せめてものやりとりを
靡く風に、全てを任せていると。
全てを、うっかりと明け渡してしまいそうになる。
一体、何の誘惑?
心をのっとって、ぼや〜とさせたところで、何を植えつけた?
……要らないよ。
そんなものも、なにも。
必要ないでしょ。
空っぽなのにさ。
お前は透明じゃないか。
揺らめく水面を覗き込んで。
お前はそれでも映らないね。
だからさ。
そっと風をその肌で確かに、感じ取るんだ。
軽く瞼を閉じて、澄ました耳で確実にある音を聴き取るんだ。
文章にも心にも写真にも…残せないものを五感で感じて。
そして、仕上げに第六感に刻み付ける。
忘れるなよって。
風よ、お前は何を思う?
寂しいか?
記録に残らないことが。
それとも、それこそどこ吹く風ってか?
心の隙間につけ込んで通り抜けていくお前は、ひとり。
有意義にどこまでも行けるんだろう。
そう…きっと、この世界が滅んだとしてもずっとひとりでどこまでも吹きつづけるんだ。
風よ、お前は何を思う?
人の気を、気まぐれだと言って高見の見物と洒落込むか?
面白いと笑ってさ…。
靡かせる風は、ゆらゆらりと…有限の時などに縛られず、無限の世界をひとり巡るのだろう。
何を思うでもなく…。
それでも、もし全てを明け渡すというのならお前はきっと連れて行ってくれるのだ。
どこまでも共に在ろうと。
全てを託して身を任せるのならそれもありだと。
退屈しのぎにはなるだろう。
一箇所に留まれはしないから誰もついてこないのだ。
そんなふうに苦笑してさ、
だから、空っぽじゃないと誰も連れて行けぬのだよ。
だなんてさ、本当はどうでもいいくせに、悲しそうなフリして笑うんだなぁ…。
ならば、全てを明け渡そうか?
どこまでもそう…連れて行ってくれよ。
退屈しのぎにさ。
そして、風は小さく笑って拒むように吹き荒んだ。
冗談に決まってるだろって。
ほらね、やっぱり。
お前は誰も要らないんだ。
ひとりがいいって。
空っぽで居たいって、思ってるんだよな。
こっちこそ…冗談に決まってるだろってさ…。
笑ってやるつもりだったんだけどなぁ。
先に、言われちまったよって…くしゃりと髪をかきあげて座り込んだ。
なぁ…お前は怖いから何も本気にしないんだろ?
失くすのが怖いから何も要らないって嘯くんだろ?
ずるいよなぁ…ホント。
ホントは寂しくて仕方ないくせに。