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蛇の魔女と少女  作者: 佐藤 敏夫
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交流3

 御師様が寝物語を話してくれる。心地よい冷たさのする腕の中で、ワクワクと胸を高鳴らせていたのだが、いつまで経っても話が始まらなかった。どうしたのだろうと思って彼女の顔を見上げてみると、薄闇の中で御師様は虚空を見つめながら形の良い眉を寄せていた。

 やがて、そんな視線に気づいたのか、ユルユルと首を振って小さくため息を吐いた。

「寝物語をしてやろうと思ったが、そんな相応しい話には心当たりはなかったな……」

「折角ですから、なんでも良いから話をしてくださいよ。御師様」

 もうちょっと甘えてみると、やっぱり御師様は面倒くさそうな表情で…… でも、律儀に私の願いを聞いてもう一度思案してくれる。

 なんだかんだ言って、やっぱり御師様は優しいのだ。

 私がジッと待っていると、不意に御師様が私の方を見た。夜空にポッカリと浮かぶ満月を収めたような瞳が私の事を見下ろしてくる。

「それなら…… お前はどんな話を聞いてみたいんだ?」

 どんな話題が良い? すっかり話を聞かせてもらうつもりだった私は、不意に振られた質問に少し困ってしまう。

 本当になんでも良かったのだ。

 御師様の知っている昔話でも良かったし、その場の思いつきの即興話でも良かった。今日あった出来事でも良かったし、明日の話でも良かった。とにかく、御師様が話をしてくれるというだけで、私は御師様のことを知れて満足だった。

「お前は…… そんなに、私のことを知りたいのか……?」

「知りたい! 私、御師様のこともっと良く知りたい」

 御師様はそんな当たり前のことを訊いてきたので素直に応えると、御師様は額に刻んだ皺をますます深くしながらため息を吐いた。再び思案するように虚空を見つめると、諦めたような表情で腕の中に居る私のことを見た。

「あまり…… 面白い話ではないと思うぞ? 私は、少しばかり長く生きただけの蛇だ」

「それでも、聞きたい」

 物好きな奴だ、なんて言われたけれど気にしない。

 蛇のように私に巻かれた腕に手を添えると、御師様の腕が私のことを抱きしめてくれた。

 ヒンヤリとして心地よく、安心できるけどほんの少し息苦しさを覚える、そんな不思議で優しい腕だ。

「話をしているから…… 目を閉じて聞いていろ。なんなら、眠っても構わん」

 頷いて、目を閉じる。

 宵闇の中で耳を傾けると、彼女の蛇の魔女の物語が始まった。


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