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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第7章 勇者と饗宴
122/149

切掛


全員が席に着くと、何処からともなくメイドが現れた。

驚いて目を剥いている俺には気にも留めずに、メイドは手際よく茶と茶受けを用意してくれた。

あまりに気配が無かったから、忍者かよと思った。

然も狙い澄ましたかのように紅茶は淹れたてだ。

なるほど、コレがプロなんだな。


出されたのはアールグレイ紅茶とダックワーズの様な焼き菓子だ。

どちらもすごく美味い。

ルネと俺が黙々とお茶の香りと菓子の風味を楽しんでいる間に、姉とトーマスとデリックは何やら植物の話題で盛り上がっていた。

今日の日中は花祭りだったから、多分その流れなんだろう。


横で聞くとはなしに聞いていると植生から花言葉、漢方に至るまで多方面にわたって話が広がっていた。

よくもまああれだけ次々と披露出来る知識があるものだと姉を眺める。

俺はハーブ類や菓子に使われる植物なら分かるが、それ以外は殆ど知らない。

というか、姉は何故漢方や毒草についてまで知識があるんだ。

相変わらず謎だ。


俺は暇つぶしに知らない植物の名前が出る度に賢者スキルで検索し、頭の中に浮かぶ説明文を流し読みした。

わあ、姉が言ってる事、大体合ってる。

すげえな。

そうなふうにだらだらと暇を潰す。


このスキルの困った点は一々ウィキもびっくりの情報量が出てくる事にある。

欲しい情報を見つけるのに苦労するし、この文章量は単純に辟易する。

改めてこのスキルを持て余しているなぁと感じて溜め息を吐いた。

絶対もっとこのスキルを有効活用する方法があるだろうとは思うのだが、具体案は出ない。


俺がこのスキルを使っている用途といったら、精々今みたいな暇つぶしの読み物とするか、お菓子のレシピを検索するくらいだ。


ーーああ、いや、そういえばもう少し活用法で思いついたものがあった。

先日仕事で見回り当番が回って来た時ーーアーチとミックとノエルと一緒に森を歩いて、偶に出る魔物を切り倒していた時ーーに考えていた事だ。

遭難とかしたら役立つかもしれない、と。

食べられる野草とか分かるし、何気なく検索かけてみて判明したが地図も出せる。


試しに今現在地の地図を検索したら城内の詳細な地図が出た。

良かった。

コレで迷宮みたいに広いこの城でも、万が一にも迷子にならずに済みそうだ。

しかし、なんか隠し通路とか見えてはいけないであろうものも見えてしまっているが、いいんだろうか?…まあいいか。

俺にしか見えないし、別に悪用する気も無いし。


「ん?」


俺はルネが挙動不審なのに気がついた。

さっきまでは普通にしていたのに、どうかしたのだろうか?


「どうした?」

「い、いえ…」


なんだか困ったような顔でそわそわしている。

きっと緊張しているんだろうな。

俺も緊張してる。


「はいはい、そこ。

いちゃいちゃしない!」

「は?してねえよ。

俺もルネも緊張してるだけだ」


ルネがカァッと顔を赤くした。

急に揶揄われて恥ずかしかったのだろう。

俺は姉の唐突な絡みに慣れてるが彼女がこんな悪ふざけに巻き込まれる事など今まで無かっただろうから。

可哀想に。

おのれ姉、許すまじ。


「ふふふ、だって今、見つめ合ってたじゃないか」

「殴るぞ」

「おーけーおーけー、この話は置いておこう。

そんな事より聞いてくれ」


懲りない姉を睨みつけるとサッと手のひら返しで話題を変えた。

ーあんたが始めた話題なんだが?

姉は俺から更に睨まれても飄々としている。


「今急に思いついたんだが、言ってもいいかい?」

「…なんだよ」

「真夏の軒先と掛けまして、晩餐会と解く」

「…その心は?」

「どちらもキンチョウするでしょう。

ドヤっ!」

「…」

「あ、このキンチョウっていうのは、緊張するのキンチョウと、蚊取線香のキンチョウを掛けててー「うるせぇっ!分かっとるわ!」「痛いよ!?」


俺は横に座っている姉にアイアンクローを食らわす。

髪が乱れるだの何だのとわーわー言うのを無視して暫くギリギリと締め上げ、適当な所で解放する。


「むう、酷いや。

これはお気に召さなかったのかい?

じゃあ、別の謎掛けを披露しようか?」

「いや、そもそも何故急に謎掛けを始めた。

少しは懲りろ」

「作家と掛けまして、悪徳政治家と解く」

「聞けよ」

「どちらもカクシゴトが得意です」

「…」

「無言でアイアンクローするのはやめてぇ!」


今のはちょっと上手かったなと思いつつも、そういう問題では無いので再度アイアンクローを仕掛ける。

そもそも、日本語の言葉遊びでは他のメンバーは何言ってるか不明なんじゃないだろうか。

首から下げている翻訳魔道具は意味を翻訳してくれるだけで、ギャグを解説してくれる訳ではないのだ。


数秒後に解放すると姉が頭をさすりながら口を尖らせて目を向けてきたが、無視して紅茶を飲む。

その様子を微笑んで眺める面々もまとめて無視だ。


俺は「はぁ」と溜め息を吐く。

すると俺の溜め息の上にもう一つ誰かの溜め息が重なった。

何事かと顔を上げると、その出所はルネの兄だった。


「いいなぁ」

「?」


少し不貞腐れたようにそう言ったデリックは、俺の視線に気づくとにっこりと笑顔を返した。


「そうやって遠慮なくやり取りできる相手が欲しいものです。

僕には親しい友人と呼べる人が居ないので」

「む。私はデリックさんの友達ですよ?」

「"遠慮なくやり取りできる"、ですか?」

「それは少々恐れ多いですね」


全然"恐れ多"そうじゃない調子で姉はヘラヘラと言う。

それをデリックは一瞬恨めしそうに見た後、ハッと何か閃いた顔になって、最後に楽しそうに微笑んだ。

その顔は俺よりも年上なのに子供みたいに真っ直ぐな笑顔だ。

よく邪気に満ちた笑顔を披露する姉には、是非とも見習ってもらいたいくらいの無邪気さである。


「いい事を思いつきましたよ」

「ふむ?何ですか?」

「それは内緒です。ふふ」


デリックは軽やかに立ち上がると、スキップでもしそうなほど楽しげな足取りで戸口へ向かった。


「僕は少々やる事が出来ました。

皆さんは時間までごゆるりとお寛ぎくださいね。

それでは、また後ほど」


言うが早いか、ウインクして出て行ってしまった。

誰も返事を返せない位の早業だ。


「…いいこと、ね。

何故か嫌な予感がするんだけど、気のせいかな?」

「…ヨシカ様、前もって謝罪する事をお許しください」


姉が苦笑と共に肩をすくめると、ルネが深刻な顔で頭を下げる。

そしてその2人を疲れた苦笑で眺めるトーマス。

…え?何この空気。


「長兄がご迷惑をおかけするかもしれません。

行動を起こす前に気づいたら私どもで止めますが、もしヨシカ様個人に何かしてきた場合は遠慮なさらずにおっしゃって下さい。

その時は私でも父でも構いません。

若しくは妹権限で長兄に対する実力行使も許可します」

「ははは、了解了解。

どんな実績があるかは知らないが、妹にそこまで言わすってすげえなデリックさん」


姉は感心した声音で言っているが、2人の言っている内容はなんだか物騒だ。

俺だけ話についていけない。

デリックさんは俺が知らないだけで危険人物だとでも言うのだろうか?

そうは見えないが…。


困惑する俺など意にも介さず姉は笑う。


「でもまあ、私個人に何かするって言うならなるべく受けて立つよ」


楽しそうだし。

そう言って姉はニヤリと口端を上げた。


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