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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第2章 賢者と召喚
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師匠


静かなそして心からの御礼を言った。

蒼龍はどうしていいか分からず狼狽えている。

その様子を横目に私も婆ちゃんと同じような声音で応える。


「それはお互い様ですね。

私もずっと1人で何かする事が多かったですから、仲間が2人も出来て嬉しいです」

「!」


微笑んで見せれば、蒼龍が椅子の上でぴょんと反応した。


「俺も、あのっ」

「ソウ君も仲間だもんね」

「っはい!」


さっきの戸惑いようが嘘のように元気な笑顔。

蒼龍は事あるごとにこんな感情の上下降が続いているようだ。

感情が制御できないと言うよりは他者からの感情に対応出来ないのだろうと感じる。

人の目を気にしているというか。


きっと慣れが解決してくれる問題なのだろうな。

それまでは私がフォローを入れつつ沢山経験値を積むのがいいか。


「ふふ、私らは皆仲間だぁな」


婆ちゃんは微笑ましく見ている。


「そんな婆ちゃんに夕食会のお誘いです」

「おお、ほうかい」

「はい。

私と蒼君で晩御飯を作るので、よかったらご参加ください」

「がんばります!」

「なるほどねぇ」


お世話になったし何かしたいと自ら申し出た。

掃除でもしようかなと思ったが、結局料理にした。

皆さん無能力者が作ったものでも好意的で抵抗もないらしいと分かったからだ。

午前の話中に商会夫婦から許可を得ている。

蒼龍も食い気味に手伝うと言ってくれた。


長いこと何も出来ない状態だったから何か出来るのが嬉しいのかな?

うーん、どちらかというと誰かの為になるのが嬉しいのかもしれない。

自分の存在は他人に迷惑が掛かるとばかり考えていたようだからな。


とあるイギリス人ナースも、死ぬより辛いのは誰にも期待されない事だって言ってたもんな。


「そいつぁ楽しそうだ。

出席させてもらおうかねぇ」

「はい!」

「腕によりを掛けて作りますね」


予定しているメニューは下記。

クリームシチュー、鶏肉の野菜巻き、パン。

お好みでジャムをどうぞ。


スープ、おかず、パン。

というこの国のお決まりを外れない感じで選んでみた。


材料は帰りに買っていこう。

既にリストアップしたメモもつくってきた。


「そいじゃぁ、よけともうお帰り。

色々やることがあるんじゃぁね。

あたしも準備おばしてそっちに行くよ」

「そうさせていただきます。

それではまた、師匠」

「待ってますね」

「おうともよ」


手を振って一時解散。


草木のトンネルをくぐり出でる最中、少年が話しかけてきた。


「ししょー、ってどういう意味ですか?」

「うむ?

んー、知識や技術を教えてくれる人生の指針、目標みたいな人のことかな」

「目標…。

俺にとってのヨシカさんの事ですね!」

「おおぅ」


純真無垢な瞳が実に眩しい。


嬉しいやら、もっと家族として扱って欲しいやら…

うーむ、やはり蒼龍には姉とか母親とかいなかったモノを想定するのは難しいのだろうか?

先生、の方が分かりやすいのかな。


「私が君にとってそうなれているなら嬉しいよ。

姉より師匠の方がイメージしやすいならそう呼んでくれて構わないよ。

ヨシカさん、でも良いし」


だが一つ明確にしておかないといけない事もある。


「ただし、他の人には姉弟って説明するよ。

君はまだ子供だから、誘拐したとか言われたら困るもの。

この子は私の弟です!で、各方面に押し切るつもりだからね」


押し切る事が出来るかどうかはさておき。


蒼龍は真面目な顔をして頷いている。

歩きながらそのまま少し考えてゆっくりこちらを見上げて言った。


「俺はヨシカさんみたいになりたいです。

それが目標で、だから、師匠って呼びたいです。

それで、頑張って、1人で考えて生きていけるようになります。

だから、一人前になったら、ヨシカさんって呼んで良いですか?」


どこか必死な、切羽詰まった声に私は足を止めた。

振り返り、斜め後ろを歩いていた真摯な瞳を見つめる。

どこまでも真っ直ぐな、それ以外目に入ってない感じの瞳だ。


ん、コレは、ちょっと困った展開か?

姉だとか姉じゃないとかじゃないのか?

憧れ的な何かなのか?

男の子が近所のお姉さんに恋しちゃうアレなのか?

…。

女子力が死滅している私に好意を向けることについて、情操教育上良くないのではないかという不安はある。

だが、いいだろう。

私が他の誰かと恋する想定は出来ないし、この子に好きな娘が出来るまで側にいてあげれば良い。


思考したのは一瞬。


先生らしい見守る眼差しを心掛けてみる。


「もちろん。

学べることがあるうちはついてきなさい。

私が君を守るから。

共に教え合えるようになったら、隣においで」

「…っ!はい!」


安堵と歓喜を綯い交ぜにした様子の少年の頭を撫でて、繁華街へ向かって再度歩き出した。

歩きながら、考える。


これからの未来がどうなるか分からない。

私の行く末があまりに茨の道であるなら、この子を巻き込んではいけない。

悪いが置いて行くことになるだろう。


どうなってもこの子が困らないように可能な限りの糧を残してあげなければ。

その為にも彼の体質制御は最優先事項か。

知識や技術の他にお金や伝手なんかも必要だ。


最悪の可能性を考えるのも大切だが、やはり可能な限り一緒にいてあげたい。

年齢は知らないが、どう見てもまだ子供だ。

保護者が側にいなければならない。

連れ出した私にはその義務がある。

この子を連れて歩けるうちは必ず守ろう。


今度こそ、必ず。

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