白い糸と赤の季節
ヒトトキの幻を抱きしめて。
そうぎゅっと強く抱き寄せて…眠りにつく日々を繰り返している。
いい加減、お別れをしなきゃだめだって…気付いてるんだけど、それでもと…。
思い、その想いが重ねられて今になっている。
いつからかだめになった。
どうしてか忘れてしまったけれど。
季節を積み重ねすぎたせいかな…。
ヒトリで立っていられなくなった。
真っ白な糸が私を襲うんだ。
コワイ…。
イロもオトも…私を取り巻く全てが偽りのようで。
目が覚めて、一番に見えるのは赤いイロの季節。
白い糸が入り込めない……けれど、一歩手前まで迫ってきている季節に私は居続けた。
そこが一番…私にとって居心地のよい場所だったから。
下界と切り放された異空間に、私は生きている。
静かに呼吸をして、皺は刻まない、老いを知らぬカラダでひっそりと年を重ねて…歳月を心に刻んで。
じとじとした空が泣きそうに歪んで。
カラカラとした乾いた風がひゅっと吹き込んで。
そして、私の髪をたなびかせ、曇らせる。
ヨドンダ瞳には赤いイロが潜み、息づいた白に徐々に侵食されつつある。
ああ…お願い。
頼むから…私の世界を壊さないでと。
白い糸に縋り付いて泣き崩れた。
ポロポロと瞳から零れ落ちる雫は茶色の地面を白に染めあげていく。
お願いだから…もう私の居場所を奪わないで。
もうここにしかないの。
あの人が居たという証。
消えかかっている記憶が唯一残そうとした…忘れたくないと必死に抵抗しているものがここには眠っているの。
お願いだから…もうこれ以上大切な思い出を消さないで。
白い糸が四肢に絡み付いて自由を赦してくれない。
いつかは手放さなきゃいけないのかもしれないけれど…。
私にはまだ必要なの。
ヒトリじゃ歩いていけないよ。
もう歩けないよ。
コワイものが私を包み込んで、私が私でいられなくなる。
貴方を受けれたのなら、これは消さないでいてくれるというの?
……嘘。
貴方は私を白に染め上げるわ。
自分以外何も宿さないように…白を植えつけて。
次が来るようにと…次を譲れと動けなくして。
そんな世界に私は存在しないの。
意味がないの。
ここじゃなきゃ…。
気を抜くと忘れそうになる。
まだそんなに古い過去じゃないはずなんだけれども。
傷口が開く。
びくびくと…黴菌に過敏に反応しながら。
赤い色が私を包み込んで哀しくさせる。
だけど、それがいいの。
もうそれにしか頼るものがないから…。
白い糸がカラダに巻きついてくる。
ああ…もうこの季節は終わりを迎えるのか。
そして…白い季節が来る。
もう二度と巡ってはこない私の赤の満ちる唯一の季節。
私に赦された優しい思い出が…もう霞んで見えなくなる。
あの人を喪って、この季節まで手放すのは……。
それは即ち。
私の死を告げた。
ゆっくりとカラダから力が抜けていき、やがて赤い色を宿した瞳は白に染まりきる前に閉じきられた。
そっと手繰り寄せた赤い色を抱きしめたまま、終わりのない眠りについた。
赤い色を永遠のものにして…。