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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第2章 賢者と召喚
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魔女の家


あちこちで客寄せの声が聞こえる活気に満ちた商店街。

その港寄りに位置する一角にこの店はあった。

明るい店内には日用品や用途不明の不思議な品々が並んでいる。


目的地までの地図を描いてもらい、店を出た。

海を背にした方向へ進んだ先に目的地はあるらしい。


着ているのは用意してもらった外歩き用の動きやすい服である。

流石に色々して貰い過ぎなのではないかと心配したが、どうやら当面の生活費は王国が持ってくれるらしい。


「無能力だからって来年からは払ってくれなくなるかも知れないし、この際1年分くらいポンと買っておしまい。

今買う分はイヤだと言っても絶対国からむしり取ってやるから、安心して注文しときな!」


と言われたので、紙に1年分くらいの日用品を書き出して渡しておいた。

そのリストにザッと目を通した奥様が呆れ顔で、

「あんた本当にちゃっかりしてるわね」

と言っていたが

「何か駄目なものありましたか?」

と惚けておいた。


いざとなったら売って生活費に出来そうな時計とか、

蒼龍の分の日用品とか、

下手すると森で隠遁生活かなと思ってサバイバルなアイテムを書いたりしたからかもしれない。

でもどれも必要なものだ。

ワタシワルクナイ。


様々な店が建ち並び、既知の店でも見知らぬものが沢山売っている。

見ているだけでも楽しい。

未だ身体を苛む筋肉痛など忘れてしまいそうだ。

いや、忘れるには自己主張が強すぎるけど。


女子らしく長々とした買い物に繰り出したくなるが、今は人と約束をしているのだ。

まだ時間に余裕はあるが、そのような時間はない。


実は路銀を手に入れているので、後で見て回るのもいい。

この路銀、昨夜のバリアボートのアイデアと設計図を売って受け取ったものだ。

売って構わないと答えた時の奥様の喜びようを思い出すと、なんだか逆に悪いことをした気になってしまう。

あんな即席アイテムであそこまで感謝されるとは。

世界の文化レベルが本当謎。

この謎を解き明かす事から私の生活は始まる気がする。


と、言いますか、このくらいのアイデアで良ければいっくらでも出すんで、本当、はい。


町の繁華街を通り過ぎて坂を登ると緑豊かな住宅地にでた。

植物や気候から、春浦々の陽気を感じる。


すれ違う人々に挨拶を交わす。

手を繋いでのんびり仲良く歩く我々の様子はまさに姉弟である。


実弟や妹が小さい頃もこんな風に歩いたな。

あの子達はどうしているだろうか。

今の私に何が出来る訳でもないが、せめて2人の幸せを願いたい。


そんな事をしみじみ思っていると、蒼龍が声をかけてきた。


「ここじゃないですか?」


地図を見、指された家を見る。

目当ての家は一際緑豊かな庭に囲われた小さな家だった。


「そうみたいね」


黒アイアンの飾り扉を通り抜けると、穏やかで不思議な空気が流れていた。

様々な木々と草花が私達を包み込むように繁ってトンネルを作っているのをくぐる。

木漏れ日がキラキラと辺りを照らし、ハーブと花の香りが包む。

心か体が浄化されるような錯覚を覚えながら入り口を探す。


「おお、素敵だ」


と、現れたのは色ガラスの嵌った重厚な木の扉。

こういうの好きだなと思いながらノッカーを鳴らし返事を待つ。

ややあって、しわがれた女性の声が応えた。


「はいはい、よく来たね」


ゆっくりと戸が開き、顔を覗かせたのは穏やかな雰囲気の老婆だ。

白く濁った瞳で私達を一人づつ確認するように見やった。


「お入り。

娘から話は聞いているよ。

陣を書いてみたいんだってねぇ?え?」

「…娘?」


招かれるまま中に歩を進める。

想定外の単語にとある予想が生まれる。


「もしかしてミーシャちゃんのお祖母様ですか?」

「そうよ、あら?

あの子から聞いてないのかい?」


壁を伝ってよろよろと歩く様は危なげだ。

手を出そうか悩むレベルだ。

が、一人で暮らしているくらいなのだから余計な事はしない方がいいだろう。


「貴女がこの道のプロフェッショナルだ、とだけ」

「まったく、昔っから肝心なところで言葉が足りないんだから。

そそっかしくってぇいけないねぇ」


大仰に溜め息をついて椅子に座る。

向かいの席を勧めつつ、ティーポットからお茶を用意してくれた。


「大したお構いもできやし無いけどねぇ。

このハーブティだけは私の自慢さね」


部屋いっぱいに香りを振りまきながら注がれるのは美しいマリンブルーのお茶だった。

蒼龍は好奇の目を向けているが、私には心当たりがあった。


「もしかしてブルーマロウですか?」

「おや!」


手が止まり、嬉しそうに皺が深まる。


「よく知っているねぇ?」

「この色は特徴的ですから」

「じゃぁ、これも知っているだろうねぇ」


そう言ってミルクピッチャーに入っていた透明な液体を少しずつ入れる。

ふわりとマリンがピンク色に染まると蒼龍は感嘆の声をあげた。


「ふ、ふふふ。驚いたかぇ?

この反応を見るのが楽しくてね」

「わかります。

ソウ君、もう一つのカップに入れてみるかい?」

「はい!」


老婆からミルクピッチャーを受け取るとそそそと入れる。

注がれた流れに沿って色が変わる様を興味深く眺めている。


「あんまり入れると酸っぱいよ」

「大丈夫です!」


元気な返事に私達は笑みを浮かべ、自分達のカップに口をつけた。

ふうと一息つき彼女は話し始める。


「話に聞いてまさかとは思っていたけど、想像以上にあんた達は変わっているねぇ」

「そうですか?」

「そうさ。

あんたは真っ黒だね。

色を見るどころか。

本当に、まったく魔力を感じない」

「?

それはどういう?」

「貴女は魔力を見る事が出来るのですね」


私は幾らか確信を持って尋ねた。


「失礼ですが、貴女の瞳は白内障というご病気なのでは?

ですが貴女の挙動に盲目の方特有のものを感じませんでした。

視力の代わりにスキルが目になっているのかと」

「…あんたは本当に魔力のない世界から来たのかい?」

「魔力がない世界だったからこそ注意深く生きてきたのですよ」


ちらと見えない筈の目で私を見た。


「あたしゃあんたの事をなぁんも知らんけどねぇ。

あんたはどこの世界でも難しく生きてそうじゃなぁ」

「毎日楽しく生きてますよ?」

「そうかい、そいならええさ」


「あんたがそれでいいなら」という修飾文が聞こえた気がしたけれど、気づかないふりをしようか。


「そっちの坊やは水魔法使いかね」

「はい」

「澄んでいて強い光だねぇ。

綺麗な晴れた日の海の色だ」


晴れた日の海か、分かる気がする。

きっとあの瞳の深い輝きと同じ色なんだろう。


「でも」と続ける。


「溺れかけていないかね?

気をつけなければいけないよ。

その魔力は結局の所あんたの持ち物でしか無いんだから、生かすも殺すもあんた次第さね」

「は、い」


歯切れ悪い返事をそのままに声色を変えて再度口を開く。


「やあやあ、ほんだらぁ本題に入ろまいかねぇ。

これをご覧。

こいつらが魔法陣さぁ」


広げて見せたのは美しい円状のタペストリー。

次々と紙袋から出されたのも同種の別物だった。


紅茶染めのような布に青インクで何やら描かれている。

いや、アレは恐らく絵ではない。

あの繊細かつ不可思議な紋様は文字なのだろう。

分からないなりに言語における規則性のような物を感じた。


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