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蛇の魔女と少女  作者: 佐藤 敏夫
7/13

交流2

 松明の明かりの下、満月の様な金色の瞳が古書の文章を追っている。私には学がないので、なんの本を読んでいるのか分からない。でも、その擦り切れた本の表紙と時折描かれている挿絵を見るに、読んでいるのは「ニンゲン」について書かれている本だと思う。

 その証拠に、御師様は本を閉じると決まって何かを確認するように私に人間のことを訊ねた。それは主に人間の習慣に関することで、今まで訊かれたことを挙げるのなら「何を食べるのか」とか「どんな場所で眠るのか」とか、とにかく私にとって「当たり前」のことだった。

 そして、御師様は、一通り私に質問を投げると、なにか納得したように手帳に書きつけるのだ。


「御師様」


 私は蛇の魔女のことを、そう呼ぶことにした。

 理由は簡単。「蛇の魔女」というと、なんだか生贄を求めて頭から丸呑みにしてしまうような悪い魔女のように思えるたからだ。

 確かに御師様は魔女で、本当の姿は人なんて家ごと丸呑みにしてしまえそうなほど大きい蛇だったけれど、卵を飲んでは静かに物思いに耽り、時折、私に生きるための術を教授してくれる先生だった。

 一度だけ、御師匠様と呼んでみたことがあるのだけど、御師様は眉根を顰めて「私は自分の為にやっているんだ。誰かを育てるような…… そんなにできた魔女ではないよ」と一蹴されてしまった。

 以来、私は蛇の魔女のことを、そう呼んでいる。

「……どうした?」

 私がボンヤリと隣で御師様のことを眺めていたら、不意に彼女がこちらを向いて首を傾げた。真っ黒なローブの中で、濡れた深緑色の髪の毛がサラリと揺れる。

「ううん、なんでもないです。御師様が本を読んでいるのをちょっと眺めていただけです」

「そうか…… しかし、私が本を読んでいる姿を見ていても面白い物でもないだろう」

 気怠そうな表情のまま再び古書に視線を戻し、早く布団に包まって寝てしまえ、と御師様は言った。頷いて布団にもぐると、彼女は背中越しに「おやすみ」と手を振った。

 彼女の私室に寝台は一つしかない。

 それというのも、御師様の私室は小ぢんまりとしていて、本棚と洋服棚と机を置くと、寝台を二つおくだけの空間がないのだ。

 だから、寝台は私が占領してしまうことになる。

 では、御師様はどこで寝るのかと言うと…… 何のことは無くて一緒の寝台で寝るのだ。最近では、御師様が布団に入るまで布団を温めるのが私の役目になっている。

「……ねぇ、御師様? 一つだけ、お願いしても良いですか?」

 毛布にくるまったまま、ちょっとだけ甘えた声を出してみる。御師様は机に向かったまま、相変わらず面倒くさそうな声で「いうだけ言ってみろ」と言った。

「なにかお話を、してくれませんか?」

「話…… だと?」

 御師様は、はぁ、と面倒くさそうに溜息をつく。

 やっぱり駄目だろうかと内心ションボリしていると、御師様は本から目を離すと首をねじって私の顔を見た。

「たしか…… 人の子は眠るときに寝物語をねだるのであったか?」

 そう言って立ち上がると指を鳴らして松明を消し、私の居る布団の中に潜り込んできた。

 私よりも少し体温の低い、ヒンヤリとした感触が私の身体に絡みつく。身体から少しだけ熱を奪われる感覚は…… どこか心地よささえ覚えた。

「他人に聞かせるような話をしたことはないのでな…… 聞き苦しい所もあるだろうが、そこは我慢しろ」


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