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蛇の魔女と少女  作者: 佐藤 敏夫
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交流

 ニーナを拾ってから数日経った。

 当初こそ常に怯えていた彼女ではあったが、私に害意がないということが分かると、今度は一転して私のことを「御師様」と言って慕ってくるようになった。

 私には「クシャラ」という名前があるのだけれど。元々、長い付き合いになる間柄でもないし構うまい。私にとって重要なのは、彼女の引き取り手が見つかり、再び私の住処に平穏が戻ることなのだから。

 彼女の引き取り手が現れるように魅力的な人物にしなければならないという意味では、そうやって私のことを慕ってくれることは悪くないのかもしれない。

 もっとも私はその分、好きでもない人間の生態について調べる羽目になっているのだが。

 お陰でこの数日間は、専ら人間の生態を学び、住処をニーナが暮らせるように改築してやることとなった。


「よし、これでよかろう……」

「住処が明るくなりましたね、御師様!」

 食堂を増築し、一通り壁面に松明を灯し終えて頷くと、ニーナは大変に喜んだ。私としては、今までのままでも十分だったのだが、ニーナが生活するためには欠かすことができないのだから仕方ない。

 お前のためにやったんだよ、と指先でニーナの額を押すと、彼女は気の抜けたようにニヘラと笑った。

「さて、これからお前の引き取り手を探すためにも、お前には自活できるだけの能力を身に着けてもらわねばならん……」

 気を取り直して彼女に告げると、彼女は笑みを収めて素直に頷いた。素直なことは良いことだ。

「具体的には、知識と技術だな…… これさえあれば、引き取り手は向こうからやってくるだろうし、最悪でも食うには困らない……」

「はい、御師様!」

 彼女はそう元気よく返事をしたものの、一緒に腹の虫も元気よく返事をした。

「……まずは料理とやらを覚えることにしようか」

 彼女は赤面しながら頷いた。


………


 私達はとりあえず、広くなった食堂へと移動する。

 穀物とパンは羊の魔女に融通してもらったし、肉は山で猪を絞め殺してきた物があるので十分だろう。もっとも、丸呑みをしていた私は料理を知らない。なので、私達は本を頼りに料理を作ることになる。

「まずはサンドイッチとやらを作ってみることにするか……」

「サンドイッチ、ですか?」

「パンを切って具材を挟むだけでできるらしい。これなら我々でも問題なくできるだろう……」

 挿絵を見る限り、特別な道具も材料も必要なさそうだ。

 開いた本を指し示しながら「不服か」と視線で問うと、彼女はフルフルと首を振った。それから緩んだような笑みを浮かべてこちらを見上げてきた。

「よろしい。では…… 料理をしてみることにしよう」


………


 料理自体はとても簡単だった。パンを切り、切込みを入れ、具材を挟み込むだけ。しかしながら、彼女は随分と楽しそうに「料理」をしていた。

「ううん、料理自体は別に楽しくないかな」

 私には単調な作業にしか感じられなかったので、つい気になって訊いてみると、意外にも彼女はそんな返答をした。

 そうかと一度は納得したものの、今度はなぜそんなにも楽しそうなのかという疑問が鎌首を擡げてくる。

「それはね、御師様が優しいから、かな?」

「私が…… 優しい?」

 別に私は私のためにやっているだけだ。優しくなんかなかろうに。

 目の前の作業を続けながら告げると、ニーナは首を振ってそれを否定した。

「ううん、御師様は優しい。いきなり人のことを笑ったりしないもの」

「笑う理由が無いからな」

 パンに具材を挟む作業にも一段落ついたので包丁を置く。

「さて…… 味見をしてみることにするか」

 そう声を掛けると、待っていましたとばかりに彼女はいそいそと食卓の準備を始める。

 このサンドイッチとやらは、幾分、丸呑みしにくそうだがここは人に倣って食べてみることにしよう。彼女の後を追って食卓に着くと、早速彼女は手を合わせてサンドイッチにかぶりついた。

「そんなに急いでたべなくても食事は逃げないよ」


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