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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第7章 勇者と饗宴
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柳風


彫りの入った木造りの両開き扉を開けると、目の前に広がったのは煌びやかな空間だった。

使用人らしき人に声を掛けられて言われるがまま会場入りを果たしたが、何もかもが想像を遥かに超えていた。

目の前の光景に目眩がしそうだ。


まず華やかに着飾った人々が色とりどり歓談している様子が目に入った。

それは宛ら日中の中に花祭り会場を思わせたが、こちらの方が目に痛く感じるのは人々が身につけている宝飾品の煌めきのせいだろうか。

それとも俺にとってあまりに場違いな雰囲気だからだろうか。


会場となっているホールは体育館2つ分くらいの広さで、細密な壁画とそれを縁取る様な白い柱と白壁が高級感を感じる。

曲を描く天井はカラフルな幾何学模様が広がっていて高く、何段もあるシャンデリアが左右対象にいくつもぶら下がっていた。

シャンデリア意外にもあちらこちらに小さな照明が多く設置されているのが見えたが、態と光量を落としているのかホール全体はほんのりと薄暗かった。

代わりのように正面奥の三つのステージがスポットライトを当てられており明るく際立っている。

中央ステージが催し物用で、左右は楽団が演奏しているようだ。

バックミュージックが本格オーケストラなんて豪華だなと思ったが、そういえば国際的な催し物だ。

これくらいが普通なのかもしれない。


見たところ食事はビュッフェスタイルらしく、正面向かって右側に立食スタイル人々が歓談している。

左側はテーブル席があり、酒や食事類を持ち寄って自由に利用出来るようだ。


俺の個人的な希望としては、さっさとノエルを見つけて一番角のテーブルを陣取って美味しいものを静かに食べていたいところである。


と、思っていたのだが…、歩くたびに次々に話しかけられる。


やけにギラギラした面々にぎこちないながらも返答を返す。

例を挙げるなら「はぁ」とか「はい」とか「ソウデスネ」とかである。

我ながら酷い。

自分でも「コミュ障丸出しだな…」と思うような相槌の数々だったが、あまりにアレ過ぎたせいで話をさっさと切り上げるのには一役買っていた。

中にはあまりに押しが強い相手もいて「悪徳セールスマンかよ」なんて内心悪態をつくこともままあったが、その度にルネがフォローを入れてくれた。

お陰様でここまで誰かに長時間拘束されることもなく歩き回れている。

ありがたい。


ただ心配なのは、会場を歩き回れば歩き回るほどルネの顔色が悪くなっていっている気がするところだ。

何度か大丈夫かと声をかけたが、大丈夫ですとしか返ってこない。

心配ではあるが本人の意思を尊重する形で様子を見ることにした。

いざとなったらルネを連れて先程の小部屋まで撤退しよう。

そう心に決めていると、背後から新たに俺の肩を叩く人物がいた。

振り返ると、とってつけたような笑顔を張り付けた背の低い男だった。


本日何人目かも忘れた訪問客への挨拶を述べようと口を開きかけたのだが、俺より先にルネが口を開いた。


「お久しぶりでございます、オルブライト子爵」

「…ああ、オーランシュ侯爵令嬢。

ごきげんよう。

いつぶりでしょうか。

再びお目に書かれて光栄です。

お二人でお楽しみ中に声掛けをしてしまったようで申し訳ないのですが、彼と少々話させていただいても宜しいでしょうか?」

「勿論でございます」


自分をさておいて話が進められる様子を「ルネと仲いい人だったのかぁ」なんてのんびり眺めていたのだが、唐突に話題に俺が登ったので挨拶をする番が回ってきたかと背筋を正した。

男は相変わらず偽物っぽい笑顔を貼り付けたまま、俺に歩み寄って来た。

受け応え体勢を整えた俺が「あれ?」と思う間に間合いを詰められ、「近くない?」と戸惑う間も無く即座にわき腹を叩かれた。

笑顔を微動だに変えることなく行われた突然の凶行に、俺は避けることも反応することも出来ないまま驚いてキョトンとしてしまった。


無言で暫く見つめ合う。

俺が頭の上にハテナマークを浮かべていると、向こうが諦めたように腰を折って大仰な礼をしてみせた。


「…お初にお目にかかります、勇者様?

子爵位を頂いております…ノエル・オルブライトと申します。

以後お見知り置きを?」


笑顔はそのまま淡々と慇懃な挨拶をする男の名乗った名前にびっくりする。


「えっ、…えっ?ノエル?」

「…」

「マジか。

全然分からなかった」

「…よく言われる」

「だよなぁ」


上から下までまじまじとノエルを見る。


髪色に近いグレーのスーツ。

普段目元を隠す長い前髪はオールバックにされているため、明るい空色の瞳が見えている。

会場が薄暗いせいで少し光っているようにも見えるその目は今日は少し細められ、口元の端は持ち上げられている。


その顔は普通に微笑んでいるように見える筈なのだが…、だというのに、何故こんなに嘘っぽいのだろう。

不思議だ。

だが、うん、本当に表情を変えるのが苦手なんだな。

最初はノエルが笑んでいる事に驚いたが、なるほど、これでは無表情と大差ない気がしてきた。


「まあいいや。

お前もう食べた?」

「いや…」

「じゃあ適当に取って隅っこのテーブルでも陣取ろう」

「お前…姉は?」

「別行動。

なんかやる事があるんだとさ。

巻き込まれないように離れとけって言われてる」

「…」

「うん、分かる。

あんた何する気だよって話だよな。

俺も態々こんなこと言うとか、嫌な予感しかしないんだがな。

でも、流石に姉もこんなとこで暴力沙汰は起こさないだろうし、放置でいいかって」

「…」

「そんなことより、何食いたい?」

「…肉」

「俺もだ。

後はお菓子」

「最初から菓子かよ…」

「いいだろ別に」

「メイン料理は中央、菓子類はステージ近くにございます」

「了解」

「…ん」


始終笑顔でいる以外は普段通りの言動なので、笑顔ノエルにもちょっと話したら慣れてきた。


ノエルは直近の俺にしか聞こえないようなボソボソとした声で喋る。

いつも通りではあるのだが、この騒めきの中では碌に聞き取れない。

その為現在強化魔法で聴力を上げて会話をしている。

これはルネに聞こえていないのではないかと心配したが、普通に受け答えをしているところを見ると大丈夫みたいだ。

随分耳がいいんだな。


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