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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第6章 賢者と祭典
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復活


あの食事会から5日が経過していた。


結局あの後治療中に気を失った私は、なんやかんやと治療を受け、意識の戻らぬうちに家に運ばれた。

その後も色々甲斐甲斐しく世話になったり見舞いをうけたりしているうちに、今日という日を迎えたのである。


そして現在。

柔らかく朝日と花の香りが窓から入ってくる穏やかなリビング。


最早慣れ始めてしまった痛みと共に小さめの木箱をえっちらと持って来て床に置くと、その上によいしょと乗って仁王立ちになる。

バっと両手を上に掲げドヤ顔を決めた。


「私、復・活!」


ポーズを決める私の前でフレイアと蒼龍が「わー」とぱちぱち拍手を送った。

2人の後ろで雪久が呆れ顔をしているが、どことなくいつもより嬉しそうなのは気のせいじゃないだろう。


因みにデレクは居ない。

晩餐会を前にして数日前に蒼龍の父親の所へと戻って行ったのだ。


彼と共同開発して作った魔道具は、見本と魔法陣などの設計図、ついでにデレク本人もまとめてトーマスに丸投げしておいた。

結果、無事特許を取得出来たしーー"ビリティ"と共同名義にしてやがったのには眉を顰めたけどーー、想定通り各所から絶賛されたらしいのは良かった。


彼がこの家を立ち去る時、

「それ持って田舎に引っ込め!」

と言ったら

「はい!ありがとうございます!

すぐには無理ですが、そのようにしようと思います。

そしたらまた遊びに来れますね!」

などと満面の笑顔で返してきたので、苛立ち紛れに彼が立ち去った後に玄関に塩を撒いておいた。

お陰で玄関先の雑草は枯れた。

なるほど、これが一石二鳥というやつか。


…まあ、奴の事など今はいい。


今の私の怪我の状態はそこまで悪くない。

いや、治ってないし凄く痛いし、まだ走ったり重い物を運んだりは出来ないが、ーーというかさせてもらえないがーー歩き回る事くらいなら出来るようになった。

それもこれも皆がまめに世話を焼いてくれたお陰だろう。

薬屋くんの協力と雪久が毎日再生魔法をかけてくれた甲斐もあって、数日足らずで大分回復する事が出来た。


ハミルトン達からも治療に協力したいと申し込みがあったのだが、そちらは面倒だったのでお断りしておいた。

自分の体質だの何だのの情報を自分から与えてやる気もないし、そもそも説明するのが面倒だ。

知りたかったら勝手にルネやトーマスから探ってくれ。

後日改めて謝罪させて欲しいとの事なので、その時に必要事項などは確認すれば良いだろう。


とはいえまだまだ重傷圏内だ。

怪我した当初は「ああやってしまったな」としか思っていなかったが、結局35針も縫ったと聞けば、「割と大怪我だな」という感想になる。

ーー因みにこの感想を口にした瞬間、雪久に無言でアイアンクローを喰らわされたのは良い思い出である。

雪久には顔についた傷から治してもらっているので、アイアンクローをされても平気だ。

そういう問題でも無いような気もするが、まあ、大丈夫大丈夫。


その為、いつも通りの格好をしていると見た目は既に普段通りだ。

普段から私は露出度の低い服装を好んでいるので事情を知らない人が見ても気づかないだろう。


見えるところは辛うじて大丈夫だということは、裏を返せば無理をすれば直ぐにあちこちの傷が開くであろうということではあるので気をつけないといけない。

特に腕と足と横腹2箇所の計4箇所は縫い合わせてもらった所なので、ここの傷が開くとヤバい。

何せ、薬屋に行ってまた縫って貰わなければならなくなる。

出来ればあの経験は二度と味わいたくない所だ。

麻酔も痛み止めも殆ど施術後の為のものであるため、処置中は普通にめちゃくちゃ痛いのである。

まあ、今も動く度にあちこち痛いんだけど。

耐えろと言われれば耐えれるが、だからと言って平気かと問われればそれとこれとは話が別だ。

ただ、主に正面方向に傷が偏っている為、椅子に座ったり仰向けに寝たりという動きに差し障りないのがせめてもの救いだろうか。


背中傷は武士の恥…。

何ならこの際開き直って誇ってやろうか、と心の中だけでヤケを起こしてみる。

しないけど。


怪我を縫ってる最中に気を失ってからというもの、今日に至るまで散々だった。

怪我が痛かったというのもあるが、各方面からの監視の目が厳しかったのである。

狩りは勿論、街に買い物も行かせてもらえなかったし、物を運ぶ事は愚か歩く事さえ止められる始末だった。

心配してくれるのは嬉しいのだが過保護というか何というか。

蒼龍とフレイアは言わずもがなだが、雪久でさえガラにもなく抱き着いてきたりもしていたしーー正直くっつかれると大変痛いのだが、抵抗など出来ようはずも無い。無論抱きつき返したーー、やはり皆に相当心配させたとみえる。

犯人に対しては後悔も罪悪感も無いがーー寧ろやり足りないがーー、流石にこの三人に対してはちょっと罪悪感が湧く。


これはもう皆様のご希望通りにこの不便さを甘受すべきだ。

そう思って今日まで大人しく読書や書き物などを続けてきた。

とはいえ、今日くらいは多少羽目を外しても構わないんじゃなかろうか。


そう、だって今日は花祭りの日なのである。


始めのうちは皆に街へ繰り出すのを止められていたのだが、そんなの黙って聞ける訳がない。

だって誰もが「とても綺麗だ」と言っていた。

屋台や出店が沢山出るとも聞いているし、そもそも楽しいお祭り騒ぎに私独りだけ繰り出せずにお留守番なんて、そんなの堪ったもんじゃない。

それに私はこの日の為に色んな人と企画したり共同開発したりしたものがあるのだ。

あんなに口出しや手出しをしたのに当日は放っておくというのも気が済まない。

「行かせてくれないと晩餐会にも出ないぞ」「泣くぞ」「暴れるぞ」と半分くらい脅した結果、不承不承といった様子ではあったが外出許可を得る事に成功した。


因みに門限を設けられている。

私は小学生かよ。


雪久は友達と約束があるそうなので過保護組2人が私の付き添いでーーあれ?私が保護者じゃないの?ーーついて来るそうだ。

奴は始めのうち友人との約束を断って私の側にいると言い張っていたのだが、私が固辞した。

そんなに気をつかわなくとも私は別に一人でも大丈夫だし、気にせず普通に友人と遊びに行けばよいのだ。

本当にここのところ、3人とも私に対して過保護が過ぎる。

紅茶の一つも1人で淹れさせてくれないというのはどういう事なのか。


とはいえ今日の外出許可を撤回する事は許さないぞ。

そんなこんなで4日と少し部屋着で過ごした私は、今日久しぶりに外着に手を通した。

着ているのはクリーム地に青灰色の花のロングワンピースと羽織る青灰色のカーディガン。

そう!食事会の時に宛らエロ同人みたいになってしまったワンピースである!

ふわりとしたシルエットの薄布は、今はもう斬り裂かれた跡も血痕も無く、新品同様に修復されている。

やっぱり魔法って凄い。


あの騒動の直後、己の怪我には泰然としていたのだが、自身の体と共にズタボロにしてしまったのがフレイア製ワンピースだったと気づいた瞬間ガラにもなく取り乱してしまった。

あれには私自身も少し驚いた。

私は一体今更誰に何を期待しているのだろう。

我が事ながら全く意味が分からない。


ただ、私のその酷く動揺した姿を見たハミルトンが気を利かせて完璧な修復を手配してくれたのだ。

しかもカーディガンの方とセットでクリーニングまで出してくれたらしい。

更にそれがなんかもの凄く修復クオリティが高いときている。


流石魔法!流石宰相閣下!


これを受け取った時、なんかもうハミルトンの事は全部許した。

彼には色々と不信感や心証の悪さを覚えていたのだが、全部どうでもよくなったのである。

それくらい現在は機嫌がいい。

洋服を渡された瞬間、私があまりに急激にご機嫌になって態度が軟化したものだから、ハミルトンの方が困惑していたのはかなり面白かった。

そして、私は私の事を笑かしてくれる奴に寛大である。

今なら一つ二つくらいなら無茶な要求も呑んでやってもいいとすら思っている。

何も要求しないなら、こっちからなんか喜ばれそうなお土産でも用意しておいてあげようかな。


…ただしそれでチャラだ。

信用はしない。


ああ、"信用"といえば一つ困惑していることがある。


事件の次の日から何人かお見舞いに来てくれたのだが、そのお見舞いの品の中に不思議なものが紛れ込んでいたのである。

それは何かというと…ファンレターだ。

何故かデリックとキャサリンからファンレターを貰ったのだ。

いや、なんでやねん!なんでやねん…。


これは…私はどうすれば良いのだろうか?

この寄せられている謎の信頼にどう対応すべきなのかマジで処遇に困る。

とりあえずあの二人は当初の予定通りに利用させて貰おうと思っている。

だが、…こうなるとなんか、罪悪感が…いや、うん…。


…何だこれ!

やりづれぇなぁ、もう!

懐くなお前ら!


やめだやめ。

祭りを巡ってる間くらいは諸々の問題を先送りにしよう。


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