英雄
ある村に「英雄」と呼ばれる勇敢な青年がいた。
青年は村を襲う賊を成敗したり、
災害から村を救っていた。
最初は衝動的に誰かがやらねば被害者が出る。
ならば自分がやるしか無いという己の「正義」に基づいて行動していた。
青年にとって「英雄」なんて言葉はどうでも良かった。
すべては皆の為に、皆の安全な暮らしを維持するために「正義」を貫き通した。
ただそれだけだったのだが、結果として青年は村の「英雄」として
崇められることになった。
それから数年、青年は己の「正義」を信じて
「英雄」として村人たちに「救済」を与え続けた。
しかし、ある時、青年は気づいたのだ自分は何もしない村人達に
「利用」されているだけではないかと…。
「英雄」などというもっともらしい言葉で自分を崇める振りをして
「利用」しているだけではないかと…。
大人と言われる年齢になった青年は村の「支配者」となった。
何もしない村人たちを「救済」する代わりに
見返りを求め「権力」と己の「力」に酔いしれていた。
当然、村人たちは困惑した。なかには刃向かって来る者もいたが、
すべてを「権力」と「力」でねじ伏せた。
いつしか彼は近隣の村を賊たちと結託して襲い、支配下に治めていった。
そして、彼は支配した村を統合して「国」を作ることを決意した。
刃向かえば、抹殺されると知った支配下の村人達は従うしかなかった…。
遂に彼は「国王」となり絶大なる「権力」を得た。
「力」こそが全てだった。彼がこうなったのは
「何もしない村人達」への「復讐」でもあった。
どうして自分だけが辛い目に合わねばならないのか
という気持ちが「復讐心」を産んだのだった。
数年後「独裁者」となった彼は
己の「正義」を信じて疑わない「青年」に暗殺された。
彼は息を引き取る直前に勇敢な「青年」にこう呟いた。
「お前にも…いつか…私の気持ちが分かる日が…必ず…来るだろう…」
(了)