の雫が床を濡らしてく。


 汚いな。


 みっともないな。


 ……情けないな。


 色々な感情がない交ぜになって、どうしようもなく息苦しくなった。


 ぎこちない手の慰めによって堰を切った涙がぽろぽろり…と。


 座り込んで膝にひじをついて僕を見下ろす君が照れ隠しのように空を仰ぐから…。


 たまらなくなって震える手を伸ばし。


 君は誰だ?

 

 問いかけながら。


 私はお前に殺されたカワイソウナ私だよ。


 そう返されると予測しながら、抱きついた。


 案の定、君はそう言っておとなしく僕に抱きしめられたね。


 どうして?


 お前との約束だ。


 お前がずっと私を忘れずに醜く、それでも必死にお前が時を重ねたのなら迎えに行ってやるとな。


 ああ…そっか。


 そうだったね。


 じゃあ、君は本物なんだ?


 肉体を持たぬモノに本物も偽者もない。


 ぽたぽたと、流れ落ちていた涙。


 水溜まりが、出来ていた。


 僕の心の悲しみの水溜まり。


 深い深い…水溜まり。


 僕を捕らえて、君を包み込んで。


 そしたら、きっと弾けて消えるんだろうね。


 いいよ。


 君と一緒なら、僕は地獄でもきっと幸福を感じられるだろうから。


 空は割れた。


 ある夕暮れの事。


 












 病んだ。


 已んだ。


 ヤンダナ、莫迦めが。


 どうか忘れてくれるなと、そう命令したのは私だが。


 ああ…本当にお前は莫迦な子よ。


 最早私はお前など愛していないというのに。


 お前は私を忘れられずに、命令に従ってほうけて生きた。


 恨んでいるぞ。


 憾んでいる。


 悲しみに明け暮れ、真っ直ぐに生きなかったお前を――。


 私の欲した生を否定したお前を。


 与えられているのに拒否していたお前を。


 それでも約束のために必死に時を刻んだよな、お前。


 ……莫迦な子……。

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