表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第6章 賢者と祭典
112/149

月下美人


与えれば与えた分だけ、しかも子供みたいにベタベタにして食べる様子は見ていて実に面白かった。

すっかり食べさせるのにハマった私は手持ちのサンドイッチを笑いながらせっせと食べさせた。


食べ終えたら口を拭いて飲み物を飲ませて、一息ついたら次を持たせる。

椀子そばならぬワンコサンドイッチをしていたら、あっという間に全てペロリと平らげてしまった。

私が持っていたのは私用に準備した分なので、成人男性からしたら大した量でもなかったのだろう。

少々物足りなさそうである。

それならばとクッキーを差し出すと、それまでも一人で食べきってしまった。


流石に満足気な面持ちになった男の手口を、食べさせきった私が満足気に拭く。

左右の手を拭いて解放すると彼がもう一つシリアルバーをくれた。

その顔は何故かドヤ顔だ。

どうやら彼は礼の言葉を言わない代わりに、手持ちのお菓子をあげて謝意を表明するらしい。


「なるほどな?

ふっ、だが甘い、甘いな。

貴様はこのべっこう飴のように甘い!ふははは!」


私はそう言うと受け取った返し手で棒付きべっこう飴を握らせた。

ドヤ顔を返す私にキョトンとした彼は、そのまま"思わず"といった感じで飴を食べてしまう。

このままだと我々は延々このループを繰り返す羽目になるだろう。


私もべっこう飴を舐めながら、彼の様子をのんびり眺める。


「ところで君の名前はなんてーの?」

「ん?俺か?俺はレ…、ーはっ!」


言いかけてすぐにハッとした顔になった。

男は渡したべっこう飴を持ったまま急に立ち上がり、くるりとこちらに向き直るとピシッと敬礼した。


「第五部隊7班、レヴィンだぞ!

迷子のラト達を探してやってるんだ!

また泣いてるかもしれないからな!」

「ふむふむ、なるほどなぁ」


初対面の時から薄々感づいてはいたが、彼が雪久の話にあった問題児くんらしい。

名前だけ言われても覚えていなかったので、ちゃんと所属まで言ってくれたのはありがたい。


「あのな、ラトに言われてるんだぞ!

ちゃんと言うようにって。

だから、だからな、ちゃんと言えたぞ!」

「ふむ、そうか。偉いね。

ラトと言うのは君の兄弟かな?」

「あ?ううん」

「違うのかい?じゃあ、友達かな?」

「んー?ううん」

「これも違うのか」

「俺の家族だぞ」

「む?ふむ、なるほど?」


雪久の話からしてチームメイトは血縁者でもないんだろ?

じゃあ十中八九何かの共同体の中で一緒に育った仲間って感じか。

孤児院か、ストリートチルドレンか。

何にせよ聞くところによると、彼らはこの手がかかりそうな男の世話を焼いて回ってるという話だ。

きっと良い奴らなんだろうな。


「ふーん、なるほどな」

「なんだ?

何かダメなのか?」

「いいや?

ただ、ラトくんは良い子なんだろうなぁと思っただけだよ」

「ん!?

おー!!そう!そうだ!そうだぞ!!

ラトは良い子だ!

あの、あのな!

ラト、良い子だけど、チェシーも、ボヤンも、ルーも良い子だ。

チェシーはな、恐がりで、すぐ泣くんだ。

ボヤンは、寂しがりやで甘えん坊なんだぞ。

ルーは、ルーはな、俺の事が大好きなんだぞ。

俺も、みんな、大好きだ。

みんな、とっても良い子だなんだ。

あのな、だからな、俺、何でも、あ、あ、あの、俺がな、守るんだ!

俺、だから、俺、だから俺、俺、その、…う、…うん」

「ふーん、そうか、なるほどね?」


途中からあからさまに言い淀んだな?

様子もおかしくなってたし。

この不自然さを具体的に明文化するならば、

"何か言ってはいけないことを言いそうになって、何とか言い止める事は出来たけれども誤魔化そうとして失敗した"、って感じだった。


動揺して狼狽えている様は面白かったけど、現在のオロオロしながら黙って目を泳がせているのはちょっと痛々しい。

楽しんで眺め続けるのは悪い気がしてきたからフォローを入れてあげよう。

…鎌をかけがてらだけど。


「うんうん、分かるよ。

私も家族を守る為ならなんだってしてきたし、これからもなんだってするからね」

「お?おー!

俺、俺も!なんだってしたし、なんでもするぞ!」

「なんだってした、…ねえ?ふーん」


さっき言い淀んだのはそれ関係かね?

何か家族の為に何かやらかしちゃったから、彼の家族は罪悪感から過剰に彼の世話をしている、とかね?

邪推かな?


まあいいや。

こいつが何をやらかしていようが、私は別に気にしない。

殺人?窃盗?自傷行為?

私は気にしないね。

なんかシンパシーを感じるなぁ、ってくらいのもんだ。


「ふぅん」


気に入った。


「…じゃあ私と同じだ。

おんなじだ、ねぇ?」

「ん?んー、そうだな」


私がニヤッと笑みを浮かべて言うと、レヴィンは不思議そうにしつつも同意した。


「因みに私も今迷子の家族を探している最中でね」

「おー。おなじだ」

「おんなじだね」

「んー」

「私も君と同じで魔力が全然ないんだよ」

「お?おー。…ん?ない?」

「おんなじだね」

「ん、おなじ…?」


魔力無しカミングアウトに違和感を感じまくっているようだが、気にせず押し切ろう。


「いっぱいおんなじだね。ねー?」

「ん?んー、そうだな」

「ふむ、いっぱいおんなじな記念に友達になってくれよ。

いや、親友がいい、親友がいいな。

親友になってくれ」

「あ?」

「だめかい?」

「ううん。

おまえがそこまで言うんなら、それになってやってもいいんだぞ」

「あ、本当?わーい、やったー」

「嬉しいのか?」

「うむ、とっても嬉しい!

私と君とは今日から親友だ!

実に類友だな!よろしくね!」

「嬉しいなら良い事だ!」

「そうだねー、良いねー!」

「んー!」


よし、乗りきったぞ。


「よっしゃあっ、じゃあね、そんなレヴィンに親友記念のプレゼントをあげよう」

「ん?なんだ?」

「まあまあ待ってね、まずは約束していた珍しいお花をあげようね」

「おー、くれ」

「ちょっと待ってね。

んー。

ああ、あった、これだよ」


私が取り出したのは月下美人の花が入れられた瓶だ。


月下美人はサボテン科で多肉植物の一種である。

年に1、2回、夜の間のしかも一晩の短い時間だけしか花を咲かせない。

その両掌で包み込めないくらい大きい白い花は、何層にも重なる沢山の薄い花びらが放射線状に広がっている。

その中央は突き出た雌しべと絹糸状の雄しべから成っており、とても美しく可憐な花だ。


私が取り出したのはその酒漬け。

果実酒などに用いられる無色のホワイトリカーと共に瓶詰めされた一品だ。

幾重にも重なる月下美人の真っ白で優美な花弁は、今やガラス細工のように繊細に透き通っている。

特にこれは氷砂糖と共に漬けてある為だ。

砂糖を入れない方が長持ちするのだが、入れた方が早く透明になるのである。

自分で飲もうと思っていた為甘い方を選んだのだが、彼に渡すなら砂糖なしの方が良かったかもしれない。


因みに、この瓶詰めは私が知り合いの花屋の少女に作りかたを教えた結果、彼女が今日の祭りに出品しようと作ったうちの一つである。


中のお酒も飲めるし、一緒に花も食べられる。

ジャスミンにも似た甘く上品な香りが酒にも移っているので、花より団子のお友達でも中々楽しめるのではないだろうか。

月下美人は薬膳料理にも用いられるくらいに薬効があり、呼吸器系や高血圧などに効果的だそうなので、重ね重ねレヴィにピッタリのプレゼントであると思う。


勿論、彼やその家族がそんなことを知っているとは思えないので、御手紙をしたためておいてあげよう。

あと、なんか他にも色々お土産をおまけでつけてあげようじゃないか。


「どうかな?気に入った?」

「んー!気に入った!」

「そうか、良かったよ」

「これ、これいっぱいやる!」

「おお、いっぱいありがとう」

「おー」


余程気に入ったのか、私にシリアルバーを沢山押し付けると見惚れたように花入り瓶を覗き、嬉しそうに目を細めた。

レヴィが瓶を空にかざして、それをくるくる回しながら見入っているのを横目に、私はお土産セットを作っておいた。


入れ物は危険物を放り込んでいた例のポーチだ。

元から入っていた中身は鞄にぶち撒けておいた。

…誤爆する前に後で整理しておかないとな。

そこに彼に役立ちそうな魔道具や人数分のべっこう飴などあれやこれやを詰めて、今即席で書いた保護者便りを入れる。

最後にレヴィの手から瓶を取り上げて入れると、彼の鞄に入れた。


「それじゃ、そろそろ迷子を探しに行こうかな」

「おー、俺も」

「おう、じゃあまたね」

「んー」

「私はちょくちょく王都に来るから、探して見つけてよ。

かくれんぼだね。

見つけられたらまた良いものをあげるからさ」

「かくれんぼ」

「うん」

「良いもの?」

「うむ」

「分かった」

「よしよし」


それまでに何か魔道具でも作っといてやろうかね。

いや、その前に情報が欲しいなーーレヴィン達についての情報が。

こんな時こそあの約束を使うべきかな。

正直言ってハミルトンとの繋がりにはさっさとひと段落つけたいから丁度いい。そうしよう。


「それじゃあね、レヴィン」

「おー、じゃあな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ