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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第7章 勇者と饗宴
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進言


なんでも、ノエルは長年奥さんとギクシャクしていたらしい。

仲は悪くないのに、何となく合わない感じ。

詳しく聞くと二人の馴れ初めから簡単に説明を受けた。


なんでも幼少期からの婚約のため、夫婦というより兄妹のような関係なのだとか。

勿論家族ぐるみの付き合いで、治めている領地も隣同士だった。

穏やかに暮らしていた彼らだったが、ある年、北西部の領地に流行病が大流行したのだ。

2人の領地でも大被害を出し、困窮した。

ノエルは領地被害はそこそこだが家族を失い、奥さんは家族は失わなかったが領地被害が甚大だった。

当時お互いあまりに被害があったため、婚約を解消しようかという話まで出たそうだ。

それぞれ支援目的で有力貴族と婚約し直そうというのである。

それをノエルは断固拒否して、自分がどうにかして両家を支えてみせると啖呵切ったのだ。


見た目によらず熱いヤツだなと思ったが、そういえばこいつは自らを脳筋と自称しているのだったと思い出す。


婚前に威勢のいいことを言った手前という訳ではないが、ささやかな結婚式を挙げてからかれこれ数年。

衰退していた産業も勢いを盛り返してきつつある。

過剰労働に勤しんだ結果、現在の守銭奴ノエルが完成したのである。


じゃあその無表情も苦労した結果なのかなと思いきやそうではないらしい。

奴の守銭奴っぷりは上記の通り後天的なものだが、無表情さは生まれ持ってのタチなのだそうだ。

子供の頃から無愛想のコミュ障脳筋だと胸を張って言われた。

さいですか。


さてここからが本題だ。

仕事ばかりの朴念仁コミュ障であるノエルと、病弱で控えめな妻君。

生活リズムも違えば口数も少ない2人はどんどんすれ違うことが多くなっていった。

喧嘩をしている訳でもなかったのだが、そうであるからこそ仲直りも出来ない。

そんな風に互いに心配しあいながらも、日々微妙な距離感のまま過ごしていたらしい。


う、うーん、やきもきする関係だ。

かといって解決策など何も思い浮かばない。

倦怠期?ともちょっと違う感じだろう。

俺は彼女いない歴=年齢なのでそもそもイメージの欠片すら湧かない。


こんな悩みを初対面で言い当て、剰えアドバイスしたのが例によって姉である。


姉が何故言ってもいないのにノエル家の夫婦事情を理解していたのかは全く以って不明。

多分尋ねても「話し振りから察した」とか「見れば分かる」とか言いそうなので聞く気もない。


で、肝心の進言内容というのが「甘えてこい」の一言だ。

もう訳がわからない。


「…頼られたいのはお互い様だと、…そう言われた…。

……俺は…あいつが居てくれれば…、病気で無ければ、それだけで良いんだが…、…あいつにとっては…それだけじゃダメなんだそうだ。

あいつにも必要なんだ…役割が…。

俺も、それがどういう意味なのか…今なら分かる…気がする」

「でもなぁ、甘えろって急に言われても困っただろ?」

「泥酔したお前を指差して…『こんな感じにやってみろ』…と言われた」

「甘えてねぇよ!」

「…『こんなに甘やかさせてくれたのは久しぶりだ』と言っていた…」

「姉、絶許」

「…でもそれで上手くいったぞ」

「…」


渋い顔でノエルを見る。

ノエルは相変わらず表情筋は死んでいるが、どことなく嬉しそうだ。


もう色々と諦めることにして溜め息を吐き、「良かったな」とだけ言っておいた。


「ユキの姉ちゃんといえば!ヨシカさんだな!」


話がひと段落ついたからか、ミックがパッと身を乗り出した。


「ノエルよりオレの方が先に出会ったんだぜ!」

「…だからなんだ」

「羨ましいだろ!」

「…別に」

「思ったのと違っただろ」


ノエルへと詰め寄るミックに俺が水をかけた。


ミックは事前に散々妄想を膨らませていたからな。

さぞかし実物を見てガッカリしただろう。

そう思ってニヤリと笑い掛けたのだが、とても良い笑顔で返されてしまった。


「ああ!確かに深窓のお姫様って感じじゃぁなかったな!

どちらかと言うと女王様タイプだった!」

「…は!?」


"女王様タイプ"という単語に衝撃を受ける。


一瞬停止した思考がのろのろとミックの発言を吟味し始めた。


確かに鞭とか使えそう…いやいやいや、そっちの女王様じゃないだろ!

ってか、あの人変に自己評価低くて謙虚だし。

女王様と言われるほど偉そうじゃ無ーーあるか…。

偉そうかも。

いやでも…。


暫し考えた結果。


あれ!?

肯定も否定も出来ないっ!?

これは困った…。

いや、ここで沈黙はダメだ。

ーーもう大分沈黙してしまった気がするがーー何とか否定しなければ。


「い、いや!そんな上位職っぽくはない!

寧ろ悪徳参謀とか、影で手を回す黒幕司書官とかだっ!」

「なるほど!」

「…なるほど」

「なるほど!?」


納得された!?

然もノエルにまで!?


感心したように頷く2人に、何とか上手いこと否定しようと大慌てに慌てる俺。

そんな俺達をアーチボルトが「そうなのかぁ」とのんびりとこちらを眺めている。

ああ、あのマイペースっぷりが今は憎い。


「大丈夫だぜ!

アークもすぐ実物に会えるもんな!」

「…あ?」


再度思考停止しミックを見る。


「え、ユキ?

お前、お前ん家に皆で今週末突撃するって話、忘れてねぇよな?」

「…あっ」


そういえばそんなことを言っていたな。

すっかり忘れていた。

というかミックは姉に会いたいだけだったのだから、もう目的は昨日果たせているだろうに。

うちに一体何をしに来るんだ?


「"あっ"って!?」

「忘れてた」

「おおいっ!

こっちは楽しみにしてるっていうのに!」

「大丈夫大丈夫。今日言っとくから」

「ううーん、ヨシカさんなら確かに軽く受け入れてくれそうだもんなぁ。

大丈夫かぁ」

「何の信頼なんだよ」

「だって!ヨシカさんめっちゃ良い人じゃん!」

「…善良かどうかは保証しかねるぞ?」

「ええー、でも、良い人だろ?

商店や喫茶店の仕事を即興で、しかも無償で手伝ってあげるような人なんだぜ?

お前らと別れてうろうろしてた時にあのあたりの店員さんに話を聞いたけどよ、困った人にすぐ手助けするんだってエピソードを何人かから聞いたぜ?

まあ、他にも…いや、それはいいや。

明るくて気さくで優しい人じゃん!」

「う、うーん。

まあ…、人助けを躊躇わない人…では、ある、な、うん」

「ほら見ろ」


ドヤ顔のミックを前にして、俺は苦い顔で続く言葉を飲み込んだ。


暴力を振るう事にも振るわれる事にも抵抗が無い残念な人であり、復讐を躊躇わない困った人で、その上敵と見做すと酷く冷酷な一面を持つ人なんだが…。


うん。

普段は大人しいし、これは言う必要はないだろう。


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