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無能賢者と魔法と剣  作者: 秋空春風
第6章 賢者と祭典
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異変


皆がお茶を飲み終えたタイミングで、見計らったメイド達がスープを配膳し始めた。

事前に聞いた話では今回はフルコースらしい。


そう、この国にも一応フルコースというものがある。

とはいえイタリア料理やフランス料理のそれとは異なり、三段階しかない。

フランス料理は前菜から始まり、スープ、魚料理、肉料理、ソルベ、ロースト肉、生野菜、デザート、フルーツ、珈琲と連なる一連の料理からなるが、オルナン王国料理は始食、主食、終食である。

…並べるのはよそう。

とにかく、スープなどの消化に良さそうなものが初めに出て、肉料理や穀物類が出る。

そして最後にデザートや紅茶などの口直しが出て終わるのである。

十分だ。

寧ろ私としてはこちらの方が良い。

フランス料理は多すぎるからめんどくさいが、こちらはパパっとでてくるのでやきもきしなくていい。


正直、一応コースマナーは習ったが、本番の晩餐会は立食形式の比較的自由度が高くマナーに関しては緩いのであまり役立たないだろうと思う。

食事のマナーなら今後役立つだろうから無駄知識だとは思わないけどね。


尚、食前のティータイムはほぼお茶談義で使い果たしてしまった。

もっと有用な話をしたほうがよかったかとはチラと思うが、あれでこの場の緊張感というものが雲散霧消したのでよしとしよう。


運ばれてきたのはポトフのような具沢山のスープだ。

コンソメのような香りがする。


「わぁ、美味しそうですねぇ」


ここまで緊張した面持ちだったフレイアが顔を綻ばせる。

やはり自分の専門範囲だと心が和らぐのかも知れない。

蒼龍も始めは表情が少し固かったが今は慣れからか緩んでいる。


若しくは、2人ともーー私の話し口調はともかくーー私達のノリが普段通りなので気が抜けたのか。

ともかく悪いことではないだろう。


全員の席にスープとカトラリーが並べられたところで、主催者であるハミルトンが立ち上がり軽く腰を折った。


「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」


どこまでも穏やかで上品な笑顔と物腰である。

ああいうのを生まれ持っての気品とかいうのだろうな、とぼんやり眺める。


「どうぞお召し上がりになりながらご歓談ください」


ハミルトンは短い挨拶の言葉をさらさらと述べると最後にそう言いい、サッと簡易の食前の祈りを捧げた。

開会の合図だろう。

皆も揃ってそれに続いた。

フレイアと雪久が少々ぎこちないが、付け焼き刃なのだから上出来だ。


フレイアがおっかなびっくりスプーンを摘まみ上げ、そぉっと一口食べる。

その動作の正誤を確かめるようにこちらをチラッと見てきたので微笑みかけると、ホッとした様子で二口目に手を出した。

庇護欲を掻き立てる姿に目を細めだ後は、正面に向き直ると自分も落ち着いてスプーンを手に取る。


カトラリーの扱いなどに特殊な扱いのルールはなかった。

寧ろこの国のマナーの方が西洋のそれらよりも緩いくらいだ。

スプーン、ナイフ、フォークを使って食べる訳だし、食べ易さなどを考慮すればどの世界でもあまり違いは出ないのだろう。


とりあえず細かな決まりがない部分に関してはフランス料理のマナーに準拠する事にして一口。


うむ、コンソメっぽいな。

少々薄味なきらいがあるが、私はこのくらいの方が素材の味を感じられて好きだ。

個人的にはここにローリエやタイムなどの香草を入れたい所だが、まあこのままでも普通に美味しい。

雪久には物足りないかも知れないけど。


二口三口と重ね、半分くらいまで差し掛かった所だろうか。

ふとハミルトンの様子がおかしいのに気がついた。

顔色が良くないし、話をしているでもないのに手が止まっている。


私の心配そうなーー内心は訝しげなーー顔で一点を見つめる私に1人気づいたらしい。

赤黒い髪の男性ーーユージンさんだったかな?ーーがその視線を追った。

その怪訝そうな瞳が一瞬だけ見開かれた。


『ハミル?』

『…すみません、少々席を…』

『大丈夫か?』

『いえ…』


聞こえないが口元が目に見える。

雪久から"無駄に万能"と揶揄される私でも流石に読唇術なんて持ってないけど、これくらいなら誰だって分かる。


体調不良?いや、タイミングが良すぎる。

毒かな?大変だねぇ。

まあ、どうせ解毒用の何かを用意してるだろうから大丈夫っしょ。


まるっきり他人事な感想を抱きながら、不安で気弱におどおどしている風を装って周りをサッと見回した。

毒を盛られたという事は犯人がいるという事だからだ。


怪しい挙動の人物はいない。

当然といえば当然なのだが、宰相閣下の元に見て分かるような態度をとる愚鈍が暗殺に来たりはしないらしい。


ふむ。

対象がハミルトンだけで、尚且つ毒殺狙いなら雪久達に危害が加わる可能性は低い。

ならば私がそこまで気にすることも無いだろう。

いや寧ろ行動すべきじゃない。

敵よりの人間に手札はなるべく見せたくないからだ。


ほら、私はこの場では客だよね?

比較的年少で非力な美少女様だし?

ユージン様達が何とかするだろ、放置放置。


とはいえ、一応念の為に色々考えながら周りの言動や展開を見守ることとする。

カジュアルで良いとの事前説明を受けて、普段使いの鞄を提げてきたことが吉とでるかもしれない。

そう考えながら中身を脳内で反芻した。


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