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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第6章 賢者と祭典
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捕獲


人間の出す声とは思えない絶叫が響き渡った。


その凄まじい音量とがむしゃらな抵抗に、咄嗟に離れて距離を置く。

私が原因ではあるが、うるさいなぁという感想を抱いて顔を顰めた。

なに分最も近距離で全力の叫び声を聞いているので、こちとら耳を痛めそうなのだ。

まあ、顔を顰めたいのは私より彼女の方だろうし、痛めるなんてレベルじゃないのも彼女の方だろうが、先に手を出して来たのは彼女の方である。


スプーンは引き抜いて来たので、今も私の手の中だ。

残念ながら、刺した時の感触的に目玉は潰れてないと思う。

ただ、普段通りに注視することは難しいだろう。


酷いなどと思うこと勿れ。

私がこの体質をしていなかったら首の傷はもっと洒落にならないくらい深かった筈だ。

普通に死んでたぞ?

いや、まあ、殺す気でやったんだろうけど、だったら尚更私が手加減などしてやる義理は無いな。


彼女の殺る気の高さを思えば目玉くらい大した事じゃないだろう。

寧ろもう面倒なので、目玉の一つ二つ自分から差し出して貰いたいくらいである。

冗談だけど。


何はともあれ、勢い任せの一撃であったにも関わらず的確に片目を潰せたのはーーいや、眼球は潰れて無いだろうけどーー僥倖と言えるだろう。

残りは右目だ。

右目を潰したら縛りあげよう。

その上で念のため、デレクに魔法を封印して貰ってユージンに献上したら終了である。


考えながら、相手の動きに注意しながら歩み寄る。

目の前の女性は叫びながら左目を押さえ蹲っていたが、よろよろと立ち上がりながら獣の如く喚いている。

…なんだ?不自然だ。

我を忘れているにしては叫び続けられるなんて元気すぎる。

そう思いつつ距離を詰める最中、異変に気づいてハッとする。


「!

全員周囲警戒を!」


目つきの変化と私の肌を焼く違和感。

彼女は無闇に喚いている様に見えて、その実冷静に魔法を組み立てていたらしい。

想定どおりの無差別ナイフを発動させたのだろう。

周囲に警告を叫びつつ走り出せば、私の目の前にも沢山の透明な刃が並んだ。

だがそんな華奢なナイフでは私の足を止める事など出来ない。

私が全力でナイフ達に意識を向けると、小さなナイフが更に威力と大きさを減らした。

完全に消すには至らなかったが知ったことかと駆け抜けた。


細かい切り傷を意にも介さず近いて来る加害者というのは相当怖かったのだろう。

女性は物凄く引き攣った様子で顔をガードする。

直前に左目をやられているのだ、当然の反応だろう。


だがその対応を見て分かった。

この人、暗殺経験はあるのかも知れないが戦闘経験はあまりないみたいだ。

頭を守ることに必死になる余り、胴がガラ空きになっている。

確かにこのままでは右目を襲えないが…。


私は左手を彼女の肩に置くと、思い切り鳩尾辺りに拳を叩き込んだ。

何というか、我ながら女子が出しちゃいけない威力の腹パンである。

そんなものを食らっては堪らず、呻きと共に反射的に腹部を押さえて身体を折る。

…つまり今度は顔がガラ空きだ。

その隙を私が逃す訳もない。

肩に置いた左手で無理矢理上半身を上げさせると今度は右目にスプーンを突き立てた。


再度上がった絶叫。

だが、今回は二度目だからだろうか。

彼女は咄嗟に私を突き飛ばすと、動きを止めもせずに片腕を伸ばしていた。

その掌には先程とは比べ物にならない位の違和感が集束している。


瞬間私は彼女に飛び掛った。


刹那何も無い空間から爆発するように無色の刃物が飛び出した。

狙いを一切つけない、正真正銘の無差別ナイフだ。

私が彼女に飛びついたのは考える間もなくとった反射的な行動だったのだが、それでも少し遅かったらしい。

私は首と顔を庇いながら突撃して彼女に抱き着き、身を斬られながらもそのまま押し倒した。

勢い余った拍子に幾らか私と彼女を傷つけてしまったが知ったことでは無い。


彼女が痛みに怯んでいるうちにと、いち早く立ち上がった。

どうにも右目が開けられない。

血らしきものが流れてきて止まる気配がないのだ。

とはいえたじろいでいる場合ではない。

片目を閉じたまま、彼女の肩を思い切り蹴りとばして強制的にうつ伏せ状態にすると投げ出された両腕を後ろに捻り上げた。


「ぐ、離せっ!」

「あ?」


事ここに至ってもまだ抵抗しようとする彼女の頭を踏みつけると、堪えられない含み笑いをのせて警告する。


「お前の腕は後ろ手で拘束させてもらう。

これは既定事項だ。

抵抗するなら両腕を後ろ向きにへし折ってでも私は遂行する。

以上だ」

「ふざ、けるな、誰が」

「警告はしたからな」

「あ、え?」


私は頭に乗せていた足を退けると彼女の右腕を床にまっすぐ置き、その肘上へ乗せた。


「え?は?あっ、や、やめ」


相手の右手首を自分の右掌に乗せると、肘上に乗せた足を踏み込む。


「やめろ!やめろ!」

「いっせーのー…「姉ちゃんストップっ!!」


"いっせーのーでっ"の"でっ"を言うタイミングで雪久に羽交い締めにされた。

と同時にユージンが犯人を確保していた。

アレが無力化されるのであれば文句は無いので、無抵抗に捕らわれておく。


振り向いて拘束主に不思議そうな顔を差し向ける。


「ん?どした?」

「どうしたじゃねえよ!やり過ぎだ!」


声を荒げる雪久に、ちょっとムッとして口を尖らせた。

事前に"やりすぎだ"とか絶対言うだろうなとは思っていたが、やはり面と向かって言われると拗ねたくなる。


「は?

お前、これを見ても同じ事が言えるの?」

「いや、それは…」


私が自らのズタボロの身体を指差して背後に問うと、気まずげに言い淀んだ。

だがすぐ様気を取り直して「ともかく!」と仕切り直した。


流石は我が弟、復活が早い。

私という人間に慣れているな。


「言ってる場合か!まず手当てだろ!」


何かの布を渡されて止血するように言われたので特に酷そうな所を押さえると、ひょいとお姫様抱っこで持ち上げられた。

え?誰にって?雪久にである。

雪久にである←


「え?え?え?」

「ほら、大人しくしてろよ」


いや、これはっ!?

お姫様抱っこは、するのはいいけどされるのは恥ずかし過ぎる!


怒りと羞恥心と疲労とで箍の外れた私は、それらを誤魔化すように捲し立てた。


「は?は?

やり過ぎだろうが何だろうが、止めなかったらどれだけ被害が出てたと思うの?

妨害したせいで死者が出なかっただけで、ハミルトンさん始めこの場に居る人達を沢山殺そうとしてたんだよ?

てか、全然やり過ぎじゃなくない?

魔力を物質化するタイプの魔法を無力化するなら視力を奪うのは有効な手立てだよ?

あの状況で"布で目を塞ぐ"とか出来たと思う?

アレが一番優しい対策でしょ?」


雪久はもう無視を決め込んだらしく、相槌すら打たない。

だが、私は近くの椅子に座らせられてからも止まらなかった。


「私の体質で威力を大幅に減少させてこのダメージなんですけど?

普通の魔人だったら四、五回は死んでるんですけど?

この今、脳内神経伝達物質エンドルフィンが多量に分泌されているであろう現在でさえ、怪我とかめっちゃ痛いんですけど?

殺さないように頑張っただけ褒めて欲しいくらいだよ?

私いつも頑張ってるし、少しくらい暴れたってプラマイ0だと思うもん!

それに、「うるせぇえええっ!!黙って手当てされてろぉ!!」

「…分かった」


途中で遮られてしまったが、言いたい事はほぼ言い終えたので気が済んだ。

このまま言われた通り黙る事にする。


「…」

「…」

「…」

「…」

「極端!!」

「ええ…?」


どうしろっていうんだ…。


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