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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第7章 勇者と饗宴
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白菓子


1対3のやり取りを見て和んでいると、途中で気づいたレヴィンがのたのたと近づいてきた。

ラトが背後から「そのまま行くんじゃありません!」と怒鳴っているがまるで気にした様子はない。


「おい、保護者が呼んでるが」

「ん?おー、大丈夫」

「何が大丈夫なんですか!」


指差して指摘してやるがヘラリとした笑顔で流される。

眉間に皺を寄せたラトが睨みながら追いかけてきた。


「手と口を拭きなさい。

食べながら歩いてはいけません」

「お前ら、こっち見てただろ、なんか用か?」

「はいはい、手を出して」

「ん。

俺が聞いてやってもいいんだぞ!」

「はい、次は左手」

「んー」


言う方も言われる方も互いに慣れきっている。


「いや、なんつーか…」


まさか本人達に「お前らを観て和んでいた」とは言えず、誤魔化しがてら袋を振った。

しゃらしゃらと中で踊る無地のサイコロを、レヴィンが不思議そうに目で追った。


「コレ、食うか?」

「おー!食いもんなのか。くれ」


差し出された手のひらに少し多めに白い菓子を出してやった。

拭かれたての手に出すことへ少々罪悪感があったが、どうせ元の席に戻ったらまた汚すのは目に見えている。

気にしないのが一番だ。


レヴィンがもさもさと食べているうちにラト達にも勧めてみたが辞退された。

あまりは袋に封をして、仕舞うついでに一つ自身の口に放り込む。


あっという間に平らげ、再度手を拭かれているレヴィンに感想を聞くと「うーん」と気の無い唸り声をあげた。

普段何でもかんでも無心に食べているので喜ぶと思っていたので、返事を即答されなかったことに驚いた。


まさか好みじゃないのか?

こんなに美味しいのに?


「食べ応えがない」

「え?」


たべごたえ…。たべごたえ…。


「いやそれは、確かに無い、無いけど!

これは香りと食感を楽しむもんだから!」

「お腹いっぱいにならない」

「ならねえよ、そりゃ」

「もっと、噛めるヤツがいい」


質より量ってか!?

くそ!世の中には美味いもんと不味いもんがあると教えてやりたい!


「う、うー。

分かった!腹持ちいいヤツなら良いんだな!

今度パンプディングでもーーいや、ここに持ってくんならフレンチトーストの方がいいか?ーー持ち運びに適してるのはカヌレか…。

ああ、いや、弁当入れてるヤツ、あの時間止まるとかいう入れ物に入れてくればなんでもいけるか」


そう考えるとプリンとかでも普通に持ってこられるな。

お昼ご飯のデザートにプリンが食べられるなんて、素敵だ。


ハッ!いかんいかん、未来のデザート計画に思考が飛んでた。


「ーーなんでもいい、なんか腹持ちいいもん作ってきてやる!」

「いいのか?」

「ああ、次は上手いと言わせてやるからな!」

「おー」


俺はレヴィンの味蕾細胞に宣戦布告した。

キョトンとしたレヴィンは一瞬後に嬉しそうに微笑んだ。


そのままラトに引き摺られるように撤退するレヴィンに手を振って視線を戻すと、いつのまにか生暖かい視線に晒されていた。


ノエルだけは逸早く元の目の色にーーというか最初からずっとこいつだけは感情の読めない目をしているのだが、何となく生暖かい気がしていたーー戻った。


「…お前、本当に甘いもん好きだな…」


ノエルがボソリと呟いた。

その目は明後日の方向を向いていて、俺に向けての言葉なのにどこか独り言めいている。


「別に甘ければ何でもいい訳じゃないけど、まあ好きだな」

「…そのせいで昨夜は酷かったな」

「あ?デリックさんのことか?」

「…」


無言だが、その無言こそが「違う」と雄弁に示していた。

まあ、この話の流れでそれはないだろうとは俺でも分かる。


「…グラス3杯で…あそこまで酔うとは思わなかった」

「えー?あそこまでって?」

「何かやらかしたのか?」

「いや特に大した事はしてないはずだ。

でもやっぱりあの時の俺、酔ってたんだよな」

「…!?」


しみじみと再認識する俺の方へノエルがバッと顔を向けた。

どうやら驚いているらしい。


「……あそこまで豹変しておいて……、確信が…無かった…だと…?」

「えっ?えっ?何々?なんか面白い話?」


何故か愕然としているらしいノエルに、ミックが食いつく。

聞かせて聞かせてとそわついている。

ノエルと俺の周りをウロチョロするミックと違って、アーチボルトは不思議そうに首を傾げて問う視線を寄越すくらいだ。


「豹変?別に普通だろ。

初めて酒飲んだから酔ってるかどうかよく分からなかったんだが、酒を飲むとふわふわして眠くなるんだな」

「寝ちゃったのか?」

「ああ。

あんな所で寝るのは良くなかったよな、悪かった。

なあ、誰が俺を運んだんだ?」

「…寝たとか心底どうでもいいんだが………。

……運んだのは俺とお前の姉君だ。

俺が重力軽減の魔法をかけて…」

「なるほど、ありがとう」

「…いや、いい…。

…それより、姉君に礼を言っておいてくれ。

帰宅後あの人のアドバイスが役立ったんだ。

正直助かった…」

「そういやなんか話してたな」


寝落ちしてしまったため何の話をしてたかは知らなかったのだが、そこはノエルが説明してくれた。


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